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拝啓、愛しの男装令嬢〜音楽少年の残念な恋愛奮闘記〜  作者: らめんま。
二章 騎士団生活の始まり
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15 教師と生徒、夕暮れの対人訓練

 

「すみませんクラリスさん!お待たせしました!」


 勢いよく訓練所に入ると、ハリボテに斬りかかっていたクラリスさんがこちらを振り向いて微笑んだ。


「あっ、ルート!大丈夫だよ。ぼくも今来たところだから」


 デートだ。この台詞めっちゃデートだ。でも出来ることなら僕がスマートに今来たところですって言いたかった。遅れてしまって申し訳ない。


「クラリスさんは何をしていたんですか?」

「これを敵だと思って、敵と遭遇した時のことを想定して戦ってたんだ」

「へぇ〜っ、凄いですね!」


 ハリボテがこんなズタズタになるなんて。ボロッボロのカッスカスだ。台座が無ければこれがハリボテだと気付かなかった。これほんとに僕が適性試験の時に使ったのと同じもの?人の形すら保ってないんだけど。


「ふふ、ちょっとやり過ぎちゃった。今日はあんまり対人練習で手応えが無かったから力が有り余ってて」


 なんか怖いこと言ってるけど、ちょっと恥ずかしそうにしてるクラリスさんが可愛いからなんかどうでもよくなってきた。


「今日はお互いハリボテで自主練しようかと思ってたんだけど、ルートさえ良ければぼくの相手をしてくれると嬉しいな」

「えっ、それって……」

「対人練習はもうやってる?ぼくはルートの動きを見て気になる所とか教えてあげられるし、ぼくは身体を動かせるから一石二鳥だと思うんだけど。どう?」


 なんということでしょう。クラリスさんが僕に稽古をつけてくれると。そんなの。そんなの。


『教師と生徒……夕暮れの個人授業じゃないですか……!』


 父さんの部屋のベッドの下にあった本のタイトル。お菓子を拝借しようと床の隠し扉から入った時に発見して思わず熟読してしまった、あれだ。めくるめく教師と生徒の禁断の恋。そして行われる放課後の教室での逢瀬。母さんの部屋に教師っぽい服があった事は見なかったことにしていたが、これは。


「物凄くイイ……!」

「ルート?戻って来て?ねぇルート!」

「すみませんちょっと興奮しちゃって」

「あはは、そんなに武者震いするほどやる気なの?それじゃ」


「いつでも掛かっておいで!」と言いながらクラリスさんは両手に練習用の剣を構えた。

 僕は長い槍を模した棒、彼女は片手に収まる程の長さの短剣が2つだ。リーチの差がありすぎて勝負にならないかもしれない。


「クラリスさんはそれだけでいいんですか?」

「うん、ぼくもルートと同じ棒があれば良かったんだけど生憎今はこれしか持ってないから」


 向こうが圧倒的に不利な状態での対人戦。これは勝ったも同然だ。


『クラリスさん、痛い思いさせたらごめんなさい……!』


 僕は棒を手に、大きく振り被った。


「やぁ!」

「うん、中々良い動きだね」

「せい!」

「身体の動かし方も上達してる。でも……」

「ひぇっ!?」

「脇が甘い、かな……っ!」

「げぅっ!」


 ドスッ、と鈍い音がして腹部に強い衝撃が加わった。


「え……」


 今、いったい何が起こったのか。

 一瞬で懐に入り込まれた。そして……、


『肘だ。肘がめり込んだんだ』


 剣さえも使わず、肘を入れられた。

 腹を抱えて蹲り、げほごほと咳き込む。クラリスさんがジャリ、と土を踏んだ。


「動きが大き過ぎて隙だらけ。それに足元の重心がぶれぶれだよ。ここが戦争だったら真っ先に死んでるよ?」

「そ、んな……」

「ねぇルート、もっとぼくを楽しませてよ!」


 ここで僕ははっと気付いた。


『クラリスさんの声色が……』


 いつもと違う雰囲気の彼女の声に僕はゆっくりと顔を上げ……、驚愕した。


「ふふふ、興奮してきちゃった……!おいで。全力でぼくにぶつかって来てよ。ぼくがめちゃくちゃになっちゃうくらいに!」

『すっごくえっちな顔してる!!?』


 頬を上気させてうっとりとした表情で微笑むクラリスさん。

 何かのスイッチが入ったのか、いつもは優しいはちみつ色をした目が爛々と光り輝いている。それはまるで獲物を目の前にした肉食獣の目のようで……。


『グレンさんが言っていたのはこの事だったのか……!』


 今にも捕食せんばかりに唇を舐めた舌が艶かしい。僕はごくりと唾を飲み、立ち上がった。


「ちょっと!お手洗いに!!!」

「ぼくから逃げる気?」

「ごめんなさい逃げます!!!」


 僕は逃げた。敵前逃亡と言うなかれ。あんなえっちな顔をした好きな子を目の前にして戦いを続けられるような強靭な精神は持ち合わせていない。


「い、()()()ヤバいぞ……!早く逃げなければ……!」

「捕まえた」

「うわああああ!!!??」


 全力疾走していたはずなのに回り込まれた。驚きのあまり僕は膝から崩れ落ちた。


「は、速すぎる……!」

「ふふっ、ありがとう。昔から鍛えてるから、結構足は速いんだ。ほら、ちゃんと筋肉も付いてるでしょ」

「え」


 蹲った先に見えたのは――ズボンを捲り上げ、日に焼けていない美しい太ももを誇らしげに見せつけるクラリスさんだった。


 僕は溶けた。


「ぐぶ……っ!」

「ここらへんにある足の付け根辺りの筋肉を重点的にね……って、ルート!?なんで溶けたの!?大丈夫!?」

「だいじょぶじゃ、ない……です」


 クラリスさんの悲鳴を遠くに聞きながら、僕は意識を手放した。その日はどうやって帰ったか分からないが、後に僕は同室の友人達の前でこう語った。


 脚フェチには刺激が強過ぎる、と。



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