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拝啓、愛しの男装令嬢〜音楽少年の残念な恋愛奮闘記〜  作者: らめんま。
二章 騎士団生活の始まり
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11 前代未聞の団長指導

 先端に刃が付いた長い柄の武器。

 適性試験の直後、アレクさんに連れられて行った武器庫でこれを使えと渡されたのは、ずっしりとした、かなり重量のある槍だった。


「アレクさん、これは……」

「切ってよし、突いてよし、投げてよし!どっからどう見ても槍だな!」

「ですよね」


 いや、めっちゃ長いんですが。

 僕の身長どころかアレクさんの身長も超えているから相当扱いに気を付けないと絶対どこかしらに引っ掛かる。一歩間違えたらザクッと刺してしまう。死だ。先端のカバー絶対無くさないように気を付けよう。


「これ僕が使うんですか……?」


 嘘でしょと言いたい。こんなエモノ、どうやって使えと。


「いずれはな!だけど今はまだ慣れちゃないねぇから……」


「これで練習だ!」と同じくらいの長さのただの棒を渡される。成程、これなら危なくないし長いものを扱うのにも慣れそうだ。本物と比べてみるとどうやら長さと重さは変わりないみたいだ。


「ところで聞きたいんだが、おまえのその魔法って仕組みどうなってんだ?」

「ああ、この魔法はですね……」


 僕の身体は水に変化する事が出来る。つまり更に多くの水を取り込めば身体自体も大きくなるわけで。


 本来の僕は成長期前で身体が小さいので、あまり多くの力が出せない。しかし成人後の大きな身体なら使う体力も抑えられる。この身体でい続けるのは当然魔力を消費するが、僕は魔力量がかなり多いので1日くらいはこの姿でい続けられる。という訳で、力仕事や体力を使う事をする時はこの姿をとるようにしているのだ。


 しかし変幻自在とまではいかず、本来の自分の姿とかけ離れればかけ離れるほど魔力の消費量が多くなるので別人にはなれないのが難点である。


 アレクさんに僕の魔法の事を説明するとアレクさんはふむふむと頷いた。


「なるほどな〜水魔法ってそんな事もできるんだな!」

「普通の水魔法は自身の魔力を元にした水の精製や、水たまりや池なんかの水を使って水柱を起こしたりするのが主ですからね。僕は魔力がかなり強いので鍛えれば割と何でもできると思います」

「でもそれって上級魔法か超上級魔法なんじゃないか?どこで覚えたんだ?」

「祖母の部屋にあった怪しい魔術書を読み込んでたらできるようになりました!」

「なるほど、そうか!」


 アレクさんはにかっと笑った。


「じゃあこれからおまえその魔法使うの禁止な!」

「えーーーー!?」


 突然の成長禁止令。僕のとっておきの秘策が。


「だっておまえ、その魔法が無いと元の身体が弱っちいままじゃねぇか」

「そ、それは……!そうですけど……」

「いくら魔力量が多いからって戦場で、ダンジョンで魔力切れ起こしてでもみろ。あっという間に足手まといだぞ」

「うっ。たしかに……」

「戦争がたった1日で終わると思っているのか?下手すりゃ数ヶ月、1年以上かかる事もある。それに汗かいたりトイレ行ったりする度に身体が縮むんだろ?火を吹く魔物相手なんかだと相性最悪だ。その度に水がぶ飲みしなきゃいけないなんてやっていけないだろ。そしてその水はどこから来る?戦場で水は生命線だ。おまえ1人に水を与えて他の奴らを見殺しにするのか?」

「それは……」


 僕の魔力で精製した水を自分で飲んで成長することは出来ない。質が同じだからだ。ならば僕が精製した水を皆に飲んでもらって僕は普通の水を飲めばいいのではないかと言えば。


「だからその魔力が切れたら成長した姿も維持出来ないだろうが」

「はい……」

「戦死ならまだしも魔力欠乏症でぶっ倒れてお陀仏なんて俺なら死んでも死に切れねぇよ。戦場ではいつ敵に襲われるか分かんねぇんだ。成長した姿を寝ている間も保てるか?」

「……できません……」


 我ながら考えが浅かった。過酷な戦場でいつでも大量の水が飲めるとは限らないのだ。

 今の所魔力欠乏症にはなった事がないが、それは今まであまり動く事がなかったからだ。魔力を体力に変換しているのだから魔力が尽きればそれまで。本来の自分の体力を付けないことには話にならないということに今更ながら気付かされた。


 俯いた頭をわしゃわしゃと撫でられる。雑だけど優しい手付きだ。


「おまえの魔法はここぞという時の切り札に取っておけ。そんで今はおまえ自身の身体を強くしろ。沢山食って、鍛えて、夜は沢山寝ろ!育ち盛りなんだからな」


 前で組んだ腕を指で擦る。細い。筋肉の付いていないひょろひょろの骨と皮だけの腕を握り締め、僕は頷いた。

 変われるのなら、変わりたい。魔法に頼らず自分自身の身体を強くしたい。


 アレクさんはニカッと笑った。


「じゃあ今からこれ持って次の休憩時間まで走って来い!1時間!疲れて走れなくなったら歩いてもいい。ただ絶対に足を止めるんじゃないぞ」

「えっ」



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



「ハァ……ハァ……ハァ……!鬼だ……鬼過ぎる……!」


 夏も近づくこの暑さの中、1時間走りっぱなしで訓練所の周りをぐるぐると走らされた。

 この棒、重いしバランス悪いし持って走っているだけでもかなりの負荷が掛かる。キツい。辛い。しんどい。


「おー!よく頑張ったな!」

「…………」


 アレクさんの励ましにも何も言えず、その場にばたりと倒れる。「大丈夫かー?」とボトルの中の水をだばだばと頭から掛けられ、幾分か身体の熱が放出された。


「アレクさん……これ……」

「おう!これから毎日続けていこうな!そんでだんだん走る時間も伸ばしていくぞ〜」


 ……終わった。


 と。


「あれ、この音は……」

「ああ、休憩の鐘だな!」

「休憩……」


 助かった。僕はこの人に殺されてしまう。


「15分休憩だ!これからもっと暑くなるから水分こまめに摂れよ〜」

「…………」


 アレクさんの去って行く声に返事も返せず、行き倒れの姿勢のまま燃え尽きる。

 この地獄をこれから毎日。


「魔物と戦う前に僕は死ぬんじゃないだろうか……」


 体力の無い己が憎い。僕はずりずりと日陰まで這って行くと、その場で仰向けになってばたりと倒れた。



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



 アレクさんとの特訓を始めてから数日が経ち、気付いた事がある。


「そう!だからここでズン!って感じで……」

「ふむ。……ズン!」

「ああいや違う!ズン!だ!おまえのはヌン!になってるぞ!」

「なるほど!アレクさん!」

「なんだ!」

「分かりません!!!」


 僕は持っていた棒を勢い良く地面に叩き付けた。

 アレクさんは幼い頃から戦闘センスが他の人よりずば抜けており、武道の天才だと言われている。アキドレア騎士団の中で彼と一対一で戦って勝てる者は誰一人として居ないらしい。つまり彼は正真正銘、アキドレア騎士団最強の男なのである。


 だがしかし。


「あははっ。懐かしいなー。騎士学校時代にも後輩からよく言われたぜ!『僕はアレク先輩が言っていることの意味が半分も理解出来ません!』ってな!」

「あははっ今僕もその状態です!」

「そうか!ははは!」


 悲しいかな、天才肌故に人に教えるのが超絶ド下手くそだったのだ。笑って誤魔化さないで欲しい。


「いやーすまんすまん、人に戦い方を教えるのは昔っから不得意でなぁ。ルートは最初来た時は全く体力が無かったから、まずは効率的な体力作りの仕方について教えねぇといけねぇと思って気が急いちまった!」

「ははははは」


 体力作りの仕方などはとても参考になるものがあったが、肝心の戦闘に関しては擬音が多過ぎて話にならない。なんだズン!って。ヌン!になってると言われても何の事だかさっぱり分からない。


『団長が直々に教えるのが前代未聞だって言われてた意味が分かった気がするなぁ……』


 そりゃ説明聞いても誰も意味が分からないんだから未聞である。


 アレクさんは「どうすっかなー」と少し考えるような素振りを見せた後、あっと何か思い付いたように目を輝かせた。


「シーナに教わるってのはどうだ?あいつ人に教えるのめちゃくちゃ上手いからな!」

「シーナさんですか……」


 出会った当初ははちゃめちゃに怖過ぎて苦手でしかなかったシーナさんだけど、適性試験の時頭を撫でられてから少し苦手意識が薄れたような気がする。


 以来、すれ違った時に「シーナさん!お疲れ様です!」と挨拶するようにしたら「貴様はまだ血反吐を吐くほど疲れていないように見えるな。軟弱者め」ってちゃんと返してくれるし、なんならその時ついでに「もっと顎を引け。背筋を伸ばし胸を張れ。そしてよく食べ筋肉を付けろ。骨をへし折られたいのか」という具体的なアドバイスもくれる。やっぱりすこぶるおっかない。でも多分良い人である。


「シーナは厳しいが、あいつの元で鍛えられた騎士は精神的にも肉体的にもかなり鍛えられるから超優良物件な男になるって若い女性達から人気なんだぜ。あとシーナは整体マッサージも出来るんだ。マッサージの後は身体がめちゃくちゃ軽くなるから頼んでみたらどうだ?」

「分かりました!シーナさんの所に行って教わって来ます!ありがとうございました!」

「ただあいつの整体マッサージは死ぬ程痛いから覚悟して……って、あれっ。もう行っちまった。わはは!あいつ足はえーな!」


 善は急げ。母さんがいつも言っている言葉だ。

 僕は棒を拾い上げると三番隊の訓練所まで一目散に駆けて行った。


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