7 金髪おかっぱ頭のご挨拶
空が明るい。ぼんやりと目を覚ましてむくりと起き上がり、そのまま立ち上がろうとして僕は「いだっ!」と頭を押さえた。
『ああ、そうだ3段ベッドなんだった』
上の段からグレンさんのぐごーぐがーといういびきが聞こえる。それに比べて下の段で寝ているはずのノアさんは少し心配になるくらい静かだ。死んでるんじゃないだろうか。
今日は待ちに待った騎士団の訓練初日だ。僕は両手を胸の前でグッと握り締めて気合いを入れ、勢い良く立ち上がった。
「よし!今日から頑張……痛ったーーーー………!!!」
ベッドに慣れるまでにはもう暫く掛かりそうだ。
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僕はずっと忘れていた。存在ごとすっかり忘れていた。
「おはようございますルート様」
「……おはようございます」
「今、あ、そう言えばマイロさん居たんだった……と、思いましたね?」
「いえいえそんなそんな」
正直に言おう、本気で忘れていた。
早くに目が覚めてしまったので訓練着に袖を通し、朝の光でも浴びてくるかとドアを開けると目の前に金のおかっぱ頭が立っていたのだ。びっくりし過ぎて危うく朝っぱらから大声で悲鳴を上げてしまうところだった。
僕と一緒に馬車に乗ってやって来た従者のマイロさん。思い返せばパーティーで会ったのを最後に全く見ていなかった。
「マイロさん昨日パーティーで僕と別れた後何してたんですか」
「私はあの場に留まり団員の皆様と夜中まで飲み比べを致しておりました」
「そうですか」
ここまで潔く職務放棄されるとこちらも何も言えなくなってしまう。まあ別に自分の事は自分で出来るし構わないんだけども。
「本日のご予定は適性試験でございますね。騎馬に乗り剣を振るう一番隊長剣、馬には乗らず素早い動きで敵を翻弄する二番隊短剣、高所から標的を狙って寸分違わぬタイミングで矢を放つ三番隊弓矢の3種類でございます。ルート様がどの適性に当てはまるのか、楽しみにございますね」
「どれも良さそうですけど……個人的にはクラリスさんと一緒が良いな〜……なんて思ってます。えへへ」
そう言えばクラリスさんの適性はどれなんだろう。聞いた事が無かったような気がする。
「クラリス様は短剣を使用される模様ですね。調べによると短剣使いの中でも動きの素早さが断トツなんだとか」
「心を読まないで下さい」
「失礼致しました」
なるほど短剣。ちょこまかと素早く動くクラリスさんを想像したら可愛すぎて奇声を発してしまいそうになり口を押さえる。
もしかしたらマイロさんは飲み比べをしていたと言っていたけど、実は僕の為に情報収集をしていたのかもしれない。そうだとすれば頼もしい限りだ。
「……情報収集も業務の一環です」
「今少し間がありましたね」
「お酒が美味しゅうございました」
「…………」
まあ、結果よければ全て良しだ。程よく付かず離れずの距離を保ちつつ、困ったら彼を頼る事にしよう。
「そういえばマイロさんはどれに適性があるんですか?」
「私は冒険者時代よりレイピアを使用しております。故に長剣かと」
「騎士っぽい……!さすがマイロさんだ」
レイピアとかめちゃくちゃ騎士っぽい。マイロさんがレイピアを構えているのを想像したらあまりに似合いすぎて2度驚いた。
「あれ、ルートくん早いね……」
ぎしりとベッドが軋む音に振り向くとノアさんが顔を出し、眠そうに目を擦っていた。あの後僕が帰って来てクラリスさん談義の続きをしたから疲れているのだろうか。僕は喋り足りなかったんだけども。
「ノアさん。おはようございます!」
「んーおはよ〜今日も元気いいね……って、その人誰?団員にそんな人居たっけ?」
「今日から僕と一緒に騎士団に入るマイロさんです。一応僕の従者なんですけど、昨日は僕の荷物の整理をしてくれていたのであの場では皆さんにご紹介出来ず……」
「従者も一緒に入団かぁ……さすがお坊ちゃんはやる事のスケールが大きいなぁ」
「マイロ・ロッキンソンと申します。以後お見知りおきを」「これはどうもご丁寧に。ノア・リゼットです。寝起きですみません〜」
ノアさんはへらりと笑いながら頭を下げた。ノアさんの名前を聞いてマイロさんが少し考えるように口元に手をやる。
「リゼット……はて、何処かで……」
「グレンくーん。君もそろそろ起きたら〜?……起きないなこりゃ」
ノアさんがはしごを上っていく。すこーすこーと気持ち良さそうにいびきをかいていたグレンさんを「おーきーてー」と揺さぶるが目を覚まさない。ノアさんは溜息を吐いた。
「こうなったら奥の手だな……。……わーっ、ご馳走がいっぱいだー!早く食べないと無くなるよー!急げー!」
「なんだと!?全部オレのだ!!!」
「起きた」
「起きましたね」
食への執念が凄い。「騙したな!」と憎々しげに歯ぎしりしている。どんだけ食い意地張ってるんだ。
「ごめんねグレンくん、でもそろそろ起きようね〜」と言ったノアさんにグレンさんはチッと舌打ちすると、すんすんと鼻を鳴らした。
「知らねぇ奴の匂いがするな……誰だオマエ」
「お初にお目にかかります、ルート様にお仕えしておりますマイロ・ロッキンソンと申します。以後お見知りおきを」
恭しくお辞儀したマイロさんにグレンさんは「ふーん……よろしくな」と短く返した。興味の無さがありありと分かる。
「ほら、早く準備しなきゃ遅れるよ〜」
「くそっ……もっと寝られると思ったのに……」
ぐちぐちと文句を言っていたグレンさんもノアさんが「早く食堂に行かないと朝ご飯無くなっちゃうよ〜」と言うとテキパキと準備を始めた。扱いが慣れているなぁと感心してしまった。
「それでは、私はこれで。また後ほどお会いしましょう」
「えっあっはい」
マイロさん、挨拶だけして帰って行った。やはり行動が読めない。
「準備出来た!行こうルートくん」
僕はマイロさんの背中を見送り、また夢の世界に戻ってしまったグレンさんを抱えたノアさんに言われ頷いたのだった。
ルートの祖父母の話を書きました。
「危険な退屈令嬢にご注意を」というタイトルです。
本編とは直接の関わりは無いですが合わせてお読みいただけると面白いかと思います。




