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拝啓、愛しの男装令嬢〜音楽少年の残念な恋愛奮闘記〜  作者: らめんま。
二章 騎士団生活の始まり
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3 魔女の予言と月光の約束

「魔物が来るぞーーー!!!」

「今までより一層訓練に励めーー!!!」


 どうしてこんな事になったのだろう。


 僕は雄叫びを上げる男達を見つめながら呆然と立ち尽くしていた。



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



「1年後、魔物が来ます」とアリアさんに言った途端。

 俯いたアリアさんの肩が突然震え出したかと思ったら「魔物狩りじゃーーーー!!!!」と叫び出した。


「魔物が来るぞーーーーー!!!!!」

「あ、アリアさん……」

「がっぽりじゃーーーー!!!!」


 だめだこの人お金の事しか考えてない。


「まだ確実に来ると決まったわけでは……」

「でもローゼブル侯爵夫人がそう仰ったんでしょ」

「えっと……はい。僕の1年後に起きる事を占ってもらって……」

「じゃ、間違いないね。君のお母様の占いの噂は私の若い頃から聞いてるけど、たしか今現在に至るまで一度も外した事はないはずだよ」


 確かに外れた事はないけどただの占いなのにこの信用のされ方はなんなのか。こんな辺境にまでも母さんの占いの噂が轟いている。そりゃ他家の貴族にも怖がられるはずだ。


「褒奨金が欲しいかーーーーー!!!!!」

「うぉぉぉぉーーー!!!」

「出世したいかーーーーー!!!!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!!!」


 そして始まる魔物コール。

 魔物が来ると言われると普通怯えるだろう。それがどうだ、この状況。誰も魔物を怖がらないどころか腕まくりして今にも魔物を素手でタコ殴りにしそうな勢いだ。最早この状態の騎士団の元にやってくる魔物の方に同情する。


「八つ裂きにしてやるわーーー!!!!」


 あ、ほら八つ裂きにされるって。


(きた)る魔物到来までに残された時間は少ないぞ!アキドレア騎士団の誇りにかけて誰一人欠けることは許さない!明日からはより一層訓練に励むように!!!」

「ハイ!!!」

『え、えらいことになってしまった……』


 雄叫びを上げる男達を見つめ呆然と立ち尽くしていると「ルート……!」とクラリスさんがぱたぱたと駆けて来た。

 走り方めちゃくちゃ可愛い。じゃなくて。


「一体どうしたのこれ……魔物の情報ってどこから……」

「実はうちの母の占いで」

「それは……!確実だね……」

『そんなに?そんなに確実なの?僕小さい頃から暫く占いしてないから全く知らないんだけど』


 クラリスさんまで神妙な面持ちで頷いてしまった。これは。


「予言の魔女の言う事は絶対だもんね」

「うちの母そんな2つ名付いてたんですか?初耳なんですけど」

「ゆ、有名じゃない……!百発百中、確実に当たる占いで若い頃魔法学校を掌握してたって……!」

「ええ……」


 何してるんだ母さん。

 ていうか僕、母さんのことについて知らなさすぎじゃないだろうか。僕が母さんについて知っていることといえば、一生老けなさそうな外見の美人で妙な御札を作って四方八方に貼り付けて回っていたり、ドレスのデザインをしている社交界のファッションリーダーな事くらいだ。


 あっそうだ、ドレス。


「クラリスさん後で……」

「えっ何?ごめん聞こえない……!」


 男達の雄叫びが凄すぎて聞こえないらしい。僕もそろそろちょっと耳が痛い。


『この場合は必要に迫られて仕方なく、だよね!』


 僕はクラリスさんの耳元に顔を近付けた。


「クラリスさん、後で渡したい物があるのですがこの後お時間大丈夫ですか?」

「ひゃうっ!?う、うん大丈夫だけど……!」

「よかった!それじゃあ後で家に届けに行きますね」


 クラリスさんは耳を抑えて真っ赤な顔でこくりと頷いた。突然びっくりさせちゃってごめんなさい、その顔世界一可愛いです。


 歓迎会から一転、魔物討伐に燃える騎士達の宴になってしまった食堂を見渡す。さっきは無かったはずのビールをジョッキで一気飲みしている騎士の姿も見られる。明日も訓練があるらしいけど大丈夫なのだろうか。


「ぼく達はお酒飲めないしそろそろ耳も痛くなって来たから外に出てようか」とクラリスさんに言われて頷く。パーティーを2人で抜け出すってなんか良い響きだ。


「う〜……全然飲んでないじゃ〜ん!もっと飲みなよガイオスぅ〜」

「アリアさん、飲みすぎだよ。そろそろ休んで」

「あ〜ん?私の酒が飲めないって〜?」

「うーん、お酒臭いなぁ……」


 酔っ払ったアリアさんに絡まれていたガイオスさんに「僕達ちょっと外に出てますね」と伝え、僕はクラリスさんと一緒に食堂の外に出た。



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



「はぁ、うるさかった……。いつもの倍は声出てたよあれ……」

「はは、ちょっと耳が痛かったですね。バイオリン持って来たのに演奏出来なかったなぁ」

「ごめんね……外に出たら静かだから、しばらく休憩してようか」


 クラリスさんに案内されて着いたのは訓練所の近くにある休憩所だった。食堂の喧騒が少し遠くに聞こえる。


 よいしょと長椅子に座ると、クラリスさんも隣に腰を下ろした。いやいやいや近い近い肩と肩が触れ合ってるて。


「ごめんね、うちうるさくて」


 まずい、身体から水分が溶けだしてきた。

 僕は平常心を心掛けた。


「いえ、賑やかないい人たちばかりでしたよ。さっきもアレクさんにお世話になってしまって。アリアさんと顔似てますね」

「ふふ。伯父さんは凄くいい人だよ。……性格もお母さんとそっくりで人の話聞かないけど」

「あ……はは……」


 あれは兄妹共通なのか。待って待ってと言ってもずんずんと歩いて行ってしまうところとか。

「多分一生勝てない」と項垂れたクラリスさんに僕は苦笑いした。苦労してそうだ。


「それで……さ」

「うん?」


 クラリスさんの声のトーンが急に下がった。ぎゅっ、と彼女の手が膝の上で固くなる。


「どうして……どうしてルートが音楽を辞めてまで、こんな所にまで来たのかってことがずっと気になってて……」

「えっ」

「だって何も無いんだよ?ほんとに何も。ピアノだって無いし……」


 さっき宿舎に移動する時無言だったのはそれを考えていたからだったのか。


「せっかく素敵な音楽が作れるのに辞めちゃうなんて勿体ないよ」と言うクラリスさんに僕は首を振った。


「音楽は辞めませんよ」

「えっ」


「音楽は僕の一部だから」と笑うと彼女は「どうやって続けるの?」と不安げな顔をしている。


「アリアさんにもそう言われましたけど、音楽を続けるのに環境なんて関係ないと思うんです」


「寧ろ環境が変わる事によって生まれる音楽もある」と空を見上げる。

 夏が近付いて少し近くなった薄い雲に月が隠された。


「あの空だって、街灯の多い沢山の建物に囲まれた自分の住む街から見るのと、灯りも建物もないこの場所からでは見える星の数も違う。様々なものを見て聞いて、感じて。そして芽生えた感情によって、僕の中から音楽が生まれる。……勿論、クラリスさんも僕に影響を与えてくれてます」


 月が雲の隙間から顔を出した。黄金の月が2人を煌々と照らす。

 少し赤みがかった、蜂蜜みたいな色の……。


「ほら見て。クラリスさんの瞳の色と同じ、綺麗な月」


 僕はそう言って微笑み掛けた。クラリスさんがハッとしたように目を見開く。

 僕は持っていたバイオリンケースを開けると立ち上がり、そっと弦に弓をあてた。


「あ、この曲……」


『月光の小夜曲』。夜に散歩していてふと見上げた時に綺麗な月が出ているのを見て生まれた曲だ。


 あの時出ていた月も、今日みたいな蜂蜜色だった。

 あの日は周りに誰も居ない広場で独りぼっちで、ベンチで丸くなっていた野良猫の為にこの曲を弾いた。

 それでもやっぱり物悲しくて、この曲も少し哀愁を感じるメロディーになっている。


「え、これアレンジ?原曲と曲調が違うような……」


 でも今は満たされた気持ちで奏でられる。

 隣に居る彼女に聴かせるための、美しい旋律を。


 曲が終わり、ふっと息を吐いて微笑む。小さな拍手が上がって、僕は恭しくお辞儀した。


「やっぱりルートは凄いや!ぼく感動しちゃった」

「ふふ、ありがとうございます」

「ぼく、さっきのアレンジ好きだな。なんだか元の曲より温かくて、優しい気がする」

「……それは」


 それはきっと貴女が隣に居たからです、と。言おうとしてやめた。

 代わりに隣に腰を下ろし、微笑む。


「僕が新しく曲を作ったら、一番にクラリスさんに届けます。だからその時は、僕の傍で聴いていてくれますか?」

「勿論だよ!ぼくはきみのファン一号なんだからね」


 弾けるような笑顔が僕に向けられた。ふと彼女の視線が上を向き、僕も一緒に空を見上げる。


「月が綺麗だねぇ」

「……うん、そうですね」


 ずっとこの時間が続けばいいのに。


 そんなことを思っていると、誰かの足音が聞こえて来た。


「……ん?」


 誰か来たみたいだ。振り向くと「ああ、こんな所に居たんだね」とガイオスさんがやって来た。


「ガイオスさん!」

「パーティーはお開きになったよ。正確に言うと未成年は、だけど。食堂ではまだ宴が続いてるね」


「明日も訓練があるんだけどなぁ……」と眉を下げたガイオスさんに何も言えず苦笑いする。アリアさんもかなり飲んでいたし、明日二日酔いにならない事を祈るばかりだ。


「クラリスは……近くない?」

「近いかなぁ」


 ガイオスさんに「もしかしてお邪魔したかな」とこっそりと耳打ちされて「少しだけ」と言うと「ごめんね」と眉を下げられてしまった。良いんですよお義父さん。僕はにっこり首を振った。


「ルートくんの住む部屋に案内するよ。クラリスは……1人で帰れるね?」

「うん。あっルート、さっき言ってたの……」

「はい、また後で」

「ふふ。また後でね」


 クラリスさんは軽く手を振って帰って行った。


「後で……という事は、また後で会う約束をしてたのかな?」

「あっ、ええと……差し出がましいかもしれませんが、母と共同で作ったドレスをプレゼントしたいと思いまして……」

「ドレスだって?それは……喜ぶだろうな」


「ありがとう」と微笑まれ安心する。

 喜んで貰えるという家族のお墨付き。後で持って行った時のクラリスさんの反応が楽しみだ。


「宿舎はこっちだよ」と言われ歩き出す。


 ルームメイトはどんな人達なんだろう。


 僕はわくわくしながらガイオスさんに着いて行った。


今の相関図としては

クラリス(?→)←←←←←←←←←←←←♡ルート

です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 身内贔屓とか誇張とかなしに、ふっつーにめちゃめちゃ凄く面白かった\(❁´∀`❁)ノ 文章も読みやすいし、進化したなぁ〜と感動しました それと、とても面白かったので気づいたら一気読みしてまし…
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