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拝啓、愛しの男装令嬢〜音楽少年の残念な恋愛奮闘記〜  作者: らめんま。
二章 騎士団生活の始まり
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2 歓迎会と挨拶回り

「ようこそ、アキドレア騎士団へ!!」


 パンパンとクラッカーの弾ける音と共に、歓迎の言葉が鼓膜を揺らす。

 ドアを開けた先には、綺麗に飾り付けがされた舞踏会会場程の大きさのある食堂が広がっていた。


「わぁ……!」


 ご馳走が用意されたテーブルの間には大勢の屈強そうな身体をした男性達や引き締まった身体の女性達が並び、歓迎の拍手を鳴らしていた。

 そしてその中心に、このアキドレア騎士団の総司令官、アリア・アキドレア――アリアさんが立っていた。


「よく来てくれたね。アキドレア家当主のアリアがアキドレア騎士団を代表して歓迎の挨拶をさせて貰う。これからここに居る仲間達と共に、鍛錬に励んでいこう」


 クイと横から袖を引っ張られる。クラリスさんだ。こくりと頷き、僕は一歩前へと踏み出した。


「ルート・ローゼブルと申します!本日からお世話になります!精一杯頑張りたいと思いますので、これからご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します!」

「いいぞ〜!」

「任しといて〜!」


 ガバッと勢い良く頭を下げると温かい声が掛けられた。よかった、みんな優しそうだ。


「さぁ、こっちにおいで。みんなで乾杯しよう」


 アリアさんに手招きされグラスを手渡される。グラスの中でパチパチと炭酸が弾けた。


「新しい仲間を歓迎して……乾杯!」

「カンパーイ!!」


 乾杯の音頭と共にグラスを傾け、一気に飲み干す。喉が炭酸でひりひりしたけど気分は爽快だった。


 方々からごくごくと喉を鳴らす音、ぷはぁと早くも飲み干した声が聞こえて来る。そして何処からか「もう一杯!」という声が上がって笑いが起きた。何だか楽しい。


 僕はもう一口グラスに口を付けようとして、真隣から聞こえて来た大きな声に顔を上げた。


「んー!うまい!新入りを歓迎して飲む酒はうまいなぁ!」

『……ん?』


 グラスを煽る騎士達。その中でも一際体格が良くて目立つ人が居た。僕の隣に立っていた男の人だ。

 見上げる程の背丈の、燃えるように赤い短髪。極めつけは見事としか言いようのない肉体美。そのあまりにがっしりした筋肉に驚く。どんな鍛え方したらこんなふうになれるんだろう。

 思わずまじまじとその身体を見つめる。と。


「あれ……?」


 僕はこてんと首を傾げた。

 この男性の顔、なんだかどこかで見たような。あっ、そうだ。


『……この人、アリアさんと似てるんだ』


 鮮やかな赤い髪も吊り目がちなシャンパンゴールドの瞳。たった今歓迎の挨拶をしてくれたアリアさんの特徴とぴったり当てはまる。なんならクラリスさんとも似ている。彼女達の親戚だろうか。


 じっと見つめていたせいでぱちっと目が合ってしまった。シャンパンゴールドの瞳がキラリと光る。あ、やっぱり似てるな、なんて思っていたら「よう、ルート」とゴリゴリに強い力で肩を組まれた。骨砕ける。


「俺はアキドレア騎士団、総団長のアレクだ!よろしくな!」


 総団長。つまりアリアさんの次に騎士団の中で偉い人だ。

 屈託のない笑顔をにっ、と向けられ、慌てて「よろしくお願いします!」と頭を下げる。


「俺はそこでふんぞり返ってる総司令官の兄貴なんだ。気軽に何でも言ってくれよなー」


 なるほど、アリアさんのお兄さん。どうりで似ているわけだ。既視感の正体はそれかと納得する。

 アリアさんに筋肉をもりもり付けてそのまま男にしたような風貌。快活そうな雰囲気は男らしくて男の僕でも憧れてしまう。


「誰がふんぞり返ってるって?」とフォークを手にしたアリアさんにじりじりと詰め寄られて「いやぁ参った、すまんすまん」と笑うアレクさん。とても兄妹仲が良さそうだ。仲良し兄妹だなぁとほっこりする。僕のとことは大違い。


「そんじゃ、今日は各隊の隊長を紹介してやるよ。俺について来ーい!」

「え、ちょ待っ……」


 アレクさんがグラスを一気に煽ってテーブルに置いて歩き出す。

 早い。この人全然待ってくれない。

 慌てて人の間を縫ってぶつからないようにしながら追い掛ける。


「アレクさん……」

「よう、ローグ!新入り連れて来たぜー」

「ん?」


 アレクさんに声を掛けられて振り向いた黒髪の男性は、程よく筋肉の付いたバランスのいいシルエットの美形だった。

 かっこいい。騎士というよりは王子様みたいな爽やかな風貌だ。

「よく来たな」と降ってきた優しい声はまだ若かった。


「アキドレア騎士団、一番隊隊長のローグ・ダイスだ。主に長剣を用いた戦いをする奴らを纏めている。よろしくな」

「よろしくお願いします!」

「よし、次行くか!」


 早っ。


『いや、早すぎるって。あっもう既にこっち向いてない!』


 ずんずんとアレクさんが歩き出し、慌ててローグさんに会釈して追い掛ける。


『速い!圧倒的に歩幅が違うから追い付けない!』

「おっ。シーナとメルバ、両方揃ってんじゃねぇか」

「べふっ」

「お?大丈夫か?」

「す、すみません……」


 急に立ち止まるもんだから止まり切れずに思いっきりぶつかってしまった。

 見事な背筋に打ち付けてしまった己の鼻をさすっていると、「なんだ貴様は?軟弱そうな小僧だな」という罵倒が飛んで来た。


『えっ』


 アレクさんの陰から出て来たのは長い金髪を後ろで一つに結んだ長身で切れ長の目をした女の人だった。


「ひょろひょろと細くなまっ白い。まるでもやしのようだな。炒めて食った方がまだ有効活用できるだろう」


 凄い、全く何も言い返せない。家の敷地内から動かず指先だけを動かして鍵盤を叩いていた僕は軟弱以外の何者でもない。仰る通りだけど言い方がキツい。こんなにはっきり言う人初めて会った。


 小刻みに震えながら恐れ戦いていると、「だめよぉシーナちゃんそんなこと言っちゃ。可哀想じゃないの〜」と雲のようにふわふわとした女性の声が彼女を窘めた。


『救世主……!』


 金髪女性の後ろから出てきたのはストロベリーピンクの髪を三つ編みに結んだ、柔らかそうな雰囲気の女性だった。彼女はにっこり笑って、優しく僕の頭を撫でた。


「素直そうな子〜。肌も真っ白で可愛いわ〜」

『優しい……』


 見た目通り性格もふわっふわだった。

「ルート、紹介するぜ。シーナとメルバだ」と紹介された女性2人、シーナさんとメルバさん。明らかに雰囲気が真逆。北風と太陽。


「自己紹介するか。じゃあシーナからだな」

「……ふん。アキドレア騎士団三番隊隊長のシーナ・キートンだ。弓矢を使う。精々鍛錬に励むことだ」

『怖っ』


 弓矢を使うと言うだけあって射殺されそうな目だ。5秒以上目を合わせたら心臓持って行かれそう。


「何か言いたそうな顔をしているな」

「いいえ!よろしくお願いします!」


 怖過ぎる。すれ違いそうになる度に一々ビクビクしてしまいそうだ。


 刺すような視線を向けられて動く事も出来ず、蛇に睨まれた蛙のようになって滝のような汗を流していると「はぁ〜い、次は私ねぇ」とメルバさんが前に出て来た。やはり救世主。


「私はぁ、二番隊隊長のメルバ・フォセットで〜す。短剣を使って素早く移動する戦闘が得意で〜す。よろしくね〜」

「よろしくお願いします!」

「騎士団は主にこいつらが纏めてる。バランスと筋力と体力重視の長剣と、素早さと瞬発力、機動力重視の短剣、あと一点集中で確実に対象を射止める集中力が求められる弓矢だな。適性試験は明日やるが結果を見てこの3人のどこかの隊に振り分ける」


 つまり、今挨拶した人の誰かに1年間お世話になるということだ。

 相手を威圧して前に立つ人を全員殺しそうなシーナさんと、傷付いた心を癒すお母さんみたいな雰囲気のメルバさん。……あとなんか普通の人っぽいローグさん。


『シーナさん以外ならどっちでもいいな』


 これが母さんがよく言っているフラグとやらでないことを祈る。


「これからお世話になります」と言うと「頑張ってね〜」とメルバさんに頭を撫でられた。優しい。

 シーナさんはと振り向くと既にこちらに背を向けていた。


 取り敢えず、挨拶はこれで終わりのようだ。


「挨拶、結構軽かったですけど……あれでよかったんでしょうか」

「うちは堅苦しい挨拶は基本抜きだ。アキドレア騎士団の騎士になるやつは殆どが平民出身だからな。話し掛けられたら適当に挨拶するくらいで丁度いいんだよ」


「人数多いしめんどいだろ」と言われて面食らった。

 思ったより結構緩い。ギチギチに縛り上げられた上下関係なんかがあるかと思ってたから想像よりも遥かにフランクで驚きを隠せない。

 たしかに面倒な事は省くに限る。社交だってそうだ。ここは僕の(しょう)に合っている気がする。


「王都にある騎士団はそうはいかないだろうけどなー。あそこはお堅い貴族出身、お家柄がいい連中が集められてるから。俺ぁあそこは堅苦しくてどうも苦手だ」


「我が家が一番よ!」と笑うアレクさんの顔がアリアさんにそっくりだ。やっぱり兄妹だなぁなんて思いながらはたと足を止める。


 細められたアレクのシャンパンゴールドの瞳。

 ゴールド。金。

 ……何か、忘れているような。


『あっ、そういえば』


 金髪のおかっぱ頭。マイロさんの存在をすっかり忘れていた。きょろきょろと辺りを見渡すが人が多すぎて見つからない。まずい、馬車から降りてすぐにクラリスさんに連れられて来たから置いて来ちゃったかもしれない。あの人も一緒に入団するのに。


「アレクさんすみません、ちょっと僕人を捜してきます」

「おう分かった。パーティー楽しめよ〜」


 幸い、出入口が近くにあった。


『マイロさんどこ行っちゃったんだろ……』


 扉に手を掛けようとして、スカッと空を掻く。僕が開けるよりも先に扉が開いたのだ。入って来た人とぶつかりそうになって仰け反る。


「すみません……!って、マイロさん!」

「おや、ルート様」


 扉から現れたのはたった今探しに行こうとしていた人物だった。


「まだパーティーの最中のようですが何か外に御用が?」

「マイロさんを探しに行こうと思ってたんですよ。今までどこに……」

「ガイオス様に案内していただき、荷物の積み下ろしを行っていました。ルート様の使われる予定のお部屋に運び全て荷解きし、既に荷物はこちらで整理させて頂きましたので悪しからず」

「さすがマイロさん仕事が早い」


 そういえばガイオスさんに挨拶をしていなかった。挨拶も済ませずマイロさんの案内をさせてしまって申し訳ない。


「マイロさん、ガイオスさんは……」

「ガイオス様ならアリア様のお隣に。私も総団長殿にご挨拶に行って参ります」

「僕はガイオスさんに挨拶して来ます」


 マイロさんがアレクさんの元へ行くのを見届けてから人混みを抜け、ガイオスさんを探す。


「ガイオスさん、ガイオスさんは……あ、居た」


「ガイオスさん」と声を掛けると穏やかな緑色の瞳が僕を捉えた。そして「ああ、ルートくん」と微笑まれる。


「ご挨拶が遅れてすみません……!本日からお世話になります。よろしくお願いします」

「いらっしゃい。入団おめでとう……は、お試しだから少し違うかな。これから一緒に頑張ろうね」

「はい!……すみません、先程はうちの使用人を部屋まで案内して下さったそうで」

「ううん、ああいうのは私の役目だから。ルートくんの部屋は部屋数の都合で3人部屋になるんだけど……ルートくんと歳が近くて素直な良い子達だからきっとすぐ仲良くなれるんじゃないかな」


 3人部屋なのか。同室の人達、どんな人なんだろう。

 ありがとうございますとガイオスさんに頭を下げて近くに居たアリアさんの元へ行く。


「アリアさん」

「ああ、ルート。楽しんでる?ほらこれ食べなよ美味しいよ」

「あはは、ありがとうございます」


 皿を持たされて次々と盛られる。てんこ盛りだ。食べ切れるだろうか。


「これから1年……まあ多分何も起こらないだろうけど、とりあえず生活に慣れて気楽に頑張って行こう」と言われ、僕は母さんの言葉を思い出した。


 死亡フラグ回避、頑張ってね!……と。


「魔物、来ますよ」

「……ん?」

「母の占いによると、1年後、魔物が来るそうです」

「…………」


 カチャーン。

 アリアさんの持っていたフォークが音を立てて落ちた。

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