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いつもいない  作者: 緒仲庵次
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業務と関係のない特別扱いは不満である

 不満を抱えながら仕事するというのは精神衛生上あまりいいことではない。

 会社に出勤して朝礼をしてすぐに外出してしまう安川さんの顔を見るのがボクは嫌になり始めていた。

 朝礼の度に『娘が熱を出したから早退する』とか『遠方の利用者に行って直帰』などの報告を聞くたびに日に日にうんざりしている自分がはっきりと分かる。彼は自分がどこで何をしているのか分からないくせに、他の社員のことは本社にきちんと報告している。


 管理者が直帰をしているのだから、ボクもいいだろうと思い、夕方近くに遠方で訪問が入った際にはボクも直帰していた。もちろん朝礼の時にはちゃんと報告する。安川さんもダメとは言わない。

 この辺の規定は小さい会社なのではっきりしないが、夕方終業時間近くに訪問に出て、行った先が遠方であれば直帰してもいいと思うのは自然なことだ。


 ボクの直帰の話は安川さんを通じて本社に報告されていた。

 別に告げ口されていたわけではない。業務日報としてきちんと書類で提出してあることだから、こればかりは何の不満もない。


『ちょっと話があるんだけど……』


 ある日の朝礼後、安川さんに言われた。

『はい……なんでしょうか?』

『君の直帰の話だけどね。社長がダメだと言っているよ。場合によっては減給も考えると言っているんだけど』


 ボクはそんなに短気な方ではないが彼のこの物の言い方には腹が立った。

 というのも、安川さんと違ってボクの場合は直帰と言っても週1日ぐらいが良いところだったからだ。安川さんも同じように業務日報を上げているはずなのだから、ボクの報告書と見比べてどっちが多いかは明白だ。

 本社が直帰をしないでちゃんといちいち事務所に帰ってこいというのは別に嫌ではない。


 嫌なのは、なぜボクだけがそんなことを言われなければならないのか、ということだ。


『いや……だって安川さんだってしょっちゅう直帰しているじゃないですか』

『ああ、オレの場合は管理者だからいいらしい』

『らしい?どういうことですか?』

『社長が言うには管理者業務の一環でもあるからそれは仕方ないって』


 直帰が関係する管理者業務ってなんだ?

 管理者業務というのは事務所にいてこそできるものではないか。

 分かりやすく言えば、最初に来て事務所の鍵を開け、最後までいて事務所の鍵を閉めることや、社員やパートのケアマネジャーがどれだけ残業しているのか把握すること、そして指定更新などの書類を作成することが含まれる。

 それらはすべて毎日外出して直帰するか早退してしまうような人間にできることではない。


『で……まさか安川さん、それで何も言わなかったわけじゃないでしょうね』

『言ったよ……』

 安川さんの投げやりな口調は言葉とは裏腹に何も言ってくれていないことを意味しているように見える。『何を言ってくれたんですか?』

『いやだから、そのぐらいいいじゃないかと……』

『そのぐらいいいじゃないか?違うでしょ。管理者の判断で許可してるとなんで言ってくれないんですか?』

『だからそれも言ったよ。とにかく話が通じないんだよ。社長は』


 うちの会社の社長は元看護師で女性だから感情的になるところがある。

 自分の気に食わない行動に関しては徹底的にダメだしするのだ。

 でもそれならそれで構わない。

 直帰がダメだというなら直帰しないし、ボクが不満なのはそこではない。実際そんなに業務に支障はでない。


 ただ不満があるとすれば安川さんだ。

 会社が直帰をダメだと言っているのだから管理者が率先してダメだと言われている直帰をするなんて馬鹿げた話はないだろう。


『分かりました。ボクとしては直帰しない方向で仕事しますけど、安川さんも直帰は辞めて下さいね』


 ボクはくぎを刺したつもりだった。

 安川さんは『ああ』と言ったが、この日は『娘が熱が出て』と言って帰ってこなかった。


 事態が大きく動いたのは数日後だった。


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