成果
〈希少スキル《洗脳魔法Lv1》を獲得しました〉
「………」
……いや違うんだよ。決してこれを狙って取得したとかいう訳じゃなくて。たまたま初めて手に取った本がこの魔法についての研究だっただけで。闇魔法の特化版みたいで面白そうって思っただけで。ちょっと使えそうだったから読み込んじゃっただけで。決して下心があったとかリンベルに洗脳プレイとかあんなことやそんなことしたいとかいう訳じゃないんだ、いや本当に。信じてリンベル。違うよ?違うからね?
……というのは冗談で。いや洗脳魔法は冗談ではないけど。
「なかなか見つからないな」
俺の持つ魔法フル稼働で魔法に関するレポートやら古そうな本やらを片っ端から読み進めてるんだが、時間魔法・空間魔法についてのものは見つからない。それ以外なら結構有用そうなやつは見つけてるんだけどなあ。
「属性融合の安定に魔力消費の効率化、イメージ構築の理論と魔法陣による負担軽減……」
俺にとって、魔法を使うことは感覚的なものでしかない。だって理論とか全然習ってないし、全部独学だからな。そんな俺にこういう理論的な内容はかなり新鮮だ。活用できれば魔法の改良にも役立つだろう。属性融合とかもしてたことにはしてたけどかなり適当だったし。というかこの内容も秘匿されるのか?そんなに重要か、これ?
って、そうじゃなくて時間魔法と空間魔法だ。早く探さないと。そろそろリンベルが本を読み終わりそうだし(『魔義眼』で覗き見してる)、それまでに帰らなければ。
「ん?」
そんな時に目に止まったのは一つの……レポート?
それ以外はきちんと丁寧に本棚に収められているのに、これだけは何か無造作に突っ込まれたような感じだ。気になる。大いに気になるな。ていうかこんなのさっきあったっけ?
とりあえず手に取ってパラパラと捲ってみると……。
「……これは……」
内容は、俺の求めていたものそのものだった。
◇
「『お前達は私がここにいたことを思い出せなくなる』、いいね?」
「「……………はい」」
「おお」
さっそく役に立つじゃないか、洗脳魔法。
この魔法、かなり凶悪である。効果を及ぼせる相手はそいつの魔力が術者の魔力よりも格段に低い者に限られてるようだけど、俺は《毒薬作成》で魔力はアホみたいに増えてるから大抵の人、少なくとも一般人には使えるだろう。
そしてその効果は「術者が放つ言葉が『当たり前』だと思い込む」というもの。まあ、つまりはまるっきり洗脳だ。人間、思い込めば何でもできるもんで、『忘れる』と思い込んだら本当に忘れるらしい。資料にそう書いてあった。こりゃ禁術になるわな。怖すぎる。
さて、後処理も済んだことだし、さっさと戻ろう。
「はいどーん」
天井ぶっ壊していくぅ。
「あれ、ユウカちゃん、どこいってたの?」
「ちょっとお花を摘みにね」
「あ、そっか」
まあ嘘なんですけど。
「私の用事は済んだけど、もう帰る?」
「あ〜……帰っちゃおっか。私も丁度これ読み終わったとこだし」
「はいよ」
まあそのタイミングを見計らってたんですけど。
「カメリアは?」
「私はいつでも構いません」
うん、知ってた。
「じゃあ帰ろうか」
「お〜っ!」
「はい」
帰り際に出入口で銀貨2枚が返却された。入る際の徴収は保証金も含んでたようだ。本の持ち出しやら何やらをしようとしたら返されないらしい。もちろん持ち出そうとした本も没収である。ちなみに本を持ち出そうとしたら魔道具で分かるんだと。一冊一冊にGPSでも付けてんのかね。防犯お疲れ様です。
「今日はもう宿に戻ろうか」
「そだね」
割と長い時間図書館に籠もっていたらしく、空はもう薄暗い。まあその分成果はちゃんとあったから良しとしよう。
「明日は第二地区まわろうよ、ユウカちゃん!」
「あれ、第三地区は?」
「ん〜、後でいいかな〜って。今日せっかく第二地区まで来たんだし、その続きしたい!」
「そっか、じゃあそうしよう」
「やっほ〜い!」
「テンション高いねえ」
楽しそうでなにより。
「ほら急ぐよ。もうすぐ真っ暗になる」
「は〜い」
「はい」
「あ、こらリンベル、そんな走ったら危―――」
ドクン
「―――ない……?」
……何だ、今の。
「にゅ?どしたのユウカちゃん?」
「いや、今なんか変な感じが……カメリアは?」
「いえ、何も感じませんでしたけど……」
「そう……気のせいかな?」
「変なの〜」
でも、確かに何か……。
「……あっちの方から……?」
気配を感じた後ろを振り向けば。
王国の中心に聳え立つ、巨大な白亜の城が視界に入るのだった。
◇
『時間魔法・空間魔法、共に『神殿』でのみ獲得できることが確認されている』
『他の機会に獲得した人物は歴史上存在しない』
『『神殿』は各地に点在している』
『『神殿』へ入ることが可能なのは『加護持ち』、『転生者』のみである』
『『転生者』は『神殿』を知っている』
「ふーむ……」
図書館で見つけたレポート……というよりは書き殴りと言った方が正しいか、それにはこんなことが書かれていた。『神殿』、というのはよく分からないが、『加護持ち』というのは分かる。神からの恩恵を受けた者達のことだ。ぶっちゃけて言えばステータスに《〜〜神の加護》がついてる奴はみんな『加護持ち』である。このことから『神殿』は神様絡みだってのは分かるんだけど、問題は『神殿』はなんで作られてんのかってとこなんだよなー。『転生者』も入れて、しかも「知っている」ってのも引っかかる。何?神様からの贈り物ですか?なんのために?てか『加護』ってなんだ?神はなんでそんなことをする?そもそも神ってなんだ?そこまでいくともう本筋からは外れてるが……うーん、前提知識が足りないな……。
「……考えても仕方ないか」
とりあえず情報は手に入った。ご丁寧にレポートには近場の『神殿』の大まかな位置も記されてたし、一回行ってみてから考えよう。いつ行くかは知らんが。
「にゅ〜……」
「眠いんだ。もうおやすみ、リンベル」
「……おやすみなさぁ……ぐぅ……」
今はもう晩飯を食べ終わって部屋でゴロゴロタイム。いつものようにリンベルは早めにノックアウトした。
……ふむ。今なら丁度いいか。
「さてカメリア」
「あ、はい」
「君に渡しておきたい物がある」
「な、なんでしょうか」
「これ……あ、ストックがない。ちょっと待ってね……《毒薬作成》、『賛美の狂歌』『solid』×50っと」
手のひらに生み出されたのは大量の錠剤っぽいもの。ご存じドーピング薬である。ちなみに俺は今でも毎日服用してる。ステータスはいくら上がっても損はないからな。
「それは……?」
「んー……あれだ、飲むだけでステータスを上げてくれる魔法の薬」
「えっ!?」
「これも代償は痛みだけ。君なら使えるだろうさ」
つくづく都合の良いスキルだな、《痛覚操作》。ご都合主義かよ。
「ありがとうございます、そんな貴重なものを……」
「いんや?これは私がいくらでも作れるからそんなに気にしないでいい……、ああそれよりも、いくつか注意点があるんだ」
「というと……?」
「まず、一日に飲んでいいのは十個までだ。それ以上飲んだら最悪死ぬから覚えておくといい」
「なっ」
「いや、十個なのは私だからかも……とにかく、これ以上飲みたくないと感じたら絶対に飲むな、本当に危ないから」
「は、はい……」
これはわりかし最初の方から気づいてたけど、目安として一日に十個以上飲もうとすると身体が拒否反応を起こして飲む気がゼロになる。明らかにヤバそうだから控えてたけど、この前試しに無理矢理11個目を飲んでみたら全身からボキボキ変な音がして血が溢れ出したから焦った。15分間『永劫なる悼み』漬けになってたよ。この薬は身体に負荷がかかりすぎるらしい。
「それから連続で飲むときは間隔を15分以上空けた方がいい、これも危ないから」
「はい……」
この前試しに2個同時に飲んでみたら全身からボキボ(ry。
「とりあえず50個渡しておくから、飲んでおいて。このポーチの中に入れとくよ。この薬は飲めるならメリットが大きいから、欠かさず日々の習慣とするように」
「……了解しました」
なんでそんなに嫌そうな顔をするのかなカメリアさんよ。主に向かって失礼じゃないかい?
「よし、じゃあ今飲んでみようか」
「……ぇ……」
「飲もうか」
「………………………はい」
なんでそんなに間が空くのかなカメリアさんよ。
◆
ドクン
ドクン
鼓動は止まることはない。
『………』
目覚めは、近い。




