報告
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「あ、着きましたよ、リンベル」
「……んにゅぅ……」
「……もう」
リンベルを背負って移動する2時間。ようやく街が視界に入った。
道中何度も魔物の襲撃があったけど、全部蹴散らして進んだ。やっぱりかなり強くなってるな、俺。
で、その途中でリンベルはおねむの時間になった。
いやまあほぼ徹夜みたいなもんだけどさ。子供かって話だよ。お前アラサーだろうが。
「お疲れ様です」
「おー……う?」
もはや形骸化してる門番をスルーして街へ入る。
はあ、やっと終わった。
初めに行くべきはギルドなんだろうけど……。
「まずは……宿かな」
俺も眠い。一旦宿に帰って寝よう。ギルドはその後でいいや。
「リンベルは……連れてくか」
寝てるし。
「あ、おかえりなさい、ユウカさん」
「ただいま、ミカンちゃん」
朝帰りです。後ろめたいことはないよ?
「眠いので部屋で寝てきますね……」
「はぁーい、おやすみなさい、ユウカさん」
「おやすみなさい」
疲れたわ……。
「……なんで大きくなってるんだろう、ユウカさん」
「ミカ〜ンっ!」
「はぁーい」
部屋に到着。
だがベッドは一つしかない。
床に寝るか、一緒に寝るか。
「うにゅ…」
「………」
まあ、いいか。
「はあーーっ」
リンベルを抱えたままベッドに寝転がる。
「あ、柔らかい」
全体的に。むにゅむにゅしてる。
しかもなんかいい匂いがする。
これが女の子か。俺もだけど。
「おやすみなさい、リンベル」
「にゅー……」
よく眠れそうだよ。
「いい抱き枕になるよ、君」
◇
「……ん」
なんか腕の中でもぞもぞ動いてる。
「むぅ……」
「あ」
誰……?
「起こしちゃったか……」
「……ああ」
リンベルか。
「……抱き枕が動いちゃダメじゃないですか」
「えっ、いきなりひどくない!?」
ああ、よく寝た。
「おはようございます、リンベル」
「うん、おはようユウカちゃん。もう昼過ぎだけどね」
「おや」
寝すぎたね。
うーん、リンベルと一緒にいるとどうにも気が抜ける。なんでだろうね。リンベルが底なしのアホだからかな。見た目少し威圧感あるほど美少女なのに。
「じゃあ―――」
ぐぎゅるるるるる
「……ふ」
「………(カァァア)」
「お昼、食べに行きましょうか」
「……う、うん」
まあ、昨日の昼から何にも食べてないからね。しょうがないね。俺も腹減ったよ。
「あっ!ユウカちゃん!どこ行ってた……の?」
なぜに尻すぼみ。
「カレンさん、こんにちは」
「え、ええ……えっと、ユウカちゃん、よね?」
「そうですが」
何か変?
「なんで……大きくなってるの?」
「ああ!」
忘れてた。
「魔物倒したらなんか大きくなりました」
「そんな雑な……」
事実なもんで。他に言いようもなく。
「変わったのは見た目だけですので、お構いなく」
「わ、分かったわ」
分かるのか。俺なら分からない。
「ユウカちゃんはこれからどうするの?」
「昼食をとって、そのあとすぐギルドに行こうかと。報告すべきこともあるので」
「そうなのね。私達はもうお昼食べちゃったから……ギルドから帰ってきたら何があったか聞かせてね」
「分かりました」
なかなか衝撃的ですよ。
「ところで……」
「はい?」
「その抱えてる子、どちら様?ずっと気になってたんだけど」
「ふぇ?」
いや、ふぇ?じゃないよ。お前のことだよ、リンベル。
「この人はリンベルです、ちょっと依頼で知り合いまして」
なかなかハードでしたよ。依頼。
「な、なんで抱っこしてるのかしら……?」
「なんで……抱き心地がいいからですかね?」
もふもふふわふわしてる。柔らかい。
「そ、そう……」
「ではカレンさん、また後で」
「え、ええ、じゃあね、ユウカちゃん」
カレンさんと別れて宿の食堂へ。
さっさと済ませましょ。
「おいしいかな〜」
「……まあ、肉はいっぱい食べられますよ」
「……リンベル……?どこかで聞いたような……」
◇
「おえっぷ」
「……おえ」
いやまあ、そうなるよね。
「さて、私はギルドに行きますけど、リンベルはどうします?」
「う〜ん……着いていってもいい?」
「面白いことはないと思いますけど……」
「他に行きたいとこないしね」
そうかい。
「なら、行きましょうか」
「はいよ〜」
あの死体ちゃんと持ってね?
「ルミルさん」
「あ、こんにちはユウカさん。なんのご用でしょう?」
「えっと、ゴリ……ギルマス呼んでもらえませんか?少し報告したいことがあって」
「ギルマスですね?分かりました、少々お待ちください」
「ねえユウカちゃん、今ゴリラって言いかけごぶふぉおお!?」
勘の良いガキは嫌いだよ。
「リンベル、何か言いましたか?」
「な、なんでもないです……」
よろしい。
「ところでユウカさん、なんで少し……成長?なさってるんですか?」
「さあ、私にも分からないです」
待つことしばし。
「おう嬢ちゃん!どうかしたのか?」
「こんにちはゴ……ギルドマスター」
「あ、ゴリラだ」
ゴリラ登場。
こらリンベル、そんなにはっきり言っちゃダメじゃないか。
「報告です、西の山に迷宮を発見しました」
「何だと!?それは本当か!」
めっちゃ嬉しそうだね。
でもまだ続きがあるんだ。
「それと、その迷宮で魔物氾濫が起きてました」
「な、んだと!?本当か!?」
マジなんですねこれが。
「出会った魔物は全て殲滅してきましたが、まだまだいると思います。全体的なランクはかなり高めで、Aランクも混じって―――」
「ありがとう嬢ちゃん、それだけ分かれば十分だ!」
「え」
「おいお前らっ、飯食ってねえで行くぞ!仕事だ仕事っ!」
「いやまだ話は終わっ」
「俺が殲滅の指揮を取るっ!はははは!久しぶりの実戦だぞっ!」
話聞けやゴリラ。戦闘狂かてめえ。
「さあ行くぞおお!」
「いや待ってください」
「うおっ!?」
ゴリラが着るタンクトップの襟を掴んで引き止める。うわ、なんか汗で濡れてるんだけど……ばっちい……。
「ぐっ、嬢ちゃん力強くないかっ!?」
「話聞いてください。まだ報告すべきことがあるので」
「お、おう、すまん」
ゴリラを掴んだ右手を魔法で洗いながら話す。
「おそらく魔物氾濫の原因であろう魔物を、迷宮中で討伐しました。明らかに自然発生のモノではないので、それを見ていただきたいのです」
「原因?魔物の飽和じゃないのか?」
「迷宮中に魔物が一体もいなかったので、そういうわけではないだろうと推測しました」
「ふむ……それは確かに妙だな。分かった、見せてもらおう」
はよせいや。
「おいそこのお前!現場の指揮任せたぞ!」
「えっ!?」
「よし行くぞ」
「あ、はい……」
すまん見ず知らずのおっさん、飛び火したな。
「行くよ、リンベル」
「はあ〜い」
アイテムボックス持ってきてね。
「では、ここに出してもらえるか?」
「分かりました、リンベルー」
「はいよ〜」
アイテムボックスからグロい死体を放り出す。
「うっ……」
うわくっさ。鼻に刺さる。腐るとこうなるのか……。
「こ、ごれは……」
「も、元々はごれの6倍ぐらいのおおぎざでじだ……わだじの能力でくざってぢいさぐなっでまずけど……」
「おえええ」
臭い臭い臭いっ、これはもはやアレだ、危険物だ。ヤバすぎるだろこれ。あとリンベル吐くな、余計臭いだろ。
「ぐざずぎまずね……『風籠』『突風』」
魔法で隔離、空気を遮断します。からの空気を散らして換気完了。
「お、助かる」
「いえ。それで、おそらくこの……魔物?から逃げ出すために魔物氾濫が起きた、と私は考えたのですが……」
「ふむ……」
じっとアレを見つめるゴリラ。なんか分かんの?
「残存する魔力は膨大……Sランク相当か」
「……へえ」
残存魔力、ねえ。
「それに、これは……」
「人族の人々を合成して作ったのでしょう。戦闘中も全部の顔が一斉に喋ってきて、なかなか……」
うるさくてうざかった。
「そうか……」
何故か考え込むゴリラ。
何?なんかあんの?
「……まあ、嬢ちゃんは当事者か……」
「はい?」
え、なに、面倒事はいやよ?
「実はな、嬢ちゃんが前に倒したゴブリンクイーン、あれにも人工的に能力が付加された跡があったんだ」
「え?」
「こういった魔物の改良や創造は国同士の条約で固く禁じられている。それを破ってこんなことをするとは思えない……」
「はあ」
「しかしこんな短期間で2件も見つかるとなると……可能性が高いのは」
「………」
「一般には公表されていないが、魔大陸で復活したとされる、あの魔お―――」
「あいえその話結構ですそれでは失礼っ」
「えっ、おい―――」
ダッシュ!
魔王なんて面倒くさそうなこと知ーらない!
 




