洞窟という名の
ちょ。
「ああぁぁあああ!」
「ガァアアア、グガァッ!」
「うおわっ」
待って。
「シャァァアアア!!」
「うひゃっ」
キツすぎだって。
「リンベルさんっ、まだですかっ!?」
「ん〜?あともうちょっと〜」
ぶん殴るぞてめえ!
「ガァアアアアア!!」
「こなくそっ」
剣を拳で逸らすとかいう超人的なことをしてみる。なんかできたよ。
「ああああぁぁぁ」
「うわぁぁああ!」
ねっちょりしたナニカを躱す。なにあれ!なにあれ!
「早くしてっ、リンベルっ!」
もうやだ!
今、俺と交戦しているのは3体の魔物。
ベノムサーペント、Aランク。
謎魔物その2、推定Aランク。
レッドオーガ・ソードマスター、Aランク。
こいつらと四つ巴なう。
いや、殺しに来てるでしょっ!
剣技が卓越しているレッドオーガ・ソードマスターに、毒液を吐いてきたり長い身体を活かして攻撃してくるベノムサーペントに、なんかもうようわからん謎魔物。なにあいつっ!
「ああぁぁぁああ」
「のわっ!」
触手!?触手出てきたよ今!?
そして、今こいつらの相手をしているのは、後ろで悠々と採掘しているリンベルを守るため。ぶん殴っていい!?
「ふぃ〜、いい仕事した〜」
「いやっ、早くしてくれませんっ!?」
こちとら必死なんだけど!?
「うんっ、もういいかなっ」
「よしっ、撤退しますよっ!」
「はいよ〜」
そうと決まれば話ははやいっ。
「《毒薬作成》『賛美の狂歌』『gas』っ!」
賛美の狂歌を気体状に生み出す。
そう、《毒薬作成》は好きな毒薬を生み出せるスキルだが、固体液体気体これらも好きに変えることが出来たのだ。気付いたのはつい最近。
そしてこの気体を魔物共の方へ風魔法で流す。
さて、どうなるでしょう?
「あ、ああああああ!?」
「ゴッ、ガァァアオオ!!」
「シャッ!?シャァァアアア!!??」
激痛に苦しんでのたうちまわります。
激痛耐性持ってない魔物にはさぞかしキツイことだろうよ。
ただしこれを倒そうとしてる時にやると、相手のステが1.5倍になる上にめちゃくちゃに暴れまわるので、逆に殺りづらくなります。経験者は語る。
「行きますよっ、リンベル!」
「う、うんっ!」
若干引いてるリンベルはスルー。
急いで魔物の横を通り過ぎる。
15分間、そこで悶てろ。
「うひゃ〜っ!」
おい待ててめえ俺を置いてくな。
◇
「………」
「はあっ、はあっ、はあっ」
………。
……あれー?
「……ねえ、リンベルさん?」
「言わないでっ!私も分かってるからっ!」
さっきから入り組んだ洞窟を行ったり来たり。
わたし、ゆうか=ろっくえでん、どうくつのなかでまいごなの。
いやアホか。
「自信満々に走り出すからてっきりそっちが出口かと思ったら……」
「うわぁぁああん!早く逃げたかったのぉぉおお!」
いやお前悠々と採掘してただろうが。
「リンベルさん、道、知らないんですか?」
「ここに来たの今日初めてだしぃ……」
ならなんでここに来たし。
「だってえ、鍛冶ギルドでここでいい金属が取れるってぇぇええ、聞いたからぁぁぁああ」
いや、半泣きになられても……。
「そもそもなんでここ、こんなに入り組んでるんです?」
「知らないよぉ」
明らかに自然に出来た形状じゃない。迷路みたいになってる。なんだこれ。
「ていうかユウカちゃぁん、なんで『さん』付けで呼ぶのぉ?さっきみたいに呼び捨てがいいよお」
「えぇ……?」
今それ言うの?
「アレは咄嗟に出ただけというか……」
「他人行儀だよぉお」
そこで泣かれても……全く。
「……分かりましたよ、リンベル。これでいいですか?」
「うんっ、それがいい!」
うわっ急に笑顔になるなよ。ドキッとするじゃねえか。
いやまあ、それはどうでもよくて。
「さて……リンベル、ここはどこですか?」
「知らなぁい」
「ここまでの道、覚えてます?」
「あはは」
なにわろてんねん。
「完全に迷子ですか……」
「あはは……どうしよぉぉおおユウカちゃぁぁぁああん!」
いや知らねえよ。
「とりあえず、後ろに戻りますか……」
「そだね〜」
「……はあ」
「ここどこぉ?」
完全にロストしたわ。
「ここの構造どうなってるんですか……」
完全に迷路だ。ぐにゃぐにゃ曲がったり、分かれ道が大量にあったり、前の道と繋がってたり。めっちゃ迷わせに来てるじゃん。
明らかに人工物だよこれ。
「あ、いや……」
そういえば……あったな。こういう構造の、自然物が。
「ここは……」
「あっ!ミスリル発見っ!」
おい。
「リンベル、何やってるんですか」
「え?ミスリルが壁に埋まってるから、掘ってるだけだけど?」
「いや何やってるんですか」
この緊急事態にさあ。
「だってユウカちゃん、ミスリルってかなり希少だよっ?」
「はあ」
「買おうとしたらかなり高いよ?」
「はあ」
「これ採ったら、ユウカちゃんの武器に使うよ?」
「……なるべく早く終わらせてくれませんか」
「ユウカちゃん分かってる〜っ!」
あ、あんたのためじゃないんだからねっ!
……やめよう、なんの需要もないツンデレだ。
それにしても。
「ふんっ、ふんっ」
超踏ん張ってピッケルを振るうリンベル。
だが、洞窟はなかなか削れない。
効率悪いなあ。
……手伝ってやるか。
「……『金属抽出』」
「うわっ!?」
土魔法で壁を分解、金属を分離する。そして手のひらには銀色の金属一塊。
「はい、これでいいですか?」
「えっ、何その魔法!見たことないよっ!すごい便利!」
今作ったからね。
「採り終わったなら早く行きますよ」
「はあ〜い」
どことも知れぬ方向へ。
しばらく歩いて、一言。
「……広くないですか?」
「広いねえ」
端に、着かない。あるはずなんだけどなあ。
「む、行き止まりか」
この道もダメ、と。
「あっ!宝箱だっ!」
「えぇ……」
そこには開けてくださいと言わんばかりの、THE 宝箱。怪しすぎぃ。
「開けちゃお〜!」
「あっ、待っ―――」
絶対なんかあるって―――
「ガブゥゥウウ」
「うぎゃぁぁああ!!」
「言わんこっちゃない……」
宝箱に見えたモノは、実は魔物。ミミックである。
「助けて〜っ!」
「……はいどーん」
「ギュッ!?」
リンベルの右腕に噛み付いたミミックを蹴り飛ばして、リンベルを救出。
「……ちょっと雑じゃない?」
「気のせいです」
話を聞かないで突っ込む馬鹿にはこれでいいんです。
「馬鹿やってないで、他の道行きますよ」
「うぅっ、ユウカちゃんが冷たい……」
踵を返して、別の道を探す。
ただ、ミミック、か。
「もう、確定ですね」
「え?なにが?」
「―――ここ、迷宮ですよ」
◇
迷宮。
迷宮とは大陸全土に散らばる、謎の空間である。
ほとんどの迷宮は地下に広がり、多くの階層から構成されるが、稀に上空へ伸びる塔型迷宮も存在する。階層は迷路型や平原型、その他様々な形態が存在する。また、古い迷宮ほど階層が多くなる傾向がある。
なぜ迷宮が発生するかは解明されていないが、地脈(地中を流れる魔力の筋)に関係があるのではないかとみられている。迷宮中で壁や床が破壊されても、人がいなくなると再生されることが確認されている。
また、迷宮には資源が豊富に存在しており、多くの利益を生み出す。迷宮中の資源が尽きる、ということは今までに確認されておらず、夢のような場所となっている。このことから第一発見者には多大な褒賞金が渡される。迷宮は基本的に国の管理下に置かれることが多い。
ただし、ただ利益があるだけでない。迷宮には魔物が大量発生し、それらが迷宮の外に出て被害をもたらすことが頻発するのだ。それらの魔物は自然発生であるが、その原理は解明されていない。魔物は階層が深くなるほどに強力になっていき、深い迷宮にはSランクの魔物も生息することがある。
そこで出番になるのは冒険者である。魔物討伐のプロである彼らが迷宮に潜って魔物を間引き、資源の確保を可能としている。迷宮探索も、冒険者の主な収入源の一つである。
そしてなぜか迷宮には、冒険者を呼び込むためにあるような宝箱が存在しており、強力な武器や回復薬を手に入れることができる。また、冒険者用としか思えない休憩所が設置されていたりする。このことから、迷宮は人を呼び込む必要があるのではないか、という意見もある。
〜ギルド所蔵『迷宮徹底解説』より抜粋〜