殺戮
殺せ殺せ殺せ。
「ギャッ!」
囲まれたなら、全て斬り殺せ。
出来ないなら死ね。
「しっ!」
「ギッ……」
「ギガッ……」
並列思考全開、身体の制御に回せ。
体勢を崩すな、常に動け。
押し潰されるぞ。
「あ」
ゴブリン・ジェネラル発見。
「――ふっ!」
刀の先から魔力を飛ばして斬る。はい、真っ二つ。
上位種は先に殺せ。そいつらの指揮スキルで雑魚の能力が上がる。
空いている場所へ走る。はい到着。
余裕があるから並列思考を全て魔法の発動へ回す。
多重詠唱だ。
「死ね」
水魔法の波で近付かせない。
土魔法で貫いて足止め。
火魔法で消し炭にする。
風魔法で輪切り。
魔力は絞って撃ってるから消費は少ない。
まだまだいくらでも撃てる。
「……アハッ」
ポッカリ空いた空間。ゴブリンは近づいてこない。
早く来いよ。
来ないなら、こっちから殺す。
踏み込み、風魔法で押して急加速。
「……ギッ!?」
遅えよ。
左右に斬り分ける。
その間も魔法を発動。
後ろのゴブリンに向けて高圧水鉄砲。
「ガヒュッ……」
俺の足元を土魔法で盛り上げて、反動で上に跳ぶ。
ああ、ここからだとよく見える。
落ちる前に全思考で魔法を発動。
全方位、死ね。
「ハハッ」
土の槍を、合計28本。
「行け」
発射する。
それはゴブリンを貫きながら、どこまでも進む。
ゴブリン刺しの完成だ。いらねえ。
「よっ、と」
着地。
……ふう、少し疲れる。
「まだまだ、いっぱいいるなあ……」
数が減っているように見えない。もう200は殺した気がするんだが。
「………」
魔力は半分を切った。
これからは刀が主体で、魔法は補助に回すか。
「さて、次行こうか」
斬れ。
「ギャギャア!」
足を斬れ。機動力を奪え。
駆け抜けながら斬れ。
振ってくる棍棒やら剣やらは避けろ。一撃でも食らったらキツくなる。
「しっっ」
首を飛ばす。
腕を飛ばす。
足を飛ばす。
縦横無尽に駆け回って、的を絞らせない。
周りの木も使って立体機動。なんでこんなこと出来んだ俺。
「せいっ!」
「グガァ!」
ゴブリン・ソードマンを蹴り飛ばして、その隙に腕を斬る。
「ギャァ!!」
「ぐ」
反撃。
腰に剣が掠る。クソッ。
「死ねっ」
「ギィッ……」
俺の身体に傷をつけやがって。殺すぞ。
「ギィイイ!」
「邪魔だ」
雑魚ゴブリンが寄って集って。
多いわ。
ゴブリンの集団に斬り込む。
姿勢を低く。風魔法で体勢を補助。土魔法で足場を作る。
刀に魔力の刃を伸ばして、一時的に長くする。
「っ」
抜刀。足を斬り飛ばす。
「「「ギギィイイッ!?」」」
倒れたゴミは踏み潰す。蹴り殺す。斬り殺す。
「はぁっ、はぁっ」
息が上がってきた。頭クラクラする。腰からの出血が痛いな。
あ、焼こう。
腰を火魔法で焼いて傷口を塞ぐ。これで出血はなし、と。
まだまだ行くよ。
一匹も逃さない。
「アハハッ」
「ふっ、ふうっ、はあっ」
あー、身体重い。
「ギャァ――」
「しっっ」
「ァ……」
さすがに、多すぎる。
「はあっ、ふうっ」
キッツいなあ。
早く、殺させろよ。
「ギャギャギャァアァァハハッ」
さっさと出てこい、クソ野郎。
「一人で隠れてんじゃねえよ」
もういい。
そっちがその気なら。
こっちだって、やってやるよ。
「《毒薬作成》」
手には劇薬。
痛みがノイズになるかもと思って止めてたけど。
もう、気にしない。
今日使うのは、いつもは使わない方の効果だ。
「さあ、ドーピングしようか」
狂歌の時間だ。
ゴクン
名称:ユウカ=ロックエデン
Lv:47
体力:1306/1778(1185(755up)×1.5)
魔力:845/1928(1285(775up)×1.5)
〈《激痛耐性》のLvが10(Max)に上昇しました〉
〈《激痛耐性》が進化します〉
〈特異スキル《痛覚遮断》を獲得しました〉
痛く、ない。
身体が軽い。
魔力も増えた。
これで。
「殺せる」
「ぐふっ、ハハッ、アハハッ、はあっ、アハハハハハ」
笑いが止まらないね。
身体が動く。思った通り、いや、それ以上に。
「アハッ!」
「ギャ!?」
「グゲッ!?」
右手に持ったゴブリンの頭を支えにゴブリン2匹を蹴って切り裂きながら、右手の頭蓋を握り潰す。
視界の外のゴブリンは風魔法で微塵切りにする。
「くくっ、はあっ、はっ」
全身かすり傷だらけ、血が流れすぎた。
魔力もほぼ枯渇してる。
息も絶え絶え。
でも。
ああ、楽しい。
もう、残るゴブリンはわずか。
そろそろ、出てこいよ。
「グギャァァァアアア!!」
「……はっ」
こんなにお仲間が死んでから、ようやくおでましか。
お前がもっと早くから出てれば、こんなに死ぬことはなかったのにな。
馬鹿が。
魔法を発動、残りのゴブリンを全て焼いて潰して切り裂いて貫いて殺す。魔力は切れた。
……はは。
「これで、お前一人だな」
「ギギギィャァアャァアア!!!」
ぷぷぷ、何その声。
お前がけしかけてきたんだろうが。
返り討ちにあっただけだろ、逆恨みすんなよ。
まあ、よくもまあこんなに数揃えたもんだけど、使い方が悪すぎるよ。
全部、お前の責任だ。
「早く、死ねよ」
俺は、お前みたいな奴が大嫌いなんだ。
他人にやらせて、自分は何もしないような。
「この、臆病者が」
「ギィィィィイイイ!!」
こちらに向かってくるゴブリンクイーン。
速い。
速い、が。
俺の方が、少し速い。
「………」
納刀。
集中。
「………」
今だ。
「――ふっ!」
一閃。
「ぐっ!」
腕の肉を噛みちぎられる。いってえな、クソが。
だが。
「ギィャァァァォア!!」
「足、もーらい」
両足をぶった切った。これで歩けないだろ。
「ギィィッ!ギギャァァイ!!」
「うるさいなあ」
黙れよ。
腕も斬り飛ばす。
「ァァアアアァァ!!」
「なあ、お前のせいで俺、こんなになっちゃったんだけど、どう責任取ってくれんの?」
耳を削ぐ。
「ギィッ、ガァイ!!」
「しかも俺今苛ついてんだよ、これもお前のせいな」
鼻を削ぐ。
「ギガァァアアッッ!!」
「だから、ちょっと」
刀を胴体に刺す。
「お前で、ストレス発散させろ」
刀を揺らす。
「グァッギャァァアァアアアア!!!」
責任、取ってもらおうか。
「……ふうっ、ふう」
ああ、スッキリした。
うん、ちゃんと一匹も逃がさずにぶっ殺せたな。合格。
それにしても……。
「はぁっ、はぁっ」
ちょっと、疲れたな……。
「おっ、と……」
立ってられないな……。
「ふう、はあ」
ははっ、ゴミを処分するだけでこうなるとは。情けない。
「はあ……」
ちょっと、血が足りないな……傷が多すぎてどこから流れてるのかわけわからん。
意識が……まずいな……俺も、死にそう……。
「クソが……」
ちくしょう……。
あ、薬草持ってる!
◆
「ギガァァアアッッ!!」
「何っ!?この声!?」
「ゴブリン、でしょうか……苦しそう……」
3日かかる予定だった依頼を巻きで終わらせて、2日目の真夜中に帰ってきた竜の咆哮。
帰路の途中で、森から再び叫び声を聞く。
「……ゴブリンじゃあどうでもいいわね。急ぎましょ」
「まあ待て、カレン。一応確認しに行こう。ギルドに報告すべきことかもしれないだろ」
「それがいいな」
ゴブリンと聞いて帰ろうとするカレンを、アレンとゲイルが止める。
「よし、じゃあ行くぞ」
「ああ」
「はい……」
「わかったわよ…」
こうして、彼らは森の奥へ進んでいく。
「ゴブリンが……少ない、というか、いない?」
「確かに、全く会わないわね」
明らかな異常事態である。
ゴブリンはいくら駆除しても、いくらでも湧いてくることで有名な魔物。それが一匹も見られないというのは、ほぼありえない。
「グァッギャァァアァアアアア!!!」
「……先を急ぐぞ」
「ええ」「ああ」
そこに存在したのは。
充満する血の匂い。
木々が倒され、開けた空間。
灰や、水たまり。
散乱する、千を超える死体。
そして、一人の少女。
「……あれ……みなさん……なんで、いるん、ですか……?」
「なっ…」
「ユウカちゃんっ!?」
彼らが保護していた、ユウカ=ロックエデンだった。
彼女の様相は、満身創痍。
身体に傷のついていない箇所はなく。
特に左腕は千切れかけている。
大きな傷口は、焼いて潰したのか、焼け爛れている。
そして、気休め程度に薬草が全身に貼られていた。
ただし、それが彼女の命を救っているようだったが。
「リュエルっ!早くっ!」
「分かってますっ……!」
リュエルが急いで回復魔法を唱える。
「『光神の名のもとに祈る、神なる光よ、その子を救い給え、《神聖なる癒光》』!」
その瞬間、ユウカに暖かい光が注ぐ。
すると、彼女の出血が止まり、小さな傷は治っていった。
「これは応急処置ですっ……、早く街に戻りましょう……!」
「分かったわっ!」
カレンとリュエルはユウカをそっと持ち上げて、街へと走り始める。
「…ありがとうございます……カレンさん、リュエルさん……これなら……」
そこで、ユウカが意識を失う。
「っ、急ぐわよっ!」
「はいっ……!」
「あっ、おい」
慌てて男達も追いかける。
「……なあ、アレン」
「なんだ、ゲイル」
「……アレは、ユウカがやったのか?」
「……わからん」
彼らは、ユウカの周囲にあった、異常な量の死体と。
全身を解体され、苦悶の表情を浮かべて死んでいた、ユウカのすぐ近くにあった、かなり大きいゴブリンの死体を思い出ししていた。
「……とりあえず、戻るぞ」
「……ああ」
あれを、あんな幼気な少女が為したと考えると、得も言われぬ悪寒を感じる彼らであった。