失態
クソッ。
「ギッ……」
あーもう。
〈《火魔法》のLvが3に上昇しました〉
〈《水魔法》のLvが3に上昇しました〉
「ギャァア!」
「ガッ……」
〈《風魔法》のLvが3に上昇しました〉
〈《土魔法》のLvが3に上昇しました〉
〈《魔力操作》のLvが3に上昇しました〉
いくらなんでも。
「っ、ふっ!」
〈《見分け》のLvが8に上昇しました〉
「ゲャッ…」
「ヒュッ…」
〈《並列思考》のLvが6に上昇しました〉
多すぎる。
〈《刀術》のLvが5に上昇しました〉
「ギヒッ」
斬っても斬っても。
「ギィィイイ!!」
焼いても潰しても輪切りにしても貫いても。
「グゥァグァ!」
「ギャァィ!」
〈《火魔法》のLvが4に上昇しました〉
〈《水魔法》のLvが4に上昇しました〉
〈《風魔法》のLvが4に上昇しました〉
〈《土魔法》のLvが4に上昇しました〉
〈《魔力操作》のLvが4に上昇しました〉
どっからでも湧いてきやがって。
〈《並列思考》のLvが7に上昇しました〉
「ガァァア!」
邪魔だよ。
〈《刀術》のLvが6に上昇しました〉
〈《見分け》のLvが9に上昇しました〉
「ギャギャギャァア」
早く、死ねよ。
◇
――――10時間前、森への道中。
いやあ。
マジ暇。
何やってるって、走ってるだけだからね。
だからさ。
「ほいほいほい」
魔法のお手玉とかも始めちゃうんですね。はい、火水風土、全ての玉を揃えてますよー。全部無詠唱ですよー。
そう、魔法だよ魔法。
これね、前から変だなーとは思ってたんだよ。カレンさんの説明を聞いたときから。
カレンさん曰く、魔法には詠唱が必須らしいって話だ。
でも、ここで思い出してほしいのは、女神の領域での魔法の説明。
詠唱が必須なんて、一言も書いていなかった。
そこで俺はこう考えた。
この世界の住人が、詠唱が必須だと思い込んでるだけだ、ってね。で、なんでそう思ってんのかなと考えて、詠唱がイメージをサポートしてるんじゃね?と思ったんだ。
よくラノベで言うように、魔法にはイメージが大切そうじゃん?
で、並列思考の一つを魔法のイメージに全振りしてみたら、見事無詠唱で魔法が発動できた。意外と簡単だったよ。
やったね、これでまたこの世界で俺のアドバンテージが増えた。
「ほいほいほい」
お手玉楽しい(脳死)。
走り始めてからだいたい40分くらい。
やっと、森が見えた。
「ふうっ」
息は、少し上がるだけ。かなり速く走ったんだけどなあ。
「人、辞めてきたね」
あ、人じゃねえ、神族だったわ。
受けた依頼はゴブリン討伐。
向かった先はゴブリンの森(正式名称です)。
つまり、何が言いたいかというと。
「いや、ガッポリですわ」
「ギィッ!」
「ギャッ!」
「――ふっ」
一閃。
2匹のゴブリンが上下に分かれる。
つついてみる、返事がない、ただの屍のようだ。いや当たり前だね。
うん、いい感じ。
このように、ゴブリンがいっぱい寄ってくる。稼ぎ時だね。
「……うへえ」
そして、ゴブリンの討伐証明部位は、右耳。
これをわざわざ切り取らなきゃならない。いや、効率がいいのは分かるけどさ……耳塚とかあるとか聞くし……でも、あんま触りたくないなあ。臭そう。
でもやらないわけにはいかないから、風魔法で切り取って、風魔法で持ってきた箱に入れる。ん?触るわけないじゃん、あんなの。
「見分け見分け見分け見分け見分け見分け見分け見、あ、薬草発見」
ついでに受けた薬草採取もやる。
ガッポガポですわ、笑いが止まりませんわ。
「あ、あっちにも。あっ、こっちにも」
止まりませんわ。
「ギギギィ!」
「邪魔」
「ギッ……」
ゴブリンは風魔法でスパン。ついでに耳回収。
「もっといこう。ガンガンいこう」
薬草と耳を求めて!
〈《見分け》のLvが6に上昇しました〉
〈《見分け》のLvが7に上昇しました〉
◇
薄暗い森の中に、佇む少女が一人。
彼女の目の前には白い花。
そしてその彼女は、血に塗れる。
その花は、誰に向けたものなのか。
彼女は今、何を思っているのだろうか―――
何も考えてないです、はい。
「やりすぎた」
日が傾いて、空は夕暮れ。
目の前には薬草の山。ここら一帯は取り尽くした気がする。自然破壊だ。
そして周りは血の泉。ゴブリンが寄ってきたのを全部倒してたら、相当な量になっちゃった。おかげでワンピースも返り血塗れ。これはもう、捨てかな……着てくるべきじゃなかったな……ごめんカレンさん。
まあ、それは置いておいて。
「さて……」
この薬草、どうしようか。
持ってきた箱はもういっぱい。手で抱えて持ち運ぶにも、なんかめちゃ零れ落ちそう。
「……あ」
魔法で運べばよくね?
さっそく土魔法で台車を作る。ツルッツルの表面にすればタイヤも回るでしょ。
「お、いい感じ」
これで行こう。
……あれ。待って。
「ここ、どこ?」
わたし、ゆうか=ろっくえでん、もりのなかで、まいごなの。
いやアホか。
いやアホか。
大事なことだから2回言っちゃうよ。
魔物がうろつく森で迷子とか笑えねえ。
どうしよう、いや真面目に。
空はもう暗い。今から動くのは危険か。……なんか暗闇でも目がよく見える気がしないでもないが。
いや、魔物の領域に留まる方が危険か。
うーん……。
「とりあえず、ここから離れるか」
周りのゴブリンの死体からの血の匂いしかしない。
臭いし、これじゃあ他の魔物も引き寄せる。早く離れよう。
薬草を台車に乗せて、いざ出発。
……どっちに?
「……よし、あっちに行こう」
勘だ、勘。
わたし、ゆうか=ろっくえでん、もりのふかいところにきたの。
いやアホか。
もう真っ暗になった空の下、俺は途方に暮れる。
いや、途中から分かってたよ。こっち方向じゃないって。だってなんか木々が生い茂ってたんだもん。明らかに森の深層まで来てるよこれ。
「ああぁぁぁぁ……」
最初の冒険から波乱万丈だな……。
「とりあえず戻るか……」
そう思い、踵を返して歩を進――――
ぷぅ〜ん
「ん?」
なんだこの匂い。
どこから漂ってきてんだ?
「嫌いな匂いじゃないけど……」
それに、なんだろう、すごく気になる。
何でか分かんないけど、すごくそっちに行きたくなる。
「とりあえず、行ってみるか……」
歩く方向を、変える。
頭がボーっとする。
何も考えられなくなってくる。
なんでだろう。
分かんないな。
でも、とりあえず、あっちに……匂いのする方に……。
もっと……近くに……。
「いやウ○コかよっ!!!!」
〈スキル《魅了耐性Lv1》を獲得しました〉
渾身のツッコミが入ったよっ!
いやウン○かよ!なんでだよ!なんで俺はこの匂いに引き寄せられてんだよ!バカかよ!ウン○かよ!そうだよ!
……ん?魅了耐性?
……おや、これは、もしかして俺、罠に、かかった?
「ゲゲギャギャグギャ」
その時、後ろから聴こえてきたのは、さっきまで何度も聞いていた声。
だが、その声音は、嘲りに満ちていて。
「……はぁ?」
―――お前、俺のことを、笑ってんのか?
振り返れば、そこには普通のゴブリンよりも、一回りも二回りも大きいゴブリンが、こちらを指差して、笑っていた。笑っていた。笑っていた。
「………」
―――ギャハハハハ!お前にはそれがお似合いだよっ!アハハハッ―――
「………」
……アハッ。
「おい」
お前。
「俺を、笑うなら」
覚悟しろ?
「――――ぶっ殺すよ?」
「ギャァァァァァアアア!!!」
そのゴブリンが叫び声を上げると、どこかに隠れていたのか、ゴブリンが大量に集まってくる。
数は、数えるのも不可能なほどに。
「……《見分け》」
名称:ゴブリンクイーン・ファシネイト(異常種)
「……アハッ」
分かったよ。
そういうことなら。
お前は敵だ。
「全員、ここで、全力で、ぶっ殺す」
敵は、殺せ。
『『『『「一匹も、逃さない」』』』』
さあ、殺戮の始まりだ。