表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

「4」

稲荷遣、相棒と合流し、怪異を探しに行くこと

「所で気付きました?」

「何に?」

お紗和さんは聞き返す。

「この板張りの部分、下が空洞です」

私はトントンとが踵で板を踏む。

「恐らく地下がある。さっきお紗和さんの言ってた化け物の墓ってのが、どうもこの下に本当にありそうだってことです」

私は屈んで板の隙間に手を翳した。微かに風がある。

犬も私に倣ってクンクンと鼻を鳴らして隙間に鼻を突っ込むと、途端に唸り出した。私はお紗和さんを向き直る。

「お紗和さん、これは賭けですが、一か八かこの怪異の根源たる海坊主の赤子に会いに行ってみませんか?」

お紗和さんは目を剥いた。


それもその筈だ。

そもそも怪異は触れては行けない物だ。

霊障れいしょうなどの祟りを恐れるのが当たり前なのだから。祀ると見せ掛けそっと閉じ込めて封印して置くのが良いのだ。


しかしこれは…

今回のこのケースは…

「お紗和さんから始まってしまったのでしょう?」

私は確信を突いてみた。


赤ん坊と犬は不思議そうに私とお紗和さんを見比べる。

お紗和さんは赤ん坊の小さな手を暫く眺めていたが、ポツリと呟いた。

「あんたにゃ敵わないね」

「なんとなく…ですよ」

「謙遜しなさるな。あんたの力は本物さボーヤ」

お紗和さんはようやく顔を上げ私を見つめる。

「どこで気付いた」

「宿で私のツレを誘惑した女の事を話した辺りで確信しました。その赤ちゃんは、その彼女の子、そして、そのさそはあなたの娘でしょう?…数年前の事件の時に小屋から放り出されたと言う」

「反論しようがない。その通りだ」

お紗和さんはどっと疲れた顔になる。

「あの娘は私が東京へ逃げる道中で子供が出来ない裕福な夫婦に会ってね。どうしてもと頼まれたので預けたんだ…あたし一人でなんとか生活出来る様になったら迎えに来るつもりだった」


「夫婦とは何年も手紙のやり取りをしたんだが、ある時プツリと先方から連絡が途絶えたので奇妙に思ってね…慌てて屋敷まですっ飛んでいった。そしたらねぇそこのご亭主が殺されてたのさ。奥さんとあたしの娘は行方不明になっていた。そう連れ去られたのさ」

「連れ去られた後に此処でその巫女とやらに?」

「そうだね。あたしゃてっきり殺されてると思ってた。贄船にえぶねに乗せられたんだとばかりね。あの屋敷の奥さんと一緒にだよ。でも違ったのさ。奴等は娘の持つ…あたしと同格の力を欲しがってたんだろう」

お紗和さんはそこではたと眉をしかめ

「…いや、違う…あたしと同格なんかじゃあない」

と己を否定した。

「どういうことです?」

「…あの娘の能力はあたしなんかよりずっとずっと上だ…忌み嫌っていたこの村にフラリと帰ってきてしまったが…」

「呼ばれたんじゃあ有りませんか?」

私の言葉にお紗和さんは頷いた。

「だろうね。きちんと自分の行いの始末をしろってこったろう」

お紗和さんはキッと私の目を見据える。

決意が浮かんでいた。

私は微笑みで返すと、直ぐに板張りの部分を力任せに外しにかかる。

板張りの部分は土が被っていて、長年動かしている気配はない。そうそう簡単に取り外せそうにはないが、入り口は固く閉ざされているし此処が唯一の出入口と信じるしかない。必死で土を削り始めると犬が傍に来て一緒に土を掘り始めた。

「賢いなお前」


十分位、堀削って、一本がようやく取り外せそうだった。時間はかかるがやるしかない。こんな時に赤樫が居てくれればと溜息が出た。情けない事だが力の面ではやはり赤樫には敵わない。頼りになる存在だと痛感せざるを得ない場面だ。

ため息をつき額を拭った時、背後に熱気を感じる。


「難儀してんなぁ」


聞き覚えのある声。後を振り向くと、格子戸から筋肉のしっかりと着いた腕が二本ニョキリとはえていた。

「手伝ってやろうかぁ?」

「伊三郎!?」

「おう」

ぶっきらぼうな返事。

「この人がボーヤのツレかい?」

とお紗和さん。

「ええ、赤樫伊三郎です」


「そうかい…。赤樫さんよ、話はいろいろボーヤから聞いた。無事で良かった、よくあのコにたぶらかされなかったねェ」

「アレか、ウリに来た女にか?」

赤樫は格子戸から腕を引くと鍵と鎖ががっちり掛かった扉に向かう。


「三鈴に濡れ場見られた後、俺が正気に戻っちまったらよ、逆にこっちの正体がバレたみてえだ」

アハハと声をあげて楽しそうに笑いながら、赤樫は扉の方へ向かう。その時、チラリと格子戸の隙間から見えた赤樫の笑顔の口の中から鋭く尖った歯がチラリとこぼれている。

「身を翻して恐ろしい速さで逃げられちまった。あんまり様子がおかしいから俺も後を追っかけて来たのさ。そしたらここに三鈴の気配があるもんだからよ」

言いながら鍵を握る。

ゴキャリと音がし、格子の隙間の向こう側に金属片がばらばら落ちるのがみえた。続いて鎖をじゃらじゃら音をさせ握った後に、思い切り引きちぎる。つづけざま、赤樫は構えを取り助走をつけて格子戸を蹴破って入ってぶち壊した。

「ヨォ、二時間ぶりってとこかァ?」

土煙からぬっと現れ、笑った。

「伊三郎」

「まぁ…さっきのアレのお小言は後にしてよ、なんだ、宝探しでもおっぱじめたのか?」

「だったら良いんですけどね」

犬は余りの出来事にしっぽを丸めて私の後ろに隠れている。大丈夫と頭を撫で、赤樫に言った。

「伊三郎。早速で申し訳無いんですが此処、ぶち抜いて貰えます?」

板張りの所を指さすと赤樫はヤレヤレと頭を搔く。

「ったく三鈴は人遣いが荒い」

言いつつ板張りの所へやって来る。

退いてろと手で合図し私達を壁側に寄せた後、思い切り空中へ飛び上がったと思うと両足で板へ向かって足を思い切り伸ばした。

たったの一撃。バリバリ音を立て破れた木っ端と共に赤樫が消えた。


「伊三郎ッ!」

土煙と埃の舞う合間を縫って口を開けた穴の中を覗き込む。穴の中は暗く丸で底無しの様に見えた。が、奥底でチラリと赤い光が2つ揺れる。伊三郎の瞳の色だ。暗闇に行ったり感情が昂ると光る。

「まるで灯りがねぇや。俺は暗闇でも問題ねぇが気を付けて降りてこい。壁に沿って階段があるだろ」

「本当だ」

幅50cm高さ30cm程の危なっかしい階段が螺旋状に穴の暗がりへ続いている。犬が間髪入れずにその階段を下って先陣を切った。

「お紗和さん」

振り向くと彼女は無言で頷いた。決心は揺らいでいないようである。

私達は共に階段を降り始めた。


ようやく降り立った場所の足元はくるぶしくらいまで海水だった。

穴の深さは5メートルほどか。思った程深くは無いのだろうが、外の雨や室内の奥にある穴ということもあってほぼ暗闇だ。

赤い2つの小さな光が暗闇で赤樫の瞳がまた揺れる。

あの白布の怪異も赤い光の瞳だが、赤樫の色とは何かが違う。危険かどうかの違いなのだろうか。

赤樫の赤い光を頼りにそばまで行く。


「おい三鈴、あれ、やれよ」

「うん…」


私は左の手を伸ばして力を一度篭める。

チリ、と空気の揺れる感覚。

お紗和さんのエッという声が響く。

私の腕がふわりと金色の光りを放っているからだ。鼻面と尾の長い小さな炎の獣が私の腕をくるりと軽やかに走り、ソコから金色の炎がぶわぁっと花咲いた。

左の目からも金色の光が零れ空中に湧き出す。


「ボーヤ…アンタ!」

お紗和さんがなんとも言い難い表情で私を見た。

私は自嘲しながら微笑む。

「さっきお話ししたあの日受けた怪異の後からこんな体質になっちゃいました」

「三鈴」

赤樫がスッと木っ端を幾つか手渡してきた


「これに炎を移してくれ。この窖のポイントに置いていく」

頷いて木っ端を受け取り炎を移す。

それを赤樫に手渡すと、彼はマジマジとそれを見ながら

「何度見てもカラクリが解らねえな。まるで熱くねえってんだから」

「熱くないのかい?」

赤樫は「ん」とお紗和さんにそれを手渡す。

「本当だ」

とお紗和さんも彼女の抱く赤ン坊も不思議な顔をした。

「形のある物になら暫くは炎が移るらしい。原理は全くわからんが」

ぶっきらぼうながら交流は持とうとしているのがこの男の良い所である。


しかしあの巨大な岩の下にまさかここまで深い磐座いわくらがあるとは…。

私達は足元にヒタヒタと寄せてくる薄い海水の小さな波を蹴り分けて奥へと進んで行く。


その時、赤樫が足を止め、左手で私たちを止めると、言った。

「待て、なにかいやがる」

同時に犬が低い声で唸り始めた。



「5」に続きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ