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主役不在に秘めるもの

おなじみ沼田政信さんの「幻のストライカーX爆誕(仮題)」とのコラボです。このコラボも、思えば長くなったものです。

 リーグ戦もそろそろ折り返しをにらむ2019年のJ1。しかし、代表の煽りを受ける気とも多く、今年もまたそういう時期が来た。南米で開催されるコパ・アメリカに招待された日本代表。そのメンバーに和歌山からはエースの剣崎と守護神天野が選出された。ちなみにセンターバックの外村も選ばれたが、発表直後のリーグ戦で足首を負傷し、辞退する羽目になった。

 そして、一度飛び級で選出されていた緒方と、剣崎、リカルド・サントスに次ぐ立場を築きつつあった村田がオリンピック世代が戦うトゥーロン国際大会に挑むU-22日本代表入りを果たした。決して選手層が厚いわけでなく、予算規模もJ1では下位レベルの和歌山から代表選手が4人も選ばれるというのは、やはり快挙である。


 ただ、そういう状況で和歌山は、リーグ戦第16節にJリーグ入りの同級生・ジェミルダート尾道をホームで迎え撃つことになった。しかも、チーム状況は相当に悪い。


 前節、敵地で浦和と戦った和歌山は2-2で引き分けたのだが、2得点のリカルド・サントスが試合後膝を痛めていたことが判明。アイシングで様子を見ていたものの痛みが引かず、精密検査を受けなおすということで、今節の欠場が決定。診断結果によっては、それがどこまで延びるのか不透明な状況だ。以前に負傷していた外村も復帰のめどはついていない。ついでに、浦和戦で左サイドの主力であるDF西岡が不用意なカードをもらい、この尾道戦は警告累積で出場停止を課されたのだ。


「正直言って、こうも重なると痛いね。まあ、層は薄いとは言っても、まったくめどがないわけじゃないし、なんとかしていきますよ」

 尾道戦に向けた練習を終えた後、松本監督は囲み取材で簡潔に答えてクラブハウスへと引っ込んだ。



 そして試合当日。和歌山のスタメンはこうなった。


GK30本田真吾

DF15ソン・テジョン

DF3上原隆志

DF33古木真

DF19寺橋和樹

MF2猪口太一

MF4江川樹

MF39榎坂学

MF8栗栖将人

MF7桐嶋和也

FW13須藤京一



「よう。ちょっと久々じゃないか?スタメンに顔出すのは」

「まあな。今うちは浦っていう活きのいい点取り屋がいるんでね。名前に剣の字が入ってるからやりそうな予感はあったが…」

「『剣』って字があるからってのは、ウチでプレーした経験が元だろ」

「違いない」


 試合開始前。入場セレモニーを前に、並び立った両雄のスタメン11人。その中から、栗栖は尾道のFW野口拓斗に声をかけた。尾道生え抜きのストライカーとして名をはせる男だが、5年前に初めてJ1でプレーする和歌山から三顧の礼を受けた末にレンタル移籍。和歌山のクラブ史上、J1でのハットトリック第1号選手となるなど活躍したのち、J1での経験を尾道に還元し、昇格に大きく貢献してきた。そんな野口が、和歌山のホームである紀三井寺陸上競技場を改めて見渡しながら感傷に浸る。


「しかし…。今考えると、俺あんな奴らと前線でコンビ組んでたんだよなあ」

「あんなってなんだよ。お前だって、あの時はなんだかんだで暴れまわって、天翔杯優勝に貢献したじゃねえか。それに、怪物・剣崎を向こうにして、先にハットトリックも決めたろ?」

 苦笑しながら返す栗栖に、野口も口元を緩めるが、一呼吸おいてすっと表情が据わる。

「だけど、剣崎は今や日本のエースでW杯の得点王、竹内(としや)もついにプレミアリーグに立った。…一方の俺はクラブでの立ち位置も崖っぷち気味。ちょっとここらで結果出して生き残らないとな」

「ああ…そうだな。浦や荒川さんが表立ってるからな、今の尾道は。二人ともベンチ外なら、なおさら『元エース』としては張り切りどころだな」

「元は余計だ、栗栖。そういうのは小宮の専売特許だろ」

「アイツよりましだろ?アイツだったらもっと酷いこと言ってるぜ?」

「…だな」


 選手入場が始まったのは、それから間もなくであった。


 サッカー界の個々の成長、チーム内の新陳代謝は、なかなかスピーディーである。実績があるに越したことはないが、それを維持しているかどうかで、クラブでの立場は簡単に揺らぐ。野口の言うように、老いてなお嗅覚鋭いベテラン荒川と、その荒川が昨シーズン終盤に負傷した折、一気に覚醒した超新星・浦がエースという肩書の似合う活躍をしているのが現状だ。今季からキャプテンの座に就き、前線で見せる献身的なプレーに対して一定以上の評価を得ているが、『ゴールを奪う』というFWの本質とでも言おう部分では鳴りをひそめている。あまり感情を出すタイプではないものの、内なる闘志はギンギンに冴えていた。


(今日はあいつに仕事をさせないことが、俺の役割になるだろうな…)


 上原がちらりとやりとりを見て、そう心に誓ったのであった。


 ところが、試合は波乱の幕開けとなった。


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