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1万人が当たり前

 開幕戦を快勝した和歌山は、一週間後の第2節。ホームでの開幕戦の日を迎え、磐田と相対した。スタメンは次の通り。


GK1天野大輔

DF15ソン・テジョン

DF20外村貴司

DF3上原隆志

DF19寺橋和樹

MF2猪口太一

MF17近森芳和

MF11リカルド・サントス

MF5緒方達也

FW9剣崎龍一

FW18塚原慎二


リザーブ

GK30本田真吾

DF6河本育人

DF33古木真

MF10小宮榮秦

MF24根島雄介

MF38榎坂学

FW33村田一志


 周囲の注目は開幕戦でいきなり2得点のエース剣崎と、デビュー戦でいきなりゴールを決めたルーキーの塚原。特に塚原は前評判どおりのスピードだけでなく、ゴールに対する血の気というか、得点への意欲にルーキーイヤーの剣崎を見出す声も多く、注目されていた。


 しかし、誰もが驚いたのは開幕戦とはいえ、和歌山のホームスタジアムである、県営紀三井寺陸上競技場が1万人以上の観衆を集めていた。ゴール裏やバックスタンドの一部が芝生席のため、最大入場者数は2万人にわずかに足りないが、かつては1万人に達すること自体が珍事だった創世記を思えば、磐田という近隣でもなければ因縁も特にないチームを相手に、開幕戦とはいえ1万8千の入場者を記録する当たり、やはり代表というブランドは大きいのだろう。しかも、アウェイチームゴール裏席を除けば、スタジアムの270度はクラブカラーである緑に染まっているのである。選手が燃えないわけがなかった。


「すげえな…正直ここ入るまで、このチームがこんなに人気があるとは思わなかったぜ」

「おいおい上原、そりゃ失礼な言いようだぜ?なんてったって、日本代表、四郷ジャパンの主力を担う選手が巣立ったクラブなんだぜ?しかもエース様は今もこのピッチをホームに戦うんだ。これだけ入って当然だろ?」


 試合開始前、整列の途中今季から加入した上原の漏らした言葉に、外村は苦笑しながらたしなめる。それに近森も同調する。


「そう言うな外村(トム)。前の和歌山を知ってたり、一緒にプレーしたことがない連中からすれば、和歌山がどの程度人気があるかは想像がつかんバイ。俺も初めてここに来たときは、ほんなこつサポーターがどれだけいるのか想像つかんかったとよ」

「だが、今はこんだけの客が来てる。剣崎の存在はでっけえんだな。敵じゃねえことを感謝しなきゃな」


 外村はそう言って、目を閉じて集中力を高めているエースを見やった。


 さて試合。開始からペースを握ったのは和歌山だった。ボランチの近森や猪口がパスワークの中心を担い、時折猪口から鋭い縦パスが通る。これに塚原がいい反応を見せ、たびたび磐田の最終ラインの裏に抜け出す。だが、ホームでの初ゴールへの意気込みが空回りしたか、場外ホームランとなったファーストシュートはじめ、立て続けに三本のシュートを放ったが、いずれも明後日の方向に飛んでいく。こうなってくると徐々に流れは磐田に傾きそうなものだが、それをせき止めたのがエースだった。

 前半30分過ぎ。ソンのサイドチェンジで裏に抜け出した緒方がアタッキングサードにまで駆け上がると、ゴール前にアーリークロス。一度は相手GKがパンチングで跳ね返したが、セカンドボールを攻めあがっていた猪口が回収し再度左サイドへ。今度は寺橋がクロスを打ち上げ、これを剣崎が競り勝って頭で押し込みゴールネットを揺らした。


「うぉっしっ!どうだ!!」


 両手を天に突き上げて雄たけびを挙げるエースに、味方イレブンが次々駆け寄る。それに合わせてホームスタジアムに駆けつけた1万人以上の和歌山サポーターも歓喜の声を挙げる。そんな雰囲気で前半を折り返した。


「ザキさんすまねえっす。オレが決められないばっかりに」

「なーにツカ。いいってことよ。そういう時に決めるのが俺なんだよ」


 ハーフタイム、ピッチから引き上げる途中で、塚原が剣崎にそう頭を下げたが、剣崎は大したことないとばかりに笑った。ただ、ロッカーに松本監督が戻ってくると、少々物足りないといわんばかりの表情をしていた。


「前半、剣崎のおかげで何とかリードを得て折り返すことができた。だがお前たち、もう少し地に足をつけて戦え。特にツカ、もっと冷静になってシュートを打て。全部慌てすぎだ」

「う、す、スンマセン」


 指揮官から指摘されて青菜に塩気味な塚原。どうしても初めてのホームゲームということで張り切っていたが、完全に空回りした格好だ。


「ともあれ、なんとかリードを得ているが、磐田の前線も決して侮れない。後半、向こうは攻めっ気を強めてくるはずだ。守備の一歩目を迷うな。もし迷いそうなら。必ず周りとコミュニケーションを取れ。決して独りよがりのプレーをするな。落ち着ければ、俺たちが勝てない相手じゃないからな」


 勝てない相手じゃない。そう言い切った指揮官の言葉は、決して相手を侮っているものではない。あくまでも優勝を狙うなら、このレベルのクラブにきっちり勝ち切らねばならないというハッパであった。

 選手たちも松本監督の言葉の真意を察し、再び気を引き締めなおした。そして後半の立ち上がり、反撃するべく守備の人数を一枚削って、元日本代表FWのベテラン小久保を投入して攻勢を強めてきた磐田にがっぷり四つの守備で迎え撃ち、これをしのぐ。そしてバランスを崩したことで生まれた相手のスキをついてカウンターをはめる。猪口のインターセプトから、ボランチコンビを組む近森が前線に鋭い縦パスを放つと、相手最終ラインの裏を突いたリカルドが持ち込みシュート。これは一度キーパーに防がれるが、そのこぼれ球に、叱咤を受けた塚原が詰め、追加点を奪った。


 そして和歌山はそのまま2-0で勝利。2019年のリーグ戦は連勝でスタートした。

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