あえて手を打つ
前半を終えて2-0。紀三井寺陸上競技場での和歌山対尾道のリーグ戦は、ホームの和歌山の楽勝ムードがスタジアムを支配した。何せ、日本代表のエースである剣崎と、守護神であり代表の常連でもある天野、そして守備の軸である外村という、いわば飛車角落ちのチーム状態でありながらである。
だが、両監督とも、感じていることは似たようなものだった。以下、NHK中継でよくあるハーフタイム前のやり取り。
「放送席、放送席、アガーラ和歌山松本監督です。前半、2点リードで無失点。ここまでの展開は優位に進んでいますがいかがですか?」
「ん~そうですね。確かにスコアはこっちが圧倒してますけど、点差のような優位は感じてなくて。基本向こうに押されてるので、その中からこぼれたチャンスをたまたまものにできたって感じですね」
「後半に向けてはどのような指示を出しますか?」
「まあ今言ったように。あんまり手ごたえがないのでね。交代も含めて、先に仕掛けようかなと思ってます」
「ありがとうございました。松本監督でした」
「放送席、尾道のヒース監督に来ていただきました。苦しい展開となっていますが、前半を振り返っていかがでしたか?」
『…。正直言って褒められる内容ではありません。特に中盤の攻防ではダブルボランチにいいようにやられているし、攻撃もつながりを欠いているので。いろいろ修正を考えなければなりません』
「後半、選手にはどのような作戦を伝えますか?」
『…。少なくとも、ここまで駆けつけてくれた我々のサポーターの帰路を心地悪いものにしないような指示を与えます』
「尾道ヒース監督でした。放送席どうぞ」
そしてハーフタイムを経て、両チームの選手たちが戻ってくる。尾道サイドは選手交代なし。ただ、表情が変わっていた選手が二人いた。一人はボイェ。その表情は拗ねてるというか、ずいぶんと悶々としたものだった。
(ちくしょう…。何で俺の、『俺だけ』のせいなんだよ…)
ハーフタイム中、ボイェはヒース監督から公開説教を喰らっていた。
『前半、お前のオーバーラップは我々の攻撃に大きく寄与していた』と始まって、最初は自分を褒めるのかと思いきや、以降はダメ出しの連続だった。
『だが、お前は次第に独善的になり、周りを考えず一辺倒なプレーに終始した。和歌山の若いサイドハーフが相手にならなかったのもの、お前の身勝手さに拍車をかけた。だが、その背後に立ちはだかった韓国人にはいいように潰され、お前が放置した広大なスペースが向こうの先制点の起点となった。そしてお前は反省せずに引き続きスペースのケアを怠った。結果、向こうに攻撃の起点を与え続けた。…お前の軽率さがこの2点といっても過言ではない』
反論したかったボイェだったが、ヒース監督の眼光に言葉が出ない。そして、次の一言がボイェに何かしらのスイッチを入れた。
『お前は世界、欧州へのステップアップを狙っているのだろうが、お前『程度』の才能はごまんといる。そうでないと訴えたいなら、後半の働きを期待している』
(くそったれが…あの韓国人に目に物言わせてやる!それでまずはいいだろ監督さんよ!)
もう一人、表情が違うのは野口だ。彼は決意を秘めたような、凛とした雰囲気を漂わせていた。
『タクト。今君は我がチームのFWという立場において、一つの岐路に立っているといっていい。ウラやアラカワと比べて、決して働きが劣っているとは思わん。だが、周りは君にもゴールを求めているはずだ。そろそろそれに応えてはもらえないかな?…君は一足先に、この地でストライカーとして結果を残したと聞く。もし今後もプロのFWとして生き残りたいのなら、それを示してくれ。尾道の、残りシーズンのために』
(ああまで言わせたら、絶対に応えなきゃな)
一方で、和歌山は一気に手を打った。まず、1トップで奮闘していた須藤に代えて本来トップ下タイプの小宮を投入し、小宮はそのまま最前線へ。小宮はかつてFWのポジションでプレーした経験もあるためにここはある程度問題はない。しかし、スタンドがざわついたのはもう一つの交代策。センターバックの古木に代えてサイドバックの河本を投入し、そのまま右サイドバックへ。そして、前半その右サイドでボイェと互角に渡り合っていたソンを、なんとセンターバックにスライドさせたのである。後者の交代策には、尾道サイドも驚きを隠せない。ソンへのリベンジに息巻いていたボイェは言わずもがな、ヒース監督も少なからず。
『どういう意図だ?…だが、あの韓国人、急造とは言いながら対人戦や空中戦もできる。手強いことになるかもしれんな』
試合再開。尾道のボールでキックオフ。まず尾道は中盤の選手がプレーのギアを上げた。
(前半はあっちのボランチにやられすぎた。ちょっとはやり返さないとしゃくだからな)
ボールを持ち、周りを見渡しながら、河口はそう考えた。試しに左サイドへ展開する。受けた森川は仕掛けようとするが、さっそく交代で入った河本が一仕事。スッ…とさりげなく森川のドリブルのコースを切って彼のプレーを限定。さりげないがいやらしいポジショニングで森川の出鼻をくじく。
そこにボイェが駆けつけた。
『よこせ!俺が行く!スペースのフォロー頼む!』
フランス語で叫んだボイェだが、ジェスチャー付きであるのと、前半の指揮官の指摘もあって森川はすぐに理解。縦方向に入れ替わるようにボイェにボールを託す。ボイェのドリブルにはやはり迫力があり、河本もその圧力は防げない。
『図に乗るなよ韓国人!俺はこんなもんじゃねえんだよ!』
サイドから中央へ切れ込みながらボイェはソンに向かっていく。
『血の気が増したところで、勝てると思ってんじゃねえぞアフリカ野郎!』
受けて立つソンは強烈なタックルでボイェを潰す。だが、ボールはこぼれ、それに多くの選手が群がる。これを回収したのはデニス。ゴールを背にしてボールをキープすると、すかさず反転してシュートを放った。
「うおっ!?あれで打つのかよ!」
バランスを保ちながら身体を回転させて打つ。難しいシュートながら、ボールはよくコントロールされており、本田の手先をかすめる。
だが、ボールはポストが嫌った。再び選手が詰め寄るが、これに詰めたのがハッパをかけられたばかりの野口。つま先で冷静に押し込み、ゴールネットを揺らした。
次でケリつけます。




