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不老の姉妹たちの旅物語

転生者よ、契約せよ。4 『クーの親と説子の魔法』

作者: Soryi

18/11/16 18:21 リアの発言に「眷属」とあるのに、説子が疑問も示さずに流しているシーンを修正。言い回しを変更し、「眷属」という発言が出てこないように修正しました。

3で不思議に思っているシーンが存在するので、それより前にあたる4で疑問も示して居ないのはおかしいので。


18/11/19 15:50 クーの前世の少女の名前を変更。エリザベスではクーが「クー」という呼び名に反応していた理由が宙ぶらりんになってしまうので。高飛車令嬢っぽさは減ったかもしれませんが…。尚、紛らわしいのでリアたちのクー前世への呼び名も変更。リズという呼び名は友人たちが呼んでいたものという設定がありましたが、このまま友人の呼び名をリアたちが使っていると前世今世ともにクーになってしまいますので、家族限定のミドルネームでの呼び名という設定でフィーに修正しました。

======

時間が戻って、2の直後です。

クーの…クーアティア・フレアの出身世界に転移したリアたち。

※2のラスト参照

「ここが、異世界…!」

「わぁ、懐かしい…」

「そうね…。ここでクーに名前を付けて貰ったんだったわね」

「ここが?へえー!」

おおはしゃぎの説子を微笑ましそうに見守りながら、懐かしい風景に思わずクーは顔を綻ばせる。


ここは、リアとクーが出会った最初の場所である、魔法学院の闘技場だ。

数年しか経っていないからか、殆ど変わらない。

「誰か来るわ」

「え?」

「誰だろうな?」


「っ、だれ!?…って、ええ!?」

「ま、まさか、クーアティア……?」

現れたのは、クーと良く似た色合いを持つ男女。

でっぷりと太り、自分が悪役だと全身で主張しているような男と、優しげで、愛嬌はあるがクーとはあまりに似ていない顔立ちの女だ。

「お父様、お母様、お久しぶりでございます」

クーは、顔を微かに強張らせ、久しく使っていなかった、貴族令嬢としての礼儀作法を尽くし、当代の侯爵当主と、侯爵夫人に挨拶する。

「クーアティア、なんで…。死んだのでは、」

「失礼ながら。わたくしはこの通り健康であり、ただこちらのリア姉上に着いていっただけでございます。リア姉上も、故郷に里帰りが出来るよう、死亡扱いにしないよう務めると仰っていただきました。事実、噂を確認した所では、クーアティア・フレア公爵令嬢は、行方不明となっている、としか確認できず、死亡説などありませんでしたが…。まさか、わたくしが姿を眩ました数年でお耳が遠くなってしまいましたのでしょうか?」

それとも、わたくしが亡き者となるよう、望んでいたのですか? そう、ニッコリと笑って「令嬢」をしているクー。

それを、一歩引いた立ち位置で見守る説子とリア。

「え、ご両親?若いなー。っていうか、クーねぇ、随分トゲトゲしてないか?」

「まあ、クーのてき相手だしね。そりゃそうなるでしょう。融合に切り替わってるわね…。まあ、今世が出てこなければ別に良いかしらね」

「敵なのか、そうか。融合人格ってこんな感じなんだな。確かにちょっと雰囲気が違うなー」



「そんな事があるわけないだろう?クーアティアは私の大事な娘だ。もちろん、我が妻にとっても」

きっぱりと拒絶された侯爵。だが、平然とした様子で、少し悲しげにしながらもクーに話しかける。

「そうですわ。クーアティアはわたくしたちの大事な娘、何故死を望まなければならないのですか」

侯爵夫人も、同意してクーに訴えかける。


「はっ」

その状況を、リアは鼻で笑った。

それに便乗するように、クーは言葉を重ねる。

「愛称呼びもなさらず、大事な娘とは言っても、いとしい、あいらしい、とは言わないのですね。私がこの魔法適性を見せなかったら、冷たい目でわたしを切り捨てていたでしょうに、それで大切?愛している?笑ってしまいますわ。打算塗れの愛など、必要ありません。むしろ不快ですわ」

「確かに、本当に心から愛するなら、愛称呼びぐらいは取り付けられるはずだろう。クーねぇは、友好的な、害意、悪意のない者には結構寛容だから、アティア呼びぐらいは普通に許可してくれるぞ?というか大体は「わたくしの名前は長いですし、アティアと呼んでくださいな」ってクーねぇが言うぞ? まあ、悪意、害意が無い相手に限るけどな」

暗に『あなた達に悪意があるから拒絶されたのかもな?』と説子はクーを援護するように発言する。

「キミ、それにキミも!失礼だぞ!娘を…炎の名門フレア侯爵家の令嬢を、クー姉ぇなんて親しげに呼ぶなんて!不敬罪で斬り捨てられたいのか!」

侯爵は、リアがクーを親しげに呼んでいた事を聴き取っていたらしく、説子とリアは指を指され、不敬だと糾弾した。

すると…、

「はっ」

クーが鼻で笑い、いっそう冷ややかな目を侯爵夫妻に向ける。

「く、クーアティアが、鼻で笑った…ですって!?」

可愛いうちの子はどこに…と泣き崩れる侯爵夫人。

「わたくしの義理の妹相手によく言えるわね。彼女はリア姉さんの妹よ? あの観測者の家族よ?馬鹿なの?」

少しの間、冷ややかな目のままクーは沈黙していたが、夫人が涙を溢し始めるた頃に、勢い良く罵倒を繰り出し始めた。

「クー、キレたわね」

「クーねぇがマジギレしてるところ、初めて見た…」

面白げにリアが呟き、説子が呆然と言葉を零す。

「観測者?なんだそれは」

「歴史を漁れば、大体記載のある、オーロラ色の髪の女。時代によって、コハクともローラともアンリーアとも言われる、最強の女。侯爵なら、聞いた事ぐらいはあるでしょう?」

地位があるなら、それ相応の知識が無ければ。必要最低限の知識も無しに仕事をこなそうとする無能が一番邪魔なのよね。昔、リアが話していた事だ。わたしに話してくれたその時は、言葉にやけに実感が篭っていて、なにがあったのかと思ったものだ。

リアの――文明を時に破壊し、時に引っ掻き回すように技術を授ける彼女の事は、国防に関わる役職に就く侯爵なら、知っていなければならない。簡単に国を滅ぼす力を持った存在の事ぐらい、少しは把握しているはずよね?

そういう意味を籠め、クーは侯爵に問いかけたのだ。

「………」

が、返って来たのは沈黙。それは、侯爵に心当たりが無いと雄弁に示していて。

「嘘ん。馬鹿だ阿呆だ情無しだとは思ってたけど、まさかこんな事も知らない無能だったなんて」

クーは唖然とした様子で侯爵を罵り、侯爵は怒りで顔をますます赤くし――。

「クー、その辺にしておきなさい」

リアが制止に入った。

「私と説子を下に見られて腹が立ったのは解るけれど、やるなら正論か暴力でぶちのめしてやれば良いじゃない。相手の事情も考慮して、それでいてこちらに非難が来ようも無い方法にしなさいな。あ、それか全てから消して絶望を味わわせるかかしら。私も説子をバカにされてる感じで腹が立ってるし、喜んで協力するわよ」

しかし、続いた台詞は、諌める言葉ではなく、寧ろ提案だった。

その言葉に、リアが制止に入ったならもう大丈夫かな、と少し気を抜き始めていた説子が慌てる。

「り、リアねぇ、クーねぇ、ちょっと落ち着いて!やるなら相手の上司やら保護者やらに許可取ってからでしょ!?」

「「いや、こんな無能なら許可は要らないでしょ」」

「それでも国王とかクーねぇのお祖父さんとかに話は通して置かないと!っていうか無能認定の大半は私をバカにしたからでしょ!?それは無理も無いって!」

それに、許可取らないとこの世界では犯罪になるんでしょ!?だからちゃんと話は通さないと!と説子は訴える。

「古すぎてもう誰も使わないような法だけどね」

「まだ有効なら一緒!あと、私、見た目はただの女子高生だし!ちょっと見下したぐらいで無能認定は無理があるって!せいぜい変な格好の庶民でしょう?」

と、黒髪黒瞳セーラー服という姿である説子が言うが、

「「いや、無理は無い」」

クーとリアに揃って否定された。

「転生者はすっごく珍しいけど、過去には召喚で日本人が呼び出された記録も残ってるし、実際、アメリカ辺りの転移者と会った事もあるよ、わたし。英語で話しかけたら懐かれて…あの子、どうしてるかな」

「じゃあ、会いに行けばいいじゃない。あなたにそのぐらいの力はあるでしょう?クー。それに、たしか似た様な型のセーラー服が聖女様の衣服として現存してたはず。侯爵なら見れる地位にはあるし、黒髪黒瞳って『私はニホンからの来訪者です!』って喧伝して回ってるようなものだし。この世界ではそのぐらい黒髪は珍しいのよ」

「それに、転移者って大体勇者なり聖女なりする事になるからね。黒髪黒目ってだけで平民である可能性はかなり低いの」

「あと、ここの文明は大体中世よ?現代日本で育った人なら、あちら側には服とか肌とか王族級に手入れされてるように映るはず」

「「よって、こいつは無能なのよ」」

交互に理由を話し、ハモって侯爵を無能と認定するリアとクー。

「わかったから、抹消は止めて上げて?リアねぇ、クーねぇ。私は気にしてないんだし良いって事にして?」

「……仕方ないわね」

説子の言葉に、不服そうながらもリアは了承し、

「じゃあ話を通してからボコろうね!」

クーはやる気を漲らせる。

「そうなんだ、頑張れ」

犯罪にならないならいいやと説子はクールに返答するのだった。


*****


侯爵夫妻を適当な場所に飛ばし――死なないと思うから、とリアが説子を納得させ、王都から遠く離れた町のスラム街に転送した――、3人がカフェでのんびりとお菓子を楽しんでいる時。

「そういえば、私、クーの両親に『娘さんを私にください』ってやろうと思ってたのよね」

ふと、リアがのんびりと紅茶を楽しみつつ発言した。

「「ぶふっ!?」」

その内容に、丁度飲み物を口に含んでいた説子とリアは口から飲み物を噴き出した。

「でも、あの無能は親じゃないし、どうしましょう」

「血縁上は親のはずなんだけど」

あっさりと親ではない、と言い放ったリアに、クーは面倒くさそうにツッコミを入れる。

「違うわよ? あっちのほうも知ってて育ててるわ。それに、ちょっと調べたら埃が出てくる出てくる…私はアレをクーの親…保護者であるとは認めないわ」

が、あっさりとリアは否定。血縁上の繋がりが無いと断言した。

「違うの?あ、そう。やっぱりそうなんだね。幾らなんでも似てなさ過ぎると思ってたんだよねー」

それにショックを受けた様子もなく、平然としているクー。

「いやいや、なんでクーねぇが平然としてるんだ?」

「動揺するような余地、無いし。というかアレを親と認識するのも嫌だったから、嬉しいよ」

その様子に説子がツッコミを入れるが、暗い瞳で嬉しいと言い切るクーに沈黙した。


「だから、代わりに育ててもらったと胸を張って言える人、心当たり無い?」

明るめの声音でリアがクーに話しかけ、手を伸ばして彼女の頭を撫でる。

「クーアティア・フレアを育ててくれた人は居ないよ。野放しに溺愛していた人は数人居るけどね」

そう呆れたような声音で話すクーの瞳には、もう暗い色は残っていなかった。

「あ、そう。なら、あなたを、フィーを育ててくれた人は?」

「もちろん、お父さんとお兄ちゃん。お姉ちゃんも大切にしてくれたと思う」

リアの問いに、懐かしそうに、幸せそうにクーは語る。

「フィー?クーねぇの名前はクーアティアじゃ?」

クーの言葉で疑問が浮かんだ説子は、その疑問を2人に問いかける。

「あ、ごめん説子。置いてきぼりにしちゃったわね」

「フィーっていうのはわたしの名前。私の前世の名前だよ」

リアが軽く謝り、クーが説子へ説明する。

その言葉に説子は驚く。

「え、クーねぇって日本人じゃ?」

「日本生まれ日本育ちのハーフ。レミクミア・ティファーナ・ノブリーシュっていうの」

説子の疑問に、クーは自らの前世の名前を答え――、

「着替えを覗いちゃったらどうするの?」

説子は聞こえた答えに、反射的に言葉を口にした。

とある有名アニメの、主人公の台詞だ。メインヒロインである少女が「着替えを覗かない事!」と釘を刺した際、主人公が口にした台詞。

「従者に記憶を無くすまで殴らせますわ」

苦笑しながら、答えるクー。その言葉は、説子の口にした主人公の台詞に、少女が返した言葉と同じだ。

「おおー。クーねぇ、上手いな。というか何故にアニメのキャラと同姓同名に…。いや、レミーアはミドルネームは無かったけれども」

声は素のままだが、イントネーションまで綺麗に同じであるクーの言葉に感心し、クーのキツめの顔立ちに似合う台詞だと説子は思う。

「ありがとう。この名前である理由は、名付け親であるお母さんがあのアニメの熱狂的なファンだったからだよ。お父さんとの結婚の決め手が『苗字がノブリーシュだったから』とかうっとりした表情でのたまってた人ようなだからね…。よく考えずに付けたんだと思うよ」

苦笑するクー――クーの前世の少女に、説子は同情した。



「ねえ、行くわよ?」

いつのまにか支払いを済ませ、カフェの扉を開けながら、リアは2人に呼びかける。

説子とクーは少し慌てながらリアの元へ向かい、リアと並んで歩く。

「あ、リアねぇ、待って」

きょろきょろと辺りを見回し、門を開く場所を探すリアに、説子が声を掛ける。

「どうしたの、説子?忘れ物?」

「私も魔法が使いたい。どうか教えてくれないだろうか!」

勢い良く頭を下げ、リアに願う説子。

「了解。イメージがあれば万能な法則のトコと、プログラムみたいにキッチリしてるトコと、どっち方面が――」

即答で了承の返事を示し、滑らかに話していたリアだが、ふいに声を途切れさせ、考え込む。

「いや、ダメね。説子、資質が使役特化だから、まずはそっちかな」

「うん?」

リアの呟く内容が理解出来ず、説子は首を傾げる。

「説子は、使役っていう特殊魔法に特化した適性を持ってるの。使役は凄い特殊で、世界の魔法法則に左右されない魔法なの。まあ、その代わりに、召喚に高めの適性が無いと世界移動しちゃった時に、大体は元の世界に置いてかれちゃうから、もう1回戦力を、仲間を集めないとダメなんだけどね、普通は。まあ、リア姉さんならどうにか出来るはずだよ」

その疑問を察知し、クーが詳しい解説を加えてくれる。

「そうね。ちょっと工夫は必要だけど、私の転移ならどうにかなるから、その辺は心配しなくて良いわ。あと、説子は普通の魔法も使えるキャパシティがあるんだけど…。まあ、その辺は後回しかしらね」

「なるほど…」

「やっぱり異能が働いた結果かしら、説子のこの使役特化の適性って。異能持ち、懐かしいわね…」

昔を思い出しているのか、リアは遠い目をしている。

「ああ、私の「自身への生物の警戒心を薄める」という能力の事か。似た能力を持ってる人でも居たのか?」

「ええ。珍しい能力が発現する者の多い一族の子。異能が重要な仕事に就いていたのだけれど、血が薄まって、だんだん異能が発現しなくなってね。その辺りでだんだん疎遠になって…。あの子はいつも動物に囲まれてたわ。それに、猫や熊が一生懸命あの子を護衛しようと、取り囲んでいたせいで、碌に人と関われなくてね」

「へぇ…」

「まあ、あの子が生きていたのは、地球の時間で見ても、もう随分と前の事よ。結局血の薄まりが解決出来たとは聞かなかったし、もう一族の血は断絶したものだと思ってたから、説子の異能に気付いた時は驚いたわ」

ふふ、とリアは笑みを零す。

「リア姉さん、もしかして、説子はその一族の子孫?」

「そうね。血の濃さはあの子より濃いぐらいなのだけど、先祖返りかしら?」

「そうなのか?」

首をかしげる説子。

「ええ。というか、私としてはあなたが動物に囲まれるような事態に無い事のほうが驚きなのだけれど。契約をした後なら、私の雰囲気から私を恐れてあまり寄ってこない、という理屈が通るけれど、その前、出会って直ぐの頃はどうしていたの?」

「ちいさな頃は、常に鳥なり犬なりなにかしらの動物で埋もれているような状況だったから、躾けた」

「…それだけ?」

「根気よく仕込んで、私の部屋以外で引っ付くの禁止!ただし私の部屋なら好きにして良いよ!ってしたからな。呼べば小鳥なりなんかが来るけど、そうじゃなきゃ普通に居られるように、って」

「す、すごいわね、説子」

「そうか?」

「さっきの、一族の子は、幾ら頼んでも怒っても、その子から離れるという行動はしなかったらしいから」

「まあ、そこは頑張ったからなぁ」

「いや、頑張ったで済むようなものじゃないはず…」

なまじほぼ同じ実例を見た事があるだけに、リアは唖然とするしか無い。


「それで、結局私はどうすれば良いんだ?」

唖然としているリアに、ワクワクとした様子で説子は問いかける。

「え、ええ…。人気の少ない場所…平原辺りに跳んで、練習しましょうか。使役相手なら私が幾らでも用意出来るだろうし…」

未だ戸惑いは残るものの、説子の魔法の練習へとリアは動く。

「分かった!」

「【望む者を、望む場所へ、ゆるりと運ぶ、風よ――】」

クーと説子を近くに抱き寄せ、リアは高らかにその言葉を放った。

「【――吹け!】」

その言葉と同時に、ざあっ、と風が吹き荒れ、それが治まる頃には、3人の姿はもうそこに無かった。


****


人里離れた草原。

不意に現れた、強者の雰囲気をただよわる少女に、泡を食って周囲に小動物が逃げ出す。

転移してきた3人は、阿鼻叫喚といった様子の周囲も気にせず、平然としていた。

「リア姉さん、今の魔法は…」

「風と空間の融合ね。空間で座標指定と対象保護を、風で演出と移動…辻褄合わせと言うか、消費を抑えるための小技ね。それと、イメージの補強。まあ、結構ちゃちな仕組みだし、ここは微妙だけど、詠唱世界でならクーも発動出来る転移魔法よ」

あ、イメージでの補強はここならではだけれどね、と付け加え、ニコリとクーに微笑みかけるリア。

「リアねぇ、リアねぇ!私、早く魔法を使ってみたいんだ!」

ついに魔法が使えるという喜びで、いつになくはしゃいだ様子の説子。

「分かったから少し落ち着きなさい、説子」

「わかった!」

きらきらとした瞳でリアを見詰めるクー。

「…じゃあ、次の言葉を魔力を放出しながら唱えなさい」

「分かった!」

「創造し、召喚せよ。我が使役するに足りる、友好的な者よ。我の求めに応じ、姿を現し給え」

「【創造し、召喚せよ。我が使役するに足りる、友好的な者よ。我の求めに応じ、姿を現し給え】」

ぶわ、と魔法陣が展開する。キラキラと舞う紫の光や、光り輝く魔法陣に、説子は目を輝かせる。

「カッコイイ!リアねぇ凄い! って、うわ!?」

説子がリアを賞賛している最中、魔法陣の光が一気に強まり、説子は思わず驚きの声を上げる。

反射で目を庇おうと腕を動かすが、途中で止め、見入るようにじっと魔法陣を見詰める。

やがて見えてきたのは――。

「オウン?」

「ワン?」

神々しい雰囲気を放つ、銀毛の狼が2匹、揃って不思議そうに首を傾げる風景だった。

「わぁ、可愛い…」

思わず、といった様子でクーが言葉を零し、説子も雰囲気を和らげる。

「アオン!」

「ワンワン!」

狼が説子を見て、キラキラキラ…と瞳を輝かせ――、

「ぬわっ!? ちょ、待って!」

2匹とも説子に飛び付き、押し倒しながらぺろぺろと顔を舐めだした。

「色気の無い悲鳴だね…」

「やっぱ、好かれるか…。どうやら番のようだし、性的に狙われる心配は無さそうね。エンシェントフェンリルなら番以外を魅力に感じる事は無いはずだし」

ひっそりと待機させていた拘束魔法を霧散させながらリアは呟く。

「やっぱり、エンシェントフェンリルなんだ。神話の生き物を引っ掛けるなんて、やるね、説子」

その言葉を聞き、クーは感心したように説子を見る。

「って、ちょっと、助けてリアねぇ!」

飛びつかれ、押し倒された状態で説子はリアに助けを求め――

「了解。――【引き寄せろ】」

「わっ!?」

ポン!と音を立て、リアの引っ張り上げるような動作に合わせ、説子がリアの側に転移してくる。

「あ、ありがとー、リアねぇ…。あんな風に寄られたの、何年振りだろ…」

疲れた様子で説子はリアにお礼を言う。


「それにしても…、肉親のように強い親愛からの庇護を説子に与えられる動物を召喚、居ないなら同一条件を満たす生命を創造し出現させる、っていう魔法は発動させたけど、その召喚魔法にエンシェントフェンリルが引っかかるとわね…。説子の異能、強いわね…。エンシェントフェンリルともなれば強い魔法耐性、異能耐性を持っているはずなのだけど…。もしかして、異能には強いものほど警戒心を和らげる効果が強く作用していたりするのかしら?」

「さあ…。でも、説子はすごく好かれてるみたいだね」

「そうね。知能も人間と同等ぐらいにはあるはずだから、これはダメ、って教えれば、ちゃんと言う事も聞くと思うわよ」

「ああ、説子に嫌われたく無い、って思考が働くんだね」

「「きゅうん!?」」

私嫌われちゃうの!?とでも言いたげに2匹は鳴き、切なげに説子に擦り寄ろうと動く。

「良いよ、って言った時以外は私の姿勢を崩すような行動はしないこと、いいね?」

「くぅーん」

「きゅーん」

説子の言葉に、その場でお座りの姿勢になり、切なげに鳴く2匹。

「私の邪魔をしなければ、別にくっ付いてきてもいいよ」

近寄ってこない2匹に、説子は補足の言葉を投げかけ――、

「あおん!」

「わん!」

途端に、尻尾を振る2匹に擦り寄られ、楽しそうに説子は笑う。

「ふふ、くすぐったいな」



しばらく2匹と戯れた後。

「よし、そろそろ地球に向かいましょうか」

リアの言葉に、フェンリルは首をかしげ、

「地球かー、懐かしいなぁ」

「そうだね。お父さん、わたしの事覚えてるかな?」

「フィーが死亡してから2年後に転移するわよ。場所はフィーの実家の前で良いかしらね。――【門よ開け、「地球」に繋がる門を、今ここに】」

リアが発動させた魔術で、3人は草原から転移していった。



つづく


19/7/7 8:01 説子がフェンリルにじゃれられている辺りのリアの台詞に脱字があったので、修正しました。


読んでくださってありがとうございます。

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