第92話 暗殺者、刺客者たち
屋敷の門は開いており、中に入ると馬車はボクたちを降ろして去っていった。
目的地の大きな屋敷はまるで山奥には不釣り合いで、それこそ首都の中にある豪邸と言っても過言ではない。
屋敷を守るように一周しているであろう金属製の柵と壁。
若干荒れ果てているが以前は綺麗だったとわかる庭。
手入れがされなくなったのはここ数年だろうか?
「おっきい家だね」
目の前に黒い重厚な扉が立ちふさがった。
金色のノッカーがピカピカと美しい。
(ティエラの、いや、ボクたちの家くらい大きい。なんでこんな山奥に建てたのか謎だけど)
外壁は白を基調にしているが薄汚れてしまって変色している。
今は住んでいないのだろうか。そんな疑問だけが浮かんでは消えていった。
「さて、こんにち……は」
ノッカーを鳴らそうと手を伸ばすと、
──ガンガンッ
という裁判に使う木槌のような音が静かな森に響き渡る。
唖然として犯人を見ると、カティが鳴らしていた。
「ボクが鳴らしたかったのに」
「……ごめん。出てこないし、もう一回鳴らしても良いんじゃね?」
子供みたいだが、まぁ今は子供なのだから許されるだろう。
ノッカーなんて今まで鳴らしたことがなかったのだ。
自宅にある物も鳴らす機会が無かったし。
ボクは金の取っ手を掴んだ。
──ガンガンガンガンガンッ!
頭を抱えるカティとカーチャ、大笑いするルドヴィヒとソラと一緒に待っていると、すぐさまガチャンという鍵を開ける音がしてタキシードに身を包んだ執事が出てきた。
「申しわけありません。お待たせしました」
あきらかに作った笑顔を絶やさない彼は、深々とお辞儀をする。
「どうぞ、中へ」
そしてボクたちは屋敷の中へと招かれるままに入っていく。
屋敷の中は外とは違って掃除が行き届いており、大きなシャンデリアすらある豪華さである。
執事に案内されて一つの扉の前まで行くと、どうぞと言われた。
今度はカティが開けて良いぜって顔で見ている。
(別に扉なんてどうでもいいんだけど……)
うながされるままに扉を開けると、そこには十三人の男女がいた。
「あら? 可愛らしいお嬢さんね」
スリットから見える太ももがエロいお姉さんが、椅子に座って脚を組み替えつつ、キセルをこちらに向けてそう言った。
「チッ、ガンガンうッせーんだよ。おい、もう揃っただろ? さっさと話せや」
口の悪い剣士があからさまに怒りながらそういうと、執事は淡々と「もうしばらくお待ち下さい」と言う。
室内には先に来ていた十三人とボクたち、あとは執事とやたらとスカートの短いメイドがひとり。
つまり、十九人もの人がいた。
いくら広い応接室とはいえ、圧迫感を感じざるを得ない。
家具もあるのだから当然といえば当然である。
椅子はすべて占領され、小さいテーブルにも座っている人がいるので仕方なく、戸棚の横に移動すると、しばらくして再び来客を知らせる音が屋敷に響いた。
(こんなに人数を集めるなんて、どんな依頼なんだろう……?)
いや、彼らが依頼の関係者とは限らない。
毛皮のマントを羽織った男や先ほどのお姉さんは、どちらかというと貴族に見える。
扉の向こうから、同じような台詞を言う執事の声が聞こえた。
新たにやってきた人物も、おそらく客なのだろう。
鍵を閉める音が聞こえ、こちらに近づいてくる足音も聞こえる。
扉を開けて入ってきたのは、ものごいのような小汚ないボロを着た老人だった。
「いつまで待たせるのかしら?」
お姉さんはため息を漏らした。
「もう我慢ならん!! これは一体なんの集まりなのだ! 貴族風の者に、全身鎧のお前は騎士か? 冒険者のようなやつに、そこの女は娼婦か? あ? イジェルドの犬の次はものごいと来た! ふざけるのも大概にしろ!」
もうひとりの貴族風の男が、この場にいる大半の者に喧嘩を吹っ掛ける。こわい。
「フフッ、私は確かに娼婦だけれど、それがどうしたの? 試したいのかしら」
胸元のあらわな女性はニヤリと笑う。
「わしは確かにものごいじゃが、お主に迷惑はかけとらんじゃろう?」
飄々と言い返している他の人たちとは違って、ボクの連れは沸点が低かったようだ。
ギリッと奥歯を噛んだ音が聞こえた。
「イジェルドをナメるな、三下が!」
「どたまかちわってやろうか?」
「舌を引き抜いて口を縫い合わせるわよ?」
激怒するカティたちに少し恥ずかしくなり、ボクはうつむいた。
執事が咳払いをして場をいさめると視線が彼に集まる。
その手には手紙があった。




