第91話 暗殺者、依頼を受ける
大通りを進み、来たときと同じように祭壇へと向かう四人と一匹。
石階段を上りきると、ひとりの魔法使いが立っていた。
カティたち『夜刀会』と同じ黒装束であるから、きっと知り合いなのだろう。
「んじゃ、頼むわ」
「えぇ、いってらっしゃい。ウェンズデイにご無礼のないようにね?」
そんな言葉と共に光に包まれる。
目的地は南の大陸イジェルド連邦から北西方向に行った所にある、南の大陸と西の大陸の境にある国、ロスラ王国だった。
「よし、無事に転送できたな。行くぞー」
ロスラ王国の首都リアの近くにある村の宿屋、その地下室にボクたちは転送された。
小さな村を出ると徒歩で指示された場所まで歩く。
こじんまりとした橋の近くには馬車が用意されていて、馭者の男性はボクたちを待っていたらしく、乗り込むと馬車は発車した。
「あのさ、転送魔法で一気に行けないの?」
「あれ魔法陣がある場所しか行けないんだわ」
「そもそも使える魔法使いも高位の魔法使いくらいだし、金もかかる。使い勝手は悪いわね」
「船や馬車なんかと比べると楽だ。ま、危険だからおすすめ出来ねぇぜ?」
「……危険?」
「なんか半年にひとりくらい消えんだよ。ウケるよなぁ」
楽しげに笑う三人をボクとソラはいぶかしんで見ていた。
消えたらどうなるのかわからないと聞いたら、笑う気になんてなれない。
それでも暗殺者としての先輩である三人には、やはり余裕があるのだろう。
「……この馬車って雇い主が用意してるんでしょ? 〈七曜〉への依頼っていつもこんな感じなの?」
「いや、普通なら移動手段なんて用意しないな。転送魔方の費用も出してるなんて、普通じゃない」
「そんな依頼しかなかったの?」
「んー指名してるのはこれしかなかったけど、依頼なら数十個はあったっけ」
「……これ、誰が選んだの?」
「あたしだけど?」
「ふーん」
『ピッピッピッ』
「実際、ウェンズデイを指名すること自体、おかしいんだけどね。指名すること自体、稀だし。女の暗殺者限定で~というのは、たまにあるけど」
「女の暗殺者だけで何するの?」
「男じゃ潜入できない場所とか。女暗殺者の裸が見たいなんて下衆もいるわね」
「とにかくだ。指名するってことはウェンズデイでなければ出来ないことか、ウェンズデイ自身に用があるってことだろうな」
ルドヴィヒの言葉に賛同している二人の暗殺者たち。
それにしても、ウェンズデイにしか出来ないことってなんだろう?
「……変態の依頼だったら、断ってもいいかな」
「そんな依頼だったら──あたしらがそいつを殺してやんよ」
「だな。ウェンズデイの初めての依頼だぞ? それがそんな依頼なら、生きたままバラバラにされても文句は言わさねぇ」
「バラバラにしたら死んじゃうでしょ? 毒で苦しめないと」
『ピィ? ピェッピェピ?』
三人と一匹はとっても楽しそうに笑った。
(あー、心強いなぁ)
心の中で棒読みする自分の声が聞こえる。
確かにボクも、会うだけで大金を支払ってくれる。わーい優しい雇い主だぁ~とは思えない。
絶対に裏があるのだろう。
暗殺への報酬とは別に大金を使って馬車を用意し、暗殺者本人も魔法で転送させるほどの人物。
デジャブとは違うが、思い出すことはある。それはティエラとの出会いだ。
それでも、流石にもう妹なんていないだろう。
ボクはクスクスと笑った。
夜になっても馬車は走り続け、起こされた時には朝になっていた。
目覚めた時には村であり、休憩するために寄ったそうだ。
馬も休息が必要で、馭者が与えている水をごくごくと飲んでいる。
一時間ほどの休息、ということで食事をすることにした。
馭者は馬の世話をすると言って近寄りすらせず、ボクたちだけで店に入り、食事を注文する。
「なんか見られてない?」
「よそ者が珍しいんじゃねーか?」
「というか……」
カティたちが見られている気がする。
黒装束の格好が珍しいからだろうか?
目立つと言えばボクの格好も、ある意味目立つのだが。
視線を感じたのでこちらも見ると、サッと目を伏せられた。
「カティ、なにかやったの?」
「別に覚えはないけど」
「暗殺者だってわかってるんだろ?」
「私らじゃなくて別の人がなにかやらかしたんでしょうね」
確かに暗殺者はカティたちだけではない。だからこそカティたちが何かをやったのではなくても、何かをやったその者と同じに見られるのだろう。
ボクは辺りを見渡すと、女の子がいたのでその隣の席にお邪魔した。
「ねぇ君、なんでこっち見てたの?」
「あ、あの、あなたも……」
「このスライムはソラっていうんだよ。可愛いでしょ?」
『ピィ~』
「……うん」
「どうしたの? 元気なさそうだけど」
「あの、商人の方が昨日村に来て……その、結社の暗殺者がこの国に来ると言ってて」
「あーそれでかぁ。確かにあの三人は暗殺者だけど、暴れたりはしないから安心していいよ」
「いえ、その、あなたたちの中に……サタデイはいますか?」
「サタデイ? いないけどっていうか何でサタデイ?」
「あの〈最悪〉が来るという噂があって……」
サタデイと一緒ではないことを伝えると、女の子は喜んだ様子で他の客にも伝えている。
するとパァと場の空気が明るくなるのだった。
「なんだって?」
「サタデイが来るって噂があって、ボクたちの中にサタデイがいるんじゃないかって疑ってたんだってさ」
「えっ? サタデイもロスラに来るのか?」
「マジかよ。会いたくはねぇな」
「むしろ近づきたくないわね。同じ町には居たくない」
三人組は嫌そうな顔で言っている。それを見て、ボクはムッとした。
「サタデイってニコニコしてて、優しそうな娘だったよ?」
「……あたしらがいうのも、なぁ」
「一応、尊敬には値する一流の暗殺者……だからな」
「私、サタデイのことは苦手」
何故かサタデイの評判は誰から聞いてもあまり良くないものばかりで、あのフレンドリーさを思い出して疑問が深まった。
そしてボクたちの食事が終わると再び馬車は発車する。
どうやら目的地である屋敷は人里から離れた山あいにあるらしく、馭者に聞いても何をするのかなどは一切知らないそうだ。
窓から見える景色はどんどん険しいものへと変わっていく。
数時間進むと屋敷が見えてきた。
生い茂った木々に囲まれた赤レンガの屋根瓦。
十中八九、あれが目的地だろう。




