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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第五章 暗殺者、南の大陸でがんばる!
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第90話 暗殺者、スライムの王さまを見る

 ボクはカティたちに連れられて、宿屋に戻った。

 通りを進むボクを見て、イジェルド人たちは目を輝かせて歓声をあげる。

 それが──彼らには指輪が青く輝いているように見えているから、だというのは容易にわかることだ。


(これ、なんだろう)


 宿屋一階のテーブルに座ると、人々が押し寄せてきた。

 カティたち三人は彼らを誘導し、また整列させる。

 一直線の人の列は宿の扉を抜けて大通りへと続く。

 まるで王様に貢ぎ物を持ってくる人々、とすら言える光景であった。


「ウェンズデイさま、これをどうぞ」


 椅子に座るボク。

 その後ろで品物を()り分けるカーチャ。

 お集まり頂いた皆々さまの手には荷物が抱えられている。


「ありがとう」


 品物を受け取るとカーチャに渡す。

 カーチャは後ろに並べていく。

 たとえば果物。たとえばお菓子。たとえば髪飾り。たとえばニワトリ(生きている)。たとえば奴隷。


 ニワトリに関しては厨房辺りで「コケー」という悲鳴が聞こえたが、きっと幻聴に違いない。

 しばらくしてローストされたチキンが出てきたが幻覚に違いない。

 美味しいのは事実だった。グッバイにわとり。


「襲名のお祝いって感じ?」


 宿に戻ってきたカティとルドヴィヒに問いかけると、そんな感じだと言っていた。

 イジェルド人は新たな〈七曜〉が生まれることを吉兆だと考えているらしく──ゆえに感謝と祝いの品を捧げるのだとか。

 このあまりにも大きな都市の人々がやってくるのだから、信じられないほどの品が集まっていく。

 商人であれば自らが取り扱っている品をボクに捧げているようだ。


「ねぇ、このままだと宿が埋まるんじゃない?」


 なんて問うと、ルドヴィヒは豪快に笑う。


「さっき新しく並ぶのを止めてきたから、あとは並んでいる奴らだけさ。でも品物を渡したいってことなら、城で保管されて売却される。金で支払ってくれた方が、レインもいいだろ?」

「確かにね。食べ物だけでも凄い量だし、食器とか剣とか、こんなに持てないよ」

「だな。おっ、もうすぐ来るぜ、面白い品物がよ!」


 ルドヴィヒの視線を追うと、扉から次の一団がやって来る。

 スライムを抱いている少女がいた。

 スライムを抱いている男がいた。

 スライムを抱いている老婆がいた。

 スライムを抱いている美女がいた。

 小さな子どもから大人まで、暴れるスライムを抱き抱えてボクに渡してくる。

 別にボクはスライム愛好家ってわけではない。

 しかし、どこからか捕まえてきたのであろうスライムを満面の笑みで渡されると……断りきれなかった。


(あ、緑色のスライムは初めて見た。凄い綺麗)


 宿は数十匹のスライムがぽよんぽよんと跳ねる無法地帯へと変貌している。

 店主は内心焦ったような顔で、それでも文句ひとつ言わない。


「ねぇソラ、このスライム緑色だよ? 可愛いね!」

「ピィピィ!」


 ──ぐちゃぁ


 緑のスライムが死んだ。

 どうやらソラはスライムの中でも相当、もはや無双の力を誇るらしい。

 圧倒的な力で同族を殲滅するソラ。

 駆逐されていく野生のスライムたち。

 即席の同盟でソラを取り囲むも、返り討ち。

 そんな激戦の中でスライムたちはソラを崇め称(あがめたた)えた。

 それはスライムの王が誕生した瞬間であり───


 と……まぁそんな光景を見ながら貰ったものを食べることにした。

 もちろんひとりでは食べきれないのでカティたちや、店のお客さんたちと一緒に。

 それは宿を貸し切っての宴会である。

 どこからかともなく歌が聞こえて来た。


「青空に太陽が輝く限り、夜空に星々が煌めく限り、イジェルド連邦に栄光が訪れる──」


 彼らが歌うのは陽気な歌。

 南の大陸に住まうという〈力を司る魔王〉を褒め称える讃歌。

 歌によると、南の魔王は温厚ではあるものの、あちこちに現れて無銭飲食を繰り返す食い逃げ犯らしい。

 ときどき遊びに来ては食い逃げをするという都市伝説のような存在は、魔王のイメージとはかけ離れている。

 そんなイジェルド式のジョークなのかマジなのか、真相が不明な話や歌を聞いたり、スライムの王が子分を逃がしてやっている光景を(さかな)にしつつ、楽しかった宴会はお開きとなった。



 翌朝。

 扉を叩く音で起こされると、寝ぼけ(まなこ)のボクの前に三人の暗殺者が立っていた。

 見知った顔。

 カティ、ルドヴィヒ、カーチャの三人だ。


「おはよ、どしたの?」

「依頼だぞレイン」

「えっ」

『ピェ』


 楽しかったのも束の間、目覚めの第一声はとんでもない言葉だった。

 目覚めたらいきなり暗殺依頼が舞い込んできた!

 その衝撃を例えるのならば、目覚めると知らない美女が隣で眠っていた!! くらいがちょうど良いのではないだろうか?

 そんなことを思いつつ、ボクはカティたちと大通りを進む。

 

「この依頼ってさぁ、ウェンズデイを指名した依頼なんだよ」


 へぇそうなんだぁ、なんて言いそうになりつつ、ボク自身がウェンズデイである以上はため息しか出ない。


「……どんな依頼?」

「わかんない」

「……はっ?!」

「あーいや、この依頼ってウェンズデイ本人を指名してるけど、内容は書いてないんだよ」

「そんなのアリなの?」

大方(おおかた)の依頼は普通に相手を殺すことなんだけどさぁ。たとえばティエラがあたしらを雇った時は殺しが禁止だったろ?」

「普通に殺してたじゃん」

「ハハッ……でさ? 暗殺者に暗殺を防いで欲しいとか技を教えて欲しいとか、護衛もそうだけど、暗殺だけが暗殺者の仕事じゃないんだよ」

「俺は救出依頼をやったことがあるぜ」

「私は情報収集とか偵察、盗みなんてのも……って話がずれてるわよ?」


 どうやら暗殺以外の仕事も割とよくあるらしい。

 珍しいものであれば、金持ちが本物の暗殺者を見てみたいというだけで雇うという、怖いもの知らずな依頼すらあるようで。

 

「だな。で、今回の依頼なんだけど指定した屋敷まで来てくれっていう内容なんだ」

「つまりボクを見たいって依頼?」

「わかんねぇぞ? 直接会ってから内容を言うって依頼かも知んねぇ」

「えぇ……」

「でも一人で来いとも書かれてないし、私たちも付いていくから心配しないで」

「……この依頼、危険じゃないよね?」

「うん、そうだよ」

「そうだな」

「そうね」

『ピィ』


 絶対に嘘を言っていると確信したが、ボクもあえて何も言わなかった。

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