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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第五章 暗殺者、南の大陸でがんばる!
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第89話 暗殺者、我らは戦火の灰より生まれた

 我らは戦火の灰より生まれた。

 我らは己が身を犠牲にし、侵略者に(くっ)しはしない。

 輝ける星々を(たた)えよ。

 燃え盛る我らを讃えよ。 

 祖国を照らす星々は永劫に色()せることはなく、我々は戦火に焼かれ、燃え尽きるのだ──。





 謁見が終わると解散となった。

 〈七曜〉というのは、やはりただの暗殺者ではないらしい。

 ボクの態度に憤慨(ふんがい)していた大臣たちも謁見が終わると、

 

「これであなたはウェンズデイとなった。どうか我々に繁栄を」


 と声をあわせて(ひざまず)いたのだ。

 首長以外の家臣、近衛兵までもがこちらに向かって頭を下げていた。

 以前にマンデイが大臣級の発言力がどうのと言っていたが、本当だったのだろう。


 他の〈七曜〉たちは謁見が終わると去っていった。

 ボクとソラは帰るふりをして隠れていた柱の影から姿を現す。


「ねぇねぇソラさん」

『ピッピィ?』

「あれ、玉座ですよ!」

『ピィ』

「ちょっと待っててね」


 ソラを玉座の正面に置いて、ボクは玉座に腰かけた。

 脚を組み、肘掛けに腕を置く。

 顎をそびえ立たせ視線は眼下の空色に。


「我こそが王の中の王、魔王である。勇者ソラよ。もしも我の味方となるのなら世界の半分をお前にやろう」

「ピィ!?」

「さぁどうする、空色の勇者よ?」

「……ピ……ピェ……ピピィ……ピィーイ!」


 人類を裏切った勇者と共に、ボクは高笑いを──しているのを、ひとりの少女が柱の影から見ていた。

 少女は銀色の髪を腰ほどに伸ばした褐色の肌の美少女である。

 彼女はスライムと話している少女を見ていた。


「ハーハッハッハー」

『ピィーピッピッピー……ピェ?!』

「どしたの、ソラ……えっ」


 柱の影に隠れて首長がこちらを見ている。

 お付きの使用人たちも一緒で、笑いをこらえているようで。

 顔を熱くなり、赤くなるのを感じる。よし帰ろう! と颯爽と進みだした時、呼び止められた。


「魔王どの。ちょっとついてきて貰えるか?」


 チョイチョイと手招きする首長に転げ回りたい気持ちを押さえて、ついていく。

 案内されたのは白い幻想的な扉。

 そこを開けると広い部屋があった。

 ベッドはピンク色でふかふか。デフォルメされたタイヴァスのぬいぐるみが置かれていて可愛らしい。

 誰がどうみても女の子の部屋である。


「ここ、君の部屋?」

「うん! そうだよ、部屋に同い年くらいの女の子がいるなんて初めて! ねぇねぇ、オルベリアから来たんでしょ? どんなところなの?」


 少女は『首長』という肩書きを脱ぎ捨てて──現に真珠色のマントを投げ捨てている──年相応かもっと幼そうに喋った。

 そしてソラをつついている。


「このスライム、噛まない?」

「ソラは良いスライムだからそんなことしないよ!」

『ピィ!』

「すごーい! やっぱりこの子が鳴いてたんだね!」

「うん。あ、首長に迷惑かけちゃ駄目だよ」

「ピィ~」

「私のことはアイノって呼んで欲しいなぁ」


 イジェルド連邦首長、アイノはソラを抱きしめると楽しそうに笑う。

 そんな少女はボクの生い立ちを知りたがった。

 どうせ家の場所もティエラとの関係も、バレている。

 そこで勇者だということは伏せて、今までの冒険を話した。

 

 アイノは時に怒り、時に落ち込み、時に手に汗握って、話はイナガミとの戦いまで進んだ。

 少女はまるで英雄の冒険譚を聞いているかのようにワクワクしていた。

 ウェンズデイとの戦いでは悲しそうな表情で静かに聞いている。


「──と、まぁこんな感じかな。それでここに来たんだけど……今さらだけど玉座に座ってごめんなさい」

「えっ? あんなのただの椅子だよ? ……あ、でも怒ってる。許して欲しかったら私と、お友達になって……?」

「うん、別にいいけど?」

『ピィ!』

「わーい! 初めてお友達ができたー!」


 二人の銀はベッドの上で笑いあった。

 空色のスライムは飛び跳ねて笑っている。

 この年齢で首長というのは、想像すら出来ないほどの重圧があるのだろう。


「そうだ、本当は初仕事のあとで渡す物なんだけど」


 アイノが右手を上げると、ひとりの魔法使いが背後に現れた。

 彼女に何かを持ってくるように伝えると、魔法使いは再び消えて、今度は扉から入ってくる。


「どうぞ、ウェンズデイさま」


 それはくすんだ銀色の、何の変鉄もない指輪だった。

 誰が見てもただの安物で、装飾のひとつも無いシンプルな物。

 ボクはくれるのならばと受け取ると、中指に着けた。


「うわ!? なにこれ」


 それは着けた途端に青く煌めきだした。

 まるで端から端までサファイアかのような深い青が美しい。


「その指輪は『七曜の指輪』だよ。特別な魔法がかけられていて、所有者とイジェルド人以外にはただのくすんだ銀の指輪に見えるの」


 どうやらこれを着けていれば、イジェルド人にボクがウェンズデイであると喧伝(けんでん)することが出来るらしい。

 イジェルド人は七曜を命懸けで助ける。

 七曜はイジェルド連邦を助ける。

 それはまるで共生関係のようであり、海外にいるイジェルド人であっても指輪を見れば助けてくれるのだとアイノは言った。


「ありがとう。アイノ、じゃあそろそろ帰るよ」


 窓から外を見ると夕暮れ時である。

 泊まって一緒に寝ようと頼まれた。しかし女の子ではあるとはいえ、女性の、そのうえ首長の部屋に泊まるのは問題しかない。

 今回は遠慮させて貰う。

 別れを告げて部屋を出ると、カティたち三人が待っていた。

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