第84話 暗殺者、南の大陸にゆく
新しい章、暗殺者編!
サモンナイト街道を突き進んでいたレインが暗殺者に様変わり。
元勇者は南の大陸で何を見るのか───的な。
これからもよろしくお願いします( ≧∀≦)ノ
暗殺者〈首切り〉ウェンズデイこと、エイナルを殺したボクは、南の大陸の覇者たるイジェルド連邦へと行くことになった。
それもこれも暗殺者の掟として、仲間が殺された場合は殺した相手を『どこまでも追って殺せ』というものがあるから、らしい。
とはいえ、イジェルド連邦において最強と言われている『七曜』のひとりである、ウェンズデイを返り討ちにしたことは、イジェルド連邦の支配階級や暗殺者たちにあり得ないほどの動揺をあたえた。
また、ウェンズデイを含めた『七曜』への加入条件というのが前任者を殺すことであるため──加入しなければ残りの六人が殺しに来る──ボクはしぶしぶ、そう、しぶしぶ向かうことになったのだった。
「で、なんでまたここに来てるの?」
ボクの眼前にはおんぼろ宿屋、砂とかげがある。
屋敷まで迎えに来ていた三人組に案内されたのは、またしてもここだった。
「なんでってイジェルドに行くんだよ。なぁ?」
「おう。何度も説明しただろ、イジェルドに行くって」
「いや、それはわかってるんだけど……。船で行かないの?」
「船で行くならオルベリアの南部に行かないと。陸路での移動と航海を考えて、数ヶ月はかかるわよ」
「……それは嫌だけど、でも船旅の気分だったのに」
『ピィ……』
先導されるままについていく。
宿の中は、以前来たときと同じように外観とは違う豪奢な造りだった。
まるで我が家だと言わんばかりの慣れた手つきの三人は、以前とは違い、階段を降りて地下へと向かう。
ひんやりとした石造りの地下室には、ひとりの魔法使いが立っていた。
「遅いぞ」
フード付きローブのフードを深々とかぶっている男が、ボクたちに軽くお辞儀する。
彼がフードを相手の足元くらいしか見えないほどに深く被っているのは、自身の顔を見て欲しくないのと、こちらの顔を知ってもめごとに巻き込まれるのを避けるためであることは容易に想像できた。
「では予定通り四名でいいのだな?」
魔法使いの声は淡々としている。
「……なにが?」
「はぁ? 私の魔法で転送してやるのだ。知らずに来ているのか?」
魔法での転送、それが何かわからない。
勇者だった頃にはそんな魔法は聞いたことがなかった。
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!」
『ピィ!』
「……ソラ、スライムも一緒に転送できる?」
「スライム? あぁ、その足元の……小さいので大丈夫だと思うが、死んでしまう可能性もある。スライムのような低俗な魔物ごとき──」
「てめえ。ウェンズデイのスライムを殺したらどうなるか、わかってんだろうな?」
ルドヴィヒが獣のように唸る。
横柄な態度だった魔法使いは猫に睨まれたねずみのようにたじろいだ。
「ウェ、ウェンズデイ!?」
「あたしらへの態度は今まで通りでかまわない。でもな、ウェンズデイへの態度は改めろ。殺すぞ? クソ魔法使い」
カティが睨むと、彼は身構えて後ずさる。
「スライムを殺すことは許されないわ。転送後に死んでいたら──戻ったあと、あなたを探してケジメをつけさせるわよ?」
最後にカーチャの感情を一切込めていない声を受けては、青白くなった顔で魔法使いは何度も首肯するしかない。
「ウェンズデイのペット……。い、いえ、大丈夫です! 四名と一匹、大丈夫です! 必ず無事にお届け致します!」
『ピェ!』
「ひぃ……」
どうやらウェンズデイのペットだと思われたソラは無事に転送されるようである。
前任のウェンズデイ、エイナルの異名は魔法使いにも知られるほどであったらしく、態度が急変した魔法使いはペコペコとボクらを予定された位置まで案内した。
地下室の中央、その床には無数の傷が入っている。
それらが故意に傷つけ、彫られたものであることは、一目瞭然だ。
「これ魔法陣?」
「はい、よくご存じで。お嬢さん、これは転送魔法の魔法陣です。私レベルの魔法使いでしたら、あらかじめ印しておけば、魔力を注入するだけで魔法を発動させられるんですよ」
わずかに自慢する声音を、ボクは素直に称賛した。
この技術が当時もあれば……魔王討伐の旅はもっと簡単だったろう。
「こんな魔法を造るなんて、天才だね!」
『ピィ!』
魔法使いはばつが悪そうに、フードの上から頭を掻いた。
「いやいや、この魔法陣を造った御方は私などではなく、〈深淵の魔女〉さまだよ」
「……それってアルカ?」
「あぁ、そうだが」
記憶の中には確かに魔法陣があった。
どこで見たのかと思い出してみれば、アルカが旅の途中でなにやら書いていたのを思い出す。
(新しい魔法。夢が叶ったんだね、アルカ)
などと思っていると、魔法使いは所定の位置──中央の陣の外にある、小さな陣の中──に移動すると手元の刻印に魔力を込める。
魔法陣が淡く、青白く、発光をはじめた。
「これは取り決めに違反するとは……思う。だが、聞きたい。あなたは何者だ?」
「えっ?」
「魔法陣へと流れる、魔力の流れがいつもと違う。私の魔力など不要なほどだ」
足下を見ると、ボクを中心として魔法陣の光が波打っているのに気がついた。
「一応、ボクも魔法使いなんだよね」
「お名前をうかがっても?」
「んー、まぁ最近じゃウェンズデイって呼ばれてるかな」
魔法使いの彼はフードを上げて、その姿が見たくなった。
子どもの声。女の子だろうか、長布から覗くブーツが見えたのを思い出す。
きっと自分の半分ほどの年齢の少女が、これほどの魔力を手にしている。
(まさしく、天才)
彼は魔力の注入を終えると、立ち上がり居住まいを正して頭を下げた。
暗殺者相手ではなく──稀代の魔法使いに対して。
「いってらっしゃいませ。ウェンズデイさま」
「ありがとね、魔法使いさん」
地下室が光に包まれ、それが消え去ったとき、そこには魔法使いひとりだけが立っていた。




