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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第83話 元勇者、暗殺者になる!

 翌朝。

 今日はカティたちと合流してイジェルド連邦に向かう日だ。

 そこで裏庭の一角で特訓をすることにした。

 戦うべき相手は──決まっている。


「ヨウカ、召喚!」


 現れたヨウカに事情を説明すると、彼女は「へぇ、そうですか」とどうでもよさそうに言う。

 美しい魔物の興味は別のところにあった。


「主さま。そこにいる、(うぶ)な生娘たちは誰ですか? 美味しそうですね」


 彼女は本気なのか冗談なのかわからないが舌なめずりをした。

 ティエラとミッコとユッカは青白い顔で後ずさる。


「金髪の娘はティエラ、ボクの妹。二人のメイドはミッコとユッカ。ボクの家族やこの屋敷の人たちを襲ったら──絶対に許さない」

「ふふふっ、もちろんですよ。私はあなたの忠実な配下なのですから襲ったりしません」


 ヨウカはティエラたちに人間のものではない、まるで蛇の牙のような犬歯を見せて笑った。


「に、兄さん、そちらの方は?」

「うわさのストリゴイだよ。〈黒姫〉ヨウカって知らない?」

「──〈黒姫〉!? そ、それって魔王の三騎士のひとり……」

「よろしくお願いしますね、主さまの妹」

「……はい」


 ヨウカは余裕の表情で仰々(ぎょうぎょう)しい挨拶をした。

 両手でスカートの左右を持ち、片足を引く貴族のような挨拶だ。

 もちろん貴人に会ったらこのような態度が正しいのだろう。


(今度、ボクも真似してみよ)


 それからボクは、ヨウカと戦った。

 コボルトのような肉体面では勝てなくても、武器を使えば倒せるような相手とは違い、ヨウカにはどうしようと勝てる気すらしない。


「──あうんっ」


 手加減されて撫でられただけでも身体が吹っ飛ぶ。

 剣を振っても片手で、それを止められる。あくびをしながら剣筋を読まれてしまう。

 勇者だったころ、ヨウカと直接戦ったことはなかった。それでも自身と同じ程度の強さだったろう彼女に弄ばれるのは、ツラい。


「もう、主さまったら変な声を出さないでくださいよ」

「……ソラ、一緒に戦って!」

『ピィ!』


 ボクはソラが足元にやってくると同時に叩き潰す。

 ヨウカの驚いたような顔が見えた。


「ソチラス、召喚!」


 黒から現れた全身鎧をまとったような虫人は、一直線に突っ込む。

 少女の腰ほどに太い腕でヨウカを殴る。

 しかし奇妙な体勢で──倒れ込んだのはソチラスだ。


(黒爪……!)


 ソチラスの腕は一瞬で切断され、殴りかかったままの姿勢でバランスを崩したようだ。

 膝をついたソチラスは見上げるように赤を見る。

 ヨウカは上腕から先が黒に染まっていた。鉤爪のように変化した指の先、爪は太刀を思わせる形状に変化している。


「ソラ、一瞬でいい。ヨウカの動きを止めて!」

『ゲルァ!』


 落ちた腕がそのまま這いずり、ヨウカの足首を掴んだ。

 隙を見逃さないソチラスは、柳腰(やなぎごし)に手を回して締め上げる。


「あ"ぁああああ……」


 苦悶の表情でうめき声を洩らすヨウカに、ボクは百々切丸の切っ先を向けた。


「これでボクたちの勝ちだ! どーん!!」


 見えない刀身、その切っ先がソチラスめがけて突き進む。

 ソチラスもろともヨウカを貫通する──かに思えたが、突然ソチラスの姿が掻き消えた。

 炎のような赤髪が揺れる。

 空から欠片が落ちてきたような、空色が飛び散った。

 一撃でソチラスを粉微塵にしたのは黒い爪だ。

 そして見えないはずの刀身は黒い鉤爪のような爪先で(つま)ままれている。


「あ、あれ……?」


 押すことも引くことも出来ない剣をとっさに離すと、ヨウカが間近に迫っていた。

 アーカーシャの剣を抜く時間もない。

 洞窟内と同じく脇の下に手を入れられる。

 まるで赤ん坊をあやすように持ち上げられて、眼前の美女は舌なめずりをした。


「主さま、ひと噛みだけ──いいですか?」

「「レインさまを放せ、化物め!」」


 ぶんぶんと頭を振るとヨウカはボクを下ろしてくれた。

 しかし、


「メイドさん。あなたたちも私と、遊びたいの?」 


 剣を構えているミッコとユッカにヨウカは近づいていく。

 二人は(まなじり)に涙を溜めて剣を構える。


「──〈黒姫〉どの、私の弟子が失礼した」


 一瞬で双方のあいだに現れたカイネを見て、ヨウカは鼻を鳴らした。


「強いですね、人間。でも私がこんな小娘たち相手に本気になるとでも?」

「貴殿の爪から、殺意を感じましたので」


 ヨウカはわざとらしく「ふんっ」と言うとボクの元までやって来た。

 見事なプロポーションをした彼女と小さなボクでは身長差がある、乳房が頭の上に乗せられた。


「主さまぁ~、あいつ何者です?」

「……えっと、カイネだよ」

「カイネ……あぁ、あの」


 自然と首筋が危ない気がしたのでヨウカを撤退させる。「ちょっとなんで気づいたんですか」なんて声が一瞬聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。


 しかし今回の特訓には、大きな成果があった。

 ソチラスは強くても過信してはいけないこと。

 百々切丸の力も同様に過信し過ぎてはいけないこと。

 もちろん後者はヨウカが魔剣としての能力を知っていたから、というのもあるのだろう。


「はぁ、負けた負けた。ソラ召喚!」

『ピィ?』

「お互いに本気じゃなかったけどさ、負けちゃったね」

『ピゥ……』


 疲れたこともあって一度お風呂に入り、再度服を着替える。

 今度は妹に買ってもらった新しい装備だ。

 投げナイフくらいは買ってもいいかも知れない。

 部屋に戻って支度(したく)をする。

 リュックにいつもの服とドレス──ティエラがもしものときはドレスを着て、どこかの貴族の屋敷に駆け込むように、と言ったので──を入れて、金貨を小さな巾着に十枚ほど入れたものを一番奥に入れた。


(魔法が使えるから、替えの服がいらないのは楽でいいなぁ)


 どろどろになっていた前世を思い出して苦笑うと、ソラが楽しそうに笑った。

 そしてアーカーシャの剣をベルトの背中側に、狩猟刀を腰の左側に。

 百々切丸の鞘に紐を通して背負うと、とりあえずの準備は完了した。



 玄関まで降りると三人組が来ている。

 暗殺者だと知らなければ、普通の黒装束(くろしょうぞく)の男女。

 いや、明らかに堅気ではない雰囲気を(かも)し出している。

 これは武装している冒険者とは明らかに違う、空気、と言えばいいのだろうか? 近寄りがたさがあった。


「じゃあちょっと旅、してくるね」

「兄さん、オルベリアの風習を覚えていますか?」

「いや、さっぱり」

「では、えっと……狩猟刀を私にいただけませんか? 戦地に向かう者が家族にナイフを渡して双方の無事を祈る、というものなんですけど……」

「あ、うん。じゃあ」


 狩猟刀を渡すと、ティエラをそれを抱き締める。

 目の回りが赤くなっていた。きっとつい先ほどまで泣いていたのだろう。


「兄さん! 必ず帰って来て下さい。絶対に絶対に……帰って来てくれると、約束して貰えますか?」

「うん。約束する」

『ピィ~!』

「わかりました。ソラも兄さんを頼みます。──では妹として、家族として、兄の言葉を信じます! でも、出来るなら雪の降る前には帰って来て貰えると嬉しい……です」

「なにかあるの?」

「今は言えませんが、兄さんへのプレゼントを用意する予定です。受け取ってくれなくても構いません。それでも、兄さんが帰って来てくれるなら、それ以上の嬉しいことはない、です……」

「わかった。絶対に戻ってくるから安心して! プレゼントも楽しみにしてるよ」


 そうしてボクはティエラとカイネ、ミッコとユッカや屋敷の人たちに見送られながら屋敷を出ていく。

この章はここで終わりです。

よろしければこれからもよろしくお願いします(。・ω・。)ゞ

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