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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第81話 元勇者、戦利品

 交易都市ベルンは再度、恐怖に包まれた。

 人々の目には恐れの色がある。

 そうしていつもは華々しい歌を奏でる吟遊詩人ですら、酒場においてうなだれていた。

 店主に一曲頼まれても、まるで楽器の音色すら曇っているように。

 客たちも吟遊詩人に興味を示さない。


「──亡国の荒ぶる神は、偉大なる魔法使いによって倒された」


 いつもは豪快に食べ、飲み、酒と喧騒と嘔吐の臭いを充満させる酒場でさえも、暗鬱(あんうつ)としていた。

 吟遊詩人は歌を続ける。


「ベルンは救われた」

「しかしそれは嵐のように、やって来る」


 ウェンズデイはイジェルド連邦の暗殺者の中でも、最も有名なひとり。

 帝国の第三軍団と戦って皆殺した。

 ひとりで城を陥落させた。

 剣をひとたび振るえば千里先の首が()ぶ。

 殺した王族の数、十。

 殺した将の数、百。

 殺した兵の数、千。

 これから殺す者、万人。


「ウェンズデイ。おぉウェンズデイよ、今宵は何人の命を奪うのか。朝焼けにいくつの首級(みしるし)を晒すのか──」


 人々は怒るでもなく、悲しむでもなく、その歌を聞いた。 

 そんな中で、


「なぁ、言ってるぜ? 何人殺すんだ?」


 壁に短槍を立て掛けて、骨付き肉にかじりついている少女が問う。

 一方の銀髪の子どもは鼻で笑った。

 卓上には、この店で提供できる限りの豪華な食事が並べられている。

 数々の料理の中央には、皿に乗った空色があった。


「……裏切りスライムめ」

『ピィピィ!』


 ボクとソラは山でライラ一行に出会い、そこで犯人は「ウェンズデイ」だと言ってしまった。

 彼女たちはボクに洞窟の入り口で待つように言うと、洞窟の奥へと進んでいった。

 ライラ一行が門扉を開けて中を確認する。

 そこには強大な力を持っていたであろう魔物が横たわっており、なおかつ首が切断されていた。

 ストリゴイを殺すには『頭部の破壊』『首の切断』『心臓に杭を打って数年間、土に埋める』などの方法がある。

 ボクに出来ること、というと二番目しかなかったのだ。

 結果、


「ストリゴイが抵抗も出来ずに、一太刀で首を斬られている」

「遺体であっても……これほどの魔力を持っているなんて……」

「切断面を見たか? 人の首ですら、あれほど綺麗には斬れないぞ」

「間違いない。これはウェンズデイの仕業だ」


 とライラ一行は逃げるように洞窟を出る。

 そのあとは彼女らが財宝の輸送を手伝ってくれたこともあり、暗くなる前にはベルンに到着したのだった。

 一緒に運んでくれたお礼にと半分を彼女らに渡し、ボクはルカ商会で品物を売ることにした。

 ボクが商会でなにかをやっている。それを聞いたティエラは急いでやって来ると壇上に立つ。

 それからはオークション形式の落札、なんていうことがはじまったのだ。


 商会の主人たるティエラに顔を覚えて貰おうと、若手重鎮の差はなく無数の商人たちが品物を落札していく。

 そうして最終的にはすべての品が売れて、ボクの取り分は金貨五百枚となった。


「──というかさ。確かにボクには臨時収入があったけど、奢るなんて、言ってないよ?」


 暗殺者たちの腕が止まる。

 屋敷に遊びにきた彼女らに連れられて、酒場に来たのはともかく。

 そもそも仮にも上司的な立場だというボクに奢らせようとは、どういった了見だろう。


「おい、いくら持ってきてる?」

「俺は金を持たん主義だ」

「そんな主義いらないわよ。私は銀貨数枚はあるけど……」


 三人が「逃げるか」なんて言い出したので、ボクは肩を落とす。


「いいよ、ボクが出すから」

『ピィ?』

「ソラの分は出さないけど」

『ピェ~~~』



 翌日。

 朝帰り──カティたちに付き合わされた──したので怒られた。

 そんなボクはティエラと一緒に馬車に乗っている。

 馭者(ぎょしゃ)はいつも通りカイネが。しかしミッコとユッカは乗っていない。

 彼女たちは怪我が治ったので修行中なんだとか。


「兄さん、ソラと喧嘩したんですか?」

『ピィ……』

「本当に怖かったんだからね!」

『ピピュピェ?』

「ごめんね? じゃない! そもそも洞窟に入ったときから相手が誰か、気づいてたくせに!」

『ピッピッピッ』

「あー! 笑ったな!?」

「……兄さん、洞窟にいたストリゴイは、その」

「ボクが倒したよ。まぁ倒したっていうか……倒させてくれたんだけど」

「そ、そうだったんですね! ……(ちまた)ではウェンズデイが出たとか言っていますが、どこの誰がこんなうわさを流したんでしょう……」


 街を不必要に騒がせた責任をとらせないと。

 ティエラがそう言ったので、ボクは視線を反らした。


『ピピピッ』

「……えっと、これどこに向かってるの?」

「それは──」


 ティエラが説明しようと口を開いたとき、馬車は一軒のお店の前に止まった。

 ガラス張りのショーウィンドウからは魔石灯の光が見える。


「ここですよ兄さん! さ、行きましょう」


 ティエラに手を引かれて中に入ると、


 ──チリンチリン


 軽快な鐘の音が響いて来客を伝える。

 店主はカウンターに突っ伏していたが、勢いよく顔をあげた。


「いらっしゃい」


 可愛らしい声を聞いてティエラはカウンターに近づく。

 ボクとソラは店内の異質さに目を見開いた。

 おそらく雑貨屋なのだろう、多種多様な物が陳列されているのだが店舗の窓といい、明らかに周辺の店との品揃えが違う。

 グラスひとつとってもいびつな物などなく、美しい色彩は王族が使いそうな逸品だ。

 しかし値段は、


(──やっす?!)


 庶民でも購入可能なお手頃価格。

 ぬいぐるみなども、ボクの記憶にわずかにある異世界の物と、一切の遜色(そんしょく)がなかった。


「久しぶりですね。ユハ」

「最近忙しそうだったよね、どうなったの?」

「いろいろありましたけど……っと、まずは挨拶を。兄さん、こちらは私の親友で錬金術師のユハ。ユハ、こちらは兄さんです」


 ボクよりも小さそうな少女は「どうも~」と手を振った。

 水色の髪は今まで見たことがない。目の下の濃い(くま)も同様に。


「よろしく。こっちはソラだよ」

『ピィ~』

「ティエラってお兄ちゃんいたんだぁ」


 ソラが鳴いても驚かない少女は優しげに微笑んだ。


「さて、挨拶も済みましたし……()()の準備は出来てますか?」

「もちろん。でも、ちょっと待ってて」


 そういうと、ユハはカーテンを閉めはじめた。

 入り口の扉から顔を出して左右を確認したあと、鍵を閉める。

 そうして少し危険な雰囲気を発し、


「お客さま、合言葉はご存じですか?」


 聞かれたティエラは悪い役人みたいに笑うと、頷いた。


「では、人生とは──何色ですか?」

薄鈍色(うすにびいろ)です」


 まるで悪役のような、あるいは違法なものを取引する際の合言葉や慎重さまで見せると、やはり二人は少し危ない雰囲気で笑いあった。


「さぁ、こちらです。お客さま」


 ユハはカウンター奥の扉に進む。

 鍵穴が十個ほどついているが、そのうちのひとつだけに鍵を差し込むと、扉が開いた。


「くっふふ、兄さん、行きましょう」

「う、うん……」


 ティエラの背中を追いかけて部屋に入ると──なんてことはない、武具が陳列されているだけであった。

 ボクは苦笑う。


「なんか二人がこそこそしてるから、違法な薬でも買うんだと思ったよ」


 二人はさっと目線を反らした。


「いや、まぁ、その……そういう物も置いてるんだけどね」

「えぇ……」

「薬、というか、この部屋のすべてが違法な品ですよ。兄さん」

「 」


 ボクは絶句した。

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