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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第80話 元勇者、黒い姫騎士を見る

 ヨウカは急に照れたような顔になってモジモジとし始めた。

 ハァハァとした荒い呼吸と、とろんとした目でこちらを見ている。


「もう、主さまったら……でも、ソラのいない所でなら、いいですよ?」


 恍惚(こうこつ)とした表情でそう言われた。


(そんなこと考えてなかったんですが! いや、まさか無意識に……?)


 唖然としているとソラがあいだに割って入る。


『ピィピィ? ピーーィ! ピィピィピィ~』


 ソラを見ながら先ほどと同じようなことを言っているヨウカを見て、からかっているんだと理解した。

 きっと昔から、仲が良かったのだろう。


「うるさい。斬るわよ?」

『ピィ!?』


 ヨウカの右腕が黒く染まった。まるで星のない夜空のような色だ。

 指は鉤爪のように、されど太刀のように長く鋭く伸びている。


「ヨウカってそんなこと出来るんだ」

「はい。これは黒爪と言いまして、他には弓なども使えます」


 魔族には多種多様な個性とも技とも言えるものがある。

 空を飛ぶもの、火を吹くもの、鱗があるもの、そういった生き物としての(すべ)があるのだ。

 それは魚が人間のように二足歩行できないのと同じで、人間には決して真似が出来ないことである。

 ただ、手をブンブンと振り回して空中を切り裂いている彼女の姿は、先ほどまでのイメージとは違い可愛らしいものであった。


「……あ、そういえばそれって百々切丸ですか?」

「うん、そうだよ」

「それって()()()()が手の届かない桃を切り落とすために作った剣なんですよ。変な名前でしょう?」

「えっ、それで百々切丸(モモキリマル)なの?」

「変ですよね~」

『ピィピィ!』


 そのあとは怒っているソラを尻目に、ヨウカを一度撤退させた。試したいことがあったからだ。

 ヨウカは今のままでもとても強いはずだが、強ければ強い方がいいに決まっている。


(ソラとイナガミの合体はヤバい。だからこそ、ヨウカとイナガミもきっとヤバい)


 さすがにこんな場所で意識を失うのは危険だ。

 意識を失わない、つまり魔力の消費が少なそうかつ強そうな魔物を脳内でイメージする。

 彼らがヨウカと合わさっていくのがわかった。


「──ヨウカ、召喚!」


 黒から現れたのは、黒い鎧の女騎士であった。

 特筆すべきは太ももがあらわで編みタイツにブーツのような足当てという、世界的にもあまり見ない格好だということ。

 防御よりも見た目を重視しているのだと、誰もがわかる格好であった。

 そしてなにより目を引くのが、背中に生えた翼である。

 コウモリのような翼には赤黒い鱗が生え、光沢のあるそれは左右に広がり、実際に羽ばたくことによって宙に浮く。


「主さま、この鎧と翼は一体?」

「バジリスクの翼、ソチラス鎧だよ。あとレンオアムも入ってる」

「これが合体ですか。まさか私が空を飛べるようになるとは、思いもしませんでした」


 空中を舞っているヨウカは短いスカートを履いていた。

 そしてその先──履いてない。


「えっ」

『ピェ』


 まぁ履く履かないは個人の自由だろう。

 魔族には服すら着ていない者だって多いのだから。

 それにしても、ヨウカの合体は魔力の消費が少なかった。おそらく十数分は出し続けられる。

 ヨウカ単体なら一日は余裕のはず。

 ただし体調が、万全であれば。


「オロロロロロ」

「うわっ! どうしたんです、主さま!?」

「ま、魔力が切れそう……」

「では撤退させてください。困ったときはいつでも呼んでくださいませ、主さまの敵は全力で滅ぼさせていただきます!」

「頼りにしてるよ。これからよろしくね」

「よろしくお願いします、主さま! コボルトたち、この方々の言う通りにしなさい」


 ボクはヨウカ、それからコボルトたちを撤退させた。

 座り込むようにして地面に座ると、ヨウカに仕えていたコボルトたちが近づいてくる。

 彼らに交戦の意思はないようだ。

 奥にある扉まで案内されると、コボルトは鍵を開けて去っていく。


「なんだったんだろう?」

『ピャァ?』


 とりあえず扉を開けると──。



 ボクとソラ、それから後方の召喚したコボルト数体は、時おり休憩しながら洞窟を歩いた。

 手には金銀財宝──のちに聞いたら、魔王城にあったものらしい──を抱えて。

 がしゃりがしゃりと音をあげて歩いていると、前方から灯りが近づいてきた。

 全身鎧の女性を先頭にした一行だ。


「なっ!? また来ているのか……どうして。いや、それよりもなぜ後ろにコボルトが」


 全身鎧の女性と、その一行がこちらを見て驚いた。

 確かに異様な光景だろう。

 

「その品物は……一体?」


(ストリゴイを倒すと、くれました! 彼らに運ぶのを手伝って貰っています!)


 とは流石に言えない。

 そもそも新人冒険者があんな強大な力を持つ魔物を倒したということ自体、言えない。実際に倒してはいないし。


「あー、さっき奥まで行ったらストリゴイが死んでて、フードかぶって顔の見えない人が、宝石はあげるって言ってたんです。コボルトもそれを手伝ってくれてまして」

「ストリゴイを倒した者がいる? 誰だ? この辺りでそんなことが出来うる人物など限られているはずだが……名前は聞いてないのか?」

「えっ!? え~と──」


 カイネ、ダメだ。

 レン、ダメだ。

 今まで戦ってきた者たちの顔と名前が浮かんだ。

 ストリゴイを倒せそうな者……。


「ウェンズデイって名乗ってましたね」


 ボクはとっさにその名前を出してしまった。

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