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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第79話 元勇者、好敵手を倒す

 魅了の魔眼。

 目があった者を魅了する魔眼。

 それはまるで洗脳であり、一瞬でも視線が交わると相手を好きで好きで(たま)らなくなる。

 愛する我が子を、愛する恋人を、愛する者だからこそ殴りたい、などと思える人はごく(わず)かだろう。

 魅了の魔眼に支配されれば、魔眼所有者には決して逆らえない。

 ゆえに数ある魔眼の中でもひときわ危険視されていた。


(ソラが説得してくれてる……のかな?)


 少し離れた場所でソラと楽しげに会話しているのは、魔眼など無くても目が合うだけで惚れてしまいそうな絶世の美女だ。

 前世で幾度となく苦しめられたというのに、やはり美人は美人だと思うらしい。


(今の状況ってなんだ……?)


 元勇者のボクはぽつんとひとりで残されて、ソラは魔王軍の幹部と楽しそうに話している。

 ボクが今も魅了されていないと言えるのか、それはわからない。


(魔眼が魔物にも影響力があるのなら、イナガミすら召喚できない。……じゃあ勝てないじゃん)


 以前の肉体であれば、目を(つむ)ったまま戦ったのだが。

 ボクは肩を落とした。

 柔和な笑みで落涙する。

 一方のヨウカは振り返ると怪訝な顔をした。


「は? なんで泣いている?」

「正直に言って、今のボクじゃ……君に勝てない。召喚しても操られたら、と考えて召喚も出来ないし。今までの人生、楽しかったなぁ……って」

「いや、私はミカ──」

「ピィ!」

「……このスライムとは古くからの友人なのだ。彼女が殺すなと言ったからな、だから殺さないと誓う。戦いは終わりだ。それよりも『使令秘法』とやらを見せろ、勇者よ」


 ヨウカは片手を挙げた。

 奥の扉からコボルトが十体やって来る。


「あの、このコボルトは一体?」

「戦え。そうだ、先にコボルトを出してみろ」

「……はい」


 ソラはヨウカに抱き締められている。

 ボクはもはや敵陣に孤立していた。裏切りもの、いや裏切りスライムめ。


「コボルト、召喚!」


 足下に広がった黒の中から、音もなく現れたのは──完全武装のコボルトが一体。

 召喚を見たヨウカはあまり驚いた風でもなく、「へぇ」と言ってコボルトを調べはじめた。


「死霊術ではない。魅了は効かないけれど洗脳されているわけでもない。私が誰か、わかる?」

『ガルッ!』

「記憶はそのまま。ふーん。じゃあ私の言うことを聞く?」

『……』

「そう、面白い。さ、勇者……この者らを倒してみせなさい」


 調べ終わると、ヨウカはコボルトの胸に手刀を突き刺した。

 胴を貫いた手は黒く染まり、指の一本一本が刀のように鋭く変化している。

 絶命したコボルトは黒い霧のようになって地面に吸い込まれていく。


「……なんとかして、倒さなきゃ」


 ボクはため息と同時に背中の百々切丸(モモキリマル)を抜いた。

 敵はコボルトが十体。


(エイナルみたいには使えないだろうけど)


 相手に百々切丸の切っ先を向ける。

 魔力を込めると透明な刀身が伸びて一体を貫いた。


「おわっ」


 続いて即座に距離を詰めてくる残り九体に大振りな一撃。二体が倒れる。


 ──テッテーン、テッテーンテッテーン


「コボルト召喚!」


 数十体のコボルトが現れると同時に、彼らとの戦闘をはじめた。

 ボクは戦闘のすき間を縫うように移動して一体ずつ倒していき、頭の中の奇妙な音が鳴り終えると、にやりと笑う。


(さて、これでコボルトが百体。ここならイナガミだって出せる。魔眼が効かないとか言ってたな……よし、さりげなく召喚して──袋叩きにしてやる!)


「ふっ、あの~ヨウカさぁん」


 ボクは猫なで声で彼女に近づいた。顔には出来うる限りの無害な子ども、というような仮面をつけて。


「ボクね、他にも出せる魔物がいるんです! あなたにお見せしたいんです! だから──」

「イナガミを出して袋叩きに、か?」

「……えっ」


 冷や汗が流れた。

 顔からは血の気が引いて蒼白に変わる。


『ピィ?』

「や、やっぱり……本当に裏切りやがったな!」


 ボクとソラの口論にヨウカはため息をはく。


(ち、ちくしょう……あほスライムめ!)

(彼女が喋ったわけではない)

(……)

(聞こえているのだろう? 勇者よ)


 視線を移すと、わざとらしく柳眉を下げる美女が見えた。


「あ、頭の中に声が聞こえる……?」

「その通り。私は相手の思念、心の中を読めるのだ。逆にこちらの思念を送ることだって造作もない」


 前世の謎が、今になってようやくわかった。

 大戦の際に軍の指揮官たちが頭を抱えていたことである。

 初戦から中盤にかけて、なにをしても魔王軍が先手を打ったのだ。

 常に待ち伏せされ、常に裏をかかれる。

 そうなると各軍団は各々(おのおの)で動かざるをえなかった。

 だからこそ──勇者たちだけの突入作戦がおこなえたのだが。


「……ずるい」

「ふん、魔王ひとり相手に七人で戦ったやつがよく言えたものだ」

「ぐぬぬ」

『ピッピッピッ』 


 悔しがるボクを見てヨウカは楽しそうに笑うと、


「さぁ、勝負だ」


 なんて言った。 


「いやです」

『ピィ!?』

「ミ──ソラが言っている。血の沸き立つような戦いが出来るんだぞ、と」

「ボクは戦いは好きだけど死にたくはないんだよ。今は妹だっている、怪我するのだって、いやだ。ティエラが悲しむ」

『ピィ!』

「それはわかるが、ヨウカが欲しくないのか? 言ってた人型の魔物だぞ?」

「頭の中まで読まれるんじゃ、勝てないって」

『ピェ? ピッピッー!』

「笑わせるな。ヨウカの弱点は──って、私の弱点を言わないでください!」

『ビィ』

「は? なんで私がそんなこと……」


 ヨウカは物凄く嫌そうな顔をした。

 出会ってからはじめての、本当の感情が見える表情だった。


『ピィ!!』


 突然、大きな声を出してソラがヨウカにぶつかった。

 ヨウカは少し間をあけて──バタリと倒れる。


「ヤーラーレーター」

『ピィ~』


 倒れたヨウカの上でぽよんぽよんと跳ねているソラを見て、だいたいの察しはついた。

 とはいえ、この美女は明らかにそこらの魔物とは別格な力を有している。

 もしかするとイナガミに匹敵するかも知れない。

 そんなストリゴイを魂縛できるチャンス。


「……近づいたら、噛む?」

「噛むのであればさっきやっていた。はやくしろ! 生き恥は晒したくない」


 殺さないといけない相手に怒られてしまった。

 ボクは百々切丸を鞘に戻すと、アーカーシャの剣を手に持つ。

 眠るように横たわり、目をつむっているヨウカが見えた。


「さぁ、さっさとしなさい」


 ミカゲやヨウカのような魔族は魔人とも呼ばれている。

 名称の理由はもちろん、人間に似ているから。

 姿だけなら人間と大差がない女性。それも絶世の美女だ。

 殺すのは、気が引ける。

 特に戦闘で倒したというのでもなく、無抵抗で自らの死を選んでいるのが堪えた。


「──ッ」


 もう二度と、こういうことはやりたくない。


『ピィ?』

「うん、魂縛出来たみたい。ヨウカ、召喚!」


 足下が黒に変わり、その中から一人の美女が現れた。

 彼女はニコリと笑うとボクに抱きついてくる。


『ピィ~』

「ソラ、主さま、これからよろしくお願いしますね!」

「……なんか違う気がする」

「なにがです?」


 首をかしげるヨウカはニコニコと笑っている。


「その、今の性格とか。さっきと違うでしょ……」

「あぁ! 性格というか口調は主さまに仕えるのですから、当たり前でしょう? それに素の私はこんなです」

『ピィ』

「今の私はあなたの忠実な配下(しもべ)。望まれるのでしたら、口調などいくらでも変えますし、肉体(からだ)を好きにして貰ってかまいませんよ?」


 頬を紅潮させたヨウカにソラがぶつかった。

 先ほどよりも勢いのある攻撃に、ヨウカはびくともしない。


『ピィピィ!』

「あら? 今の私たちは同じ立場なのではないかしら?」

『ピェ~』


 優しげに笑う彼女は先ほどまでとは、まるで別人のようだ。

 そんなヨウカはボクの方にやって来ると顔を近づけて(ささや)く。


「バリアス高原で魔族の精鋭百人と戦って、あなたは生き延びた。それも人の身で。種族こそ違いますけど、私はあなたを──お(した)い申しあげておりましたよ」


 頬にチュッと柔らかな感触がした。


「ソラには内緒にしてくださいね?」


 魔族は嘘つきだ。……たぶん。

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