第75話 元勇者、再度侵入する
ライラさんたちが去ってから、ボクたちは腰をおろした。
彼女たちが言うように、洞窟内では今が朝なのか昼なのか、もはや夜なのかすらもわからない。
やはり帰るのならば明るいうちに帰りたい。
あの岩場はツラいので、正規のルートから。
「レイン、私たちはどうするの?」
カティとルドヴィヒはやる気になってしまったようだが、カーチャは冷静に指示を求めた。
ボクはわざとらしく考えたふりをする。
「んーっと、帰る。夜中に帰るとティエラに怒られるし」
立ち上がると、四人と一匹はライラ一行が去った方へと進んでいく。
カティとルドヴィヒの愚痴が聞こえるが、苦笑うことで返答とした。
(戦う意味が、ないんだよなぁ……)
今回、この洞窟内でおこなった数度の戦闘でわかったことがある。
カティたちが強いので負ける気はしないが、彼らが敵を倒してしまうと魂縛が出来ないのだと。
魂縛──つまり魂を縛れるのは、ボクかソラが直接殺した魔物だけらしい。
つまり現在、魂縛できた魔物は、ボクが倒したコボルトが一体とソラと合体したソチラスが倒した一体だけ。
これだけ苦労して山を登り、洞窟内で戦いながらここまで来て、いまだにコボルト二体。
(これじゃあ一体、なにをしに来たのかわからない)
三人は、特にカティとルドヴィヒが嫌そうだったが『雇用主』兼『ウェンズデイ』とやらのボクの意見を尊重してくれた。
正規のルートであろう帰り道を進む。
ようやく外の明かりが見えたとき、
「よくも我が配下を殺したな! 次に現れれば生きたままバラバラにしてやる!!」
と、謎の声による警告が洞窟内に響いた。
しかし暗殺者たちは恐怖するでもなく、喜ぶ。
「つよそー! どうするよレイン、殺っちゃうか?」
「やっちまおう!!」
「今の声、かなりヤバい魔物ね」
「うーん。……お腹空いたし帰ろうよ」
本当にお腹は空いていた。とはいえ先ほどの声はストリゴイのものだろう。
どうせ勝ってもカティたちが殺すので魂縛は出来ない。
ボクには戦う利点がまったくなかった。
つまんねー、と怒るカティにごめんと平謝りながら洞窟から出ると、ソラを撤退させる。
しばらく歩くと関所のような門で閉鎖している兵士たちに鉢合わせ……むしろその裏側に出てしまい、双方が変な空気になった。
「お前ら今朝の……どこから来たんだ?」
「あぁ? てめえらに関係ねぇだろ?」
「ライラさん! 全身鎧の女性冒険者! 彼女の仲間です!!」
「彼女はさっき帰っ──」
「仲間です!」
「そ、そうか。では通っていいぞ」
ライラさんの仲間だと言って乗り切った。
まぁイナガミ討伐戦のときは仲間だったのだから、あながち嘘ではない。
見るからに怪しんでいた兵士たちを尻目に帰っていくのだが、帰りの道は大変さなど皆無だった。
正規のルートとはこれほどかと、行きの岩を思い出してボクはしみじみと土を踏みしめる。
◆
ベルンまで戻ると、そこでカティたちと別れた。
なにかの準備があるのだとか。
イジェルドまで行く準備なのだろうが、正直まったく行きたくない。
しかし行かねば殺されるのだから致し方ないと諦めるしかなかった。
「ソラ、召喚!」
撤退させていたソラを路地裏で召喚して頭に乗せる。屋敷へは、まだ帰らない。
ボクは露店へと向かった。
とにかく美味しそうな食べ物を買い漁る。
肉串をたくさん買うと持ち帰るために葉っぱに包んでもらう。
この前も買ったイカ焼き、桃の蜂蜜漬けといった高級品や蜂蜜酒も買った。
蜂蜜酒。ミードは蜂蜜のお酒であり、ベルンの物はとても甘い。
小さな樽の中に入れて貰い、それらをリュックに入れる。
「これで買い物はおしまい。家に帰ろっか」
『ピィ~』
神さまから貰ったリュックには、品質を保証する力があった。
入れたものは腐らず、買ったときの温かさのままだということは最近になって気づいたことだ。
どうせなら教えてくれればよかったのに、というのは言いすぎか。
そんな高性能なリュックはパンパンに膨らみ、なかなかに重い。
次の日。
太陽もいまだに顔を出さない薄暗い空を見ながら、ボクは屋敷を出る。
ティエラが眠そうに目を擦りながら、玄関まで見送りに出てきた。
「兄さんお気をつけてぇ」
「うん! 夕飯までには戻るから、安心してね」
ボクは出発する。
目指すのはもちろん、あの洞窟だ。
早朝、ということもあって人通りのまばらなベルンの大通りをかけていく。
朝の空気に身を包まれながら久しぶりの冒険に胸が踊った。
(一人での冒険はいつ以来かな)
今まで、ずっと誰かと一緒に冒険をしていた。
もちろんソラが一緒なので厳格に言えば一人ではないのだが、それでも石畳を走るだけでもワクワクする。
門の前まで着くといつもの入場の列はなく、あくびをしている兵士がボクを呼び止めた。
「待って! こんな時間にどこへ行くんだ?」
「冒険です!」
「……君みたいな小さい娘が一人なのは危険だから、パーティーを組んだ方がいいんじゃないか?」
「ソラがいるので大丈夫です! では行ってきます!」
「それが不安なんだが……気をつけてね?」
心配している彼を半ば強行突破して進んでいく。
林まで走ると辺りを確認してから、ケイハスを召喚した。
大きな背中に跨がると、ボクは命令する。
「山に向かって──前進!」




