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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第74話 元勇者、好戦的な仲間たち

 先頭を歩くカティとルドヴィヒは、にんまりと楽しそうに笑っている。

 カーチャは地面に耳を当てていた。


「コボルト?」

「いや、違うわね。この音は靴を履いている音だし、おそらく人間。全身鎧(フルプレート)の者もいるわ」


 言い終えるとカーチャは矢をつがえ、曲がり角に向けて構える。

 カティとルドヴィヒは今にも飛びかからんと身を曲げた。

 ボクは苦笑う。この三人、あまりにも好戦的過ぎる。


「レイン。どうするよ、一撃目は俺に任せてくれるか?」

「あー……いや、相手が人間なら戦わない方が良いでしょ」


 三人は唖然とした。

 顔を見合わせて幻聴でも聞いたような、そんな顔で武器を収める。


「レインが言うなら……仕方ないか」


 うなだれているカティたちを見て、相手が人間であっても本気で殺す気だったんだなぁと、確信する。

 彼らは冒険者でも傭兵でもなく、暗殺者。

 人殺しを職業とする、プロフェッショナル。一緒に行動していたせいで忘れていた。


「どうして殺そうとしたの?」


 ボクの問いかけに三人は首をかしげる。


「えっ? 先に仕掛ける方が楽で良いじゃん」

「先頭を歩いてる仲間がいきなり死んだら、相手も驚くだろ?」

「レインが言ってるのはそう言うことじゃないと思うわ。そうねぇ、殺した相手から装備や金を奪うためって言えば納得する?」

「そんなことしたら可哀想だよ」

「アハッ、かわいいこと言うなぁ~レインって」

「だな! こんな凶悪な魔物を連れて言うセリフかよ!」

「……そろそろ来るわよ」


 鎧のガチャガチャという音と靴音が混じったものが曲がり角に差し掛かった。

 先制攻撃がいくら有効的だからといっても、いきなり洞窟内で奇襲するのは暗殺者ではなく、通り魔としか思えない。

 ボクたちは武器を納めると、その場で動かずに彼らを待った。

 たいまつの灯火(ともしび)が近づいてくる。


「──あら? あなたは」


 曲がり角から出てきたのは、全身鎧の女性だった。

 彼女はボクを知ってるようで、思い出すように首をかしげているが目庇を下ろしているので顔は見えない。


「……思い出したわ。こんにちはレイン。私はライラ、イナガミ討伐戦のときに会ったのを、覚えてる?」

「あ、はい。ボクも思い出しました、こんにちは!」


 言われてみれば冒険者組合で見た気がする。彼女の後ろにいる仲間たちも。

 直接話したことはなかったが、覚えていてくれたらしい。

 彼女たちの手首に光るブレスレットは夕日のような色、オリハルコンだ。


「なんで銀等級のあなたがここにいるのかわからないし、どうでも良いけど、あっちには進まない方がいいわよ」


 指差された方向は他の通路の倍くらいには横に広い。

 洞窟は広く、無数の横道があり、いつの間にか迷いかねない。そんな洞窟内でも初めて見るような広い通路だった。

 そしておそらく彼女たちが来たルートが正規のルートなのだろう。だが、そちらよりもなお広い。


「あっちにストリゴイがいるんですか?」

「へぇ知ってるんだ。その通りよ。私も見たことはないんだけどね。ここのコボルトを武装させてるのもストリゴイみたい」

「なるほどなるほど。で、ライラさんは、なにしにここに?」

「依頼を受けてね、武装するコボルトなんて危険なものを放置するわけにもいかないから調査してるの。あなたは?」

「えーと、ストリゴイを倒しに来ました」

「……えぇ……」


 ライラは目庇の裏で、なにいってんだこいつというような表情をした。

 どうやらベルンとしてもストリゴイやコボルトを注視しているようだが、街に対して仕掛けて来ているわけでも街の付近に現れたわけでもないので、もろもろの後回しにしているのだろう。

 冒険者組合も先の戦闘で上位陣が軒並み負傷しているため、負傷していないライラ一行だけが来ている。


(確かにコボルトは武装していても、あんまり強くない。この程度なら兵を出すほどでもない、か)


 攻めて来ないだろうというのは楽観視かも知れないが、攻めて来たとしても城壁を越えることは出来ない。

 いくら武装していても剣と鎧も簡素な物で弓だって拾い物。

 つまり攻めて来ても門を閉ざして城壁から弓を射れば、容易に撃退できる。


(ふもとに門を設置していれば、進攻は即座に気づく。っていうか兵士が百人もいれば殲滅できそうだけど)


 交易都市ベルンの敵としては、コボルトとイナガミとでは比べるまでもない。


「じゃあ私たちは帰るわね。あなたたちも早く帰った方がいいと思うわ。洞窟内は時間がわからなくなるから」


 バイバイ、と手を振って去っていくライラさんたち。

 ボクも手を振っていると、彼女は「あっ」と気づいたように立ち止まり、振り向いてこちらを見た。


「──奇襲してたら、両断してたわよ?」


 ライラは背中から見える長剣の柄を軽く撫でる。

 彼女の仲間たちは嘲笑するようにこちらを見たあと、去っていった。


「かー! いい女だなぁ! ()れば良かった!!」


 ルドヴィヒの声が沈黙を破る。


「なぁ~……今からでも追って、殺っちまおうぜ?」

「あたしも賛成だ! 殺ろう!!」

「……駄目だよ、二人とも!」

「レインの言う通りよ。奇襲で倒さないと」

「いや、そういうわけでもないんだけど……」

『ゲルルルルッ』


 去っていく彼らを見て、カティたちは笑う。

 本当に残念そうに、面白そうに、笑っていた。


 はたして戦っていたら、どっちが勝っていたのだろう?

 ルドヴィヒがライラを殺していたのか、その逆か。

 当のルドヴィヒ本人は、心底(たの)しそうに笑っていた。

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