第67話 元勇者、珍客
翌朝。
未明からメイドたちは大忙しだった。
なにしろルーファン家、そしてルーファン邸はパーティーなどを開催したことがない。
初めてのパーティーが主催者側で、そのうえお客は交易都市ベルンの錚々たる面々だ。
一切の手抜かりがあってはならんと、何度もルカ商会と屋敷を往復して食材や食器を持ってきた。
パーティーは昼頃から。
彼女らは額に汗を口元には笑みを浮かべて準備する。
◇
目が覚めたので窓から外を見てみると、屋敷の庭にはそれまでなかった机や長椅子が置かれていた。
机の上には光る美しいグラスが見える。
音楽隊の人々が演奏の練習をおこない、メイドたちが休憩の合間にうっとりと眺めている。
厨房も大忙しで、仕込みや時間のかかる料理などを作っているのだろう、美味しそうな匂いが鼻腔を刺激した。
(お腹へったなぁ……)
ふと、クローゼットに掛けられたドレスを見た。青い生地に金の刺繍を施した美しい逸品だ。
ボクはティエラの言葉を思い出す。
「兄さんの美しさの前には、名工の作品とて釣り合うとは思えませんが……しかし、私は頑張って二つに絞りました。このどちらかを着てください!」
そう言われて示されたのは赤と青のドレスだった。
赤は明らかに露出が過多で、スリットや透けている部分がある。
一方の青のドレスは肌の露出も多くない。
(誰でもこっち選ぶって。ティエラは赤を選んでたらどうしてたんだろう……)
『ピィ?』
「ソラみたいな色だね。さて、ティエラを探しに行こっか」
『ピィ~』
部屋にいるのも暇だった。
ボクは廊下に出て、そのあと玄関から出て庭に出てみる。
メイドさんたちに感謝しつつ石畳を歩いて──いると、格子状の門の隙間に人影が見えた。
近づいてみると、どこかで見たことが、というか昨晩見た人たちがいる。
「え……カティ、なにしに来たの?」
「なぁ、ウェンズデイ。パーティーするんだろ? いれてよ」
ニシシと笑うカティ。
「うまいもんあるんだろ? どうせ残るんだし食わせてくれよ、ウェンズデイ」
ニカっと笑うルドヴィヒ。
「はぁ……ごめんなさい、ウェンズデイ。この二人、止めても聞かなくて」
苦笑うカーチャ。
いろいろ言いたいことはあったのだが、まずは、
「そのウェンズデイってのやめて! レインでいいから!」
「えーでも、ウェンズデイはウェンズデイだしなぁ」
「あぁ」
「そうね」
三人は困惑した表情でそう言った。こっちが困惑しているわ! と焦っているのはボクだけである。
「命令でもお願いでもなんでもいいから、やめて! とりあえず入れられるか聞いてくるから待ってて!」
そう言った瞬間だった。
タタタッという石畳を走る足音が聞こえる。
振り向くとカイネとミッコとユッカ、そしてティエラが剣を抜いて走って来ていた。
ボクが「あばばばばばばば」と慌てていると既に目の前では殺気がぶつかっている。
「兄さんから離れなさい!」
「「今度こそ守ってみせます!」」
「ハァ? やるってんなら相手してやるぜ!」
「あたしに勝てると思うなよ、メイド」
『ピピィ! ビィ~』
一部始終を聞いていたソラが悪のりしているのは置いといて、止めなければ流血沙汰になるのは目に見えている。
いくらなんでも祝いごとの前に縁起が悪い。
ボクは門に背を預けた。
「ワー! 待って、ちょっと待って! お互いに武器を収めて!!」
「……ティエラさま、彼らに殺気はありません。レインさまの言う通り、武器を収めましょう」
カイネの言葉を受け入れたティエラと二人の弟子は、しぶしぶ剣を収めた。
「ほら。あんたたちも!」
カーチャがわざとらしく肩を落として言う。
「仕方ねぇか」
「メイド! 負けたわけじゃねーぞ」
カティたちも武器を収めた。
流血沙汰は未然に防がれたのだが、どう説明するべきなのだろう?
(いやぁ~実は、暗殺者になってウェンズデイっていう二つ名まで貰ったんだよね、アハハー……なんて言えるか!)
さすがに可愛い男の娘でも言えることと言えないことがある。
仕方がないので嘘を考えた。
ただ、ボクは嘘が下手だ。
「えっとこの三人とは友達になったから……。パーティーに招待したいなって思って、えっと」
「兄さん。本当ですか? 脅されたり、弱味を握られたのではないんですね?」
「そんなこと、されてないよ!」
「あぁ! あたしら友達だよなぁ、レイン!」
「おう! レインを傷つけるやつは許さねーぜ!」
「友、うん。敵対はしないって誓うわ」
「はぁ……お互いに認めているので、兄さんを信じて疑いはしません。パーティーに参加するのも許可します。ですが、マナーは守りなさい。兄さんの晴れ舞台を台無しにすれば、当家と商会の名誉に誓って、消しますからね?」
その目は本気だった。いくらかかっても、凄まじい大金を使ってでも消すんだろうな。と確信出来た。
しかし彼らはそんなことお構い無しである。
「レインの妹こえー」
ヘラヘラと笑うカティたちには来客としてではなく、使用人として参加して貰うことになった。
使用人とは言ってもメイドなどではなく護衛、あるいは用心棒って感じの使用人である。
絶対に暴れるな。と言っているが……どうなるかは神のみぞ知るってやつであろう。




