第66話 元勇者、拒否出来ない
イジェルド連邦には無数の暗殺者がいる。
暗殺者は連邦において恐れられ、尊敬され、敬愛されている。
そんな暗殺者の中でも最強と言われている集団を『殺し名』といった。
「殺し名は五つ。『七曜』『闇蜘蛛』『夜刀会』『桜華衆』『王殺』です。ここまでで、ご質問は?」
「んー、結社は入ってないの……です?」
「ははっ、別に敬語など必要ないですよ。ご自由に話して貰っていい。結社というはオルベリア人などの無知で蒙昧な……おっとあなたもオルベリア人でしたね」
男は申しわけないと会釈する。
「他国の者は、イジェルドのことをなにも知らない。ゆえに殺し名も知らない。そこで彼らはイジェルド連邦の暗殺者をひとまとめにして、『結社』などと言っているのですよ」
「へぇ、なるほど」
「ちなみに拙者は桜華衆の頭領でござるよ!」
「そうなんでござるか」
忍者はしょぼんとした。
「殺し名に加入すれば部下を貰えたり、連邦内での大臣級の発言権を得ることも可能です。ここまでで質問は?」
「ボク、イジェルド人じゃないし、そもそもイジェルド連邦にも行ったことないんだけど」
「それは問題ありません。たとえばそこのサタデイも他国の人間ですし、そちらのサーズデイは日々、放浪しています」
「な! 世界を股にかけていると言ってくだされ! 見聞を広めて武を研ぎ澄ます。あぁ忍びとは良いものでござるなぁ」
「……」
それは忍びなのだろうか?
ボクとしてもいろいろ悩んだが、イジェルドを見てみたいと思うのは事実だ。
だが、いくつか……大事な質問が残っている。
「オルベリアとイジェルドが戦争すれば──どうなるの?」
「……そうですねぇ。戦争になれば、我々はそちらの王族や貴族を殺しに行きます。ですがそれに関わりたくないのなら、それでもかまいませんよ。そこは自由です」
「人を殺すの、嫌いなんだけど」
「それもかまいません。私も好きではないですし」
「じゃあ依頼を受けなくてもいいの?」
「依頼を断るのは、自由ですね。それでも高い地位や名声にあこがれを抱くものは多い。弱いと思われてしまえば、他の暗殺者に狙われますよ。それだけ、この称号は魅力的なものなのです」
「……」
「あぁ、そうそう、暗殺に関わらないのはかまいませんが邪魔をするのであれば、裏切り者として総力をあげて殺されますので、お気をつけを」
ボクは腕を組んだ。
(偉くなるのは利点がある。でもその分、暗殺者から狙われるのは、なあ……)
白い彼らが──椅子に座っている彼ではない──ソラと室内で追いかけっこしているという光景を見せられては、なにがなんだかわからなくなる。
マンデイこと、正面に座っている男の眼光が鋭くなった。
「あなたはウェンズデイを殺しました。この地位〈七曜〉は、前任者を殺した者しかなれない、殺し名の頂点です。この招待を断るということは我々の威信に傷をつけるということです。最低でも敵対者として認定される、ということをあらかじめ言っておきましょう」
ボクは唖然とした。
「……敵対者になったら、どうなるの?」
「ウェンズデイを除く六人が総出で──敵対者、つまりあなたを殺しに行きます。皆がウェンズデイと互角かそれ以上の使い手ですので、前任者に勝ったからといって、甘くは見ない方がいいですよ」
(えええええええぇぇぇ! 聞いてないぞ、そんなの! 入るしかないじゃないか!!)
ぐぬぬ、と顔を歪めたあと、ボクはため息をはく。
この集まりは『勧誘』ではなかった、らしい。
きっと敵か味方かを判断するだけの『面接』なのだろう。
エイナルはある意味、正々堂々正面から戦ってくれた。
だが、彼と同等の強さの六人がボクを──暗殺しようとしたら、防ぐ手段なんて存在するのだろうか。
(イジェルドを観光したいから入ろうと思ったのに……。いや、結局入るしかないのか)
選択肢なんてなかった。
「いいよ、わかった。……入る」
「おぉ! ありがとう。新たなる同志よ」
水晶の光が消えて青い霧が消え去る寸前に、「直接会えるのを楽しみにしている──」という声が聞こえた。
ボクはソラを抱き寄せると、空色に顔面を突っ込んだ。
カティたちがボクの元に来る。
「こんなの聞いてないんだけど!」
「ま、上手くいったんだし良かったじゃん!」
彼らはボクの背中をバシバシと叩いている。
三人によると数日後に集会があるので、魔法を使ってイジェルド連邦に行くのだとか言われた。
なにからなにまで聞いてないぞ、そんなの。
「はっはっはっ! まぁそんなに悪く考えんなってウェンズデイ!」
そう言って、彼らは笑っていた。
◆
とぼとぼと、家に帰るとティエラが玄関の前に座ってボクを待っている。
急いで駆け寄ると、「もう! 遅いです!」と怒られたのがなんだか嬉しい。
やはり待っていてくれる人がいるのは嬉しいことだ。
「用事は終わりましたか?」
「なんとなく。あと、ちょっと旅に出るかも知れない」
「旅、ですか……。どこに?」
「とりあえず南、かな」
『ピッピッピッ』
屋敷の中に入るとき、正直に言えないことを少し悲しく感じた。
しかし聞いたことをティエラに言って、どうなるのか。
もしかすると侯爵の権力ならば、ボクを逃がせるかも知れない。
ボクが逃げれば、きっと次はティエラが狙われるのだろう。
(ま、とりあえずイジェルドに行ってから考えよう)
ボクは暗い気持ちをぬぐい去るように、明日おこなわれるというパーティーに思いを馳せる。




