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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第65話 元勇者、勧誘される

 家具の少ない部屋だった。

 なにせ長机がひとつと、椅子がひとつ。他にはなにもない。

 きっと本当は宿屋、ではないのだろう。

 そしてなにより目を引くのは、長机の上にあるソラと同じくらいの大きさの水晶だ。下半分を木の根っこが覆っているので安定して鎮座(ちんざ)している。

 水色に透き通った水晶(それ)は異質な雰囲気を持っていた。


「座っていいぜ。あ、これビックリするだろうけど驚かなくていいから」


 カティが謎の水晶に手をかざすと、水晶が発光を始めた。

 青白い光が霧のように室内に充満して幻想的な光景に変わる。

 暗殺者の三人が部屋の端に移動したので、ボクは諦めて椅子に座った。


『ピェ!』


 ソラが机の上から、なにかを見ている。

 ボクもそちらを見てみると──青白い霧の中から白い人影が現れた。

 室内に現れたのは女性だとはわかるが、透けている。


「……なにこれ、ユーレイ?」

「それは他の場所にいる人を映し出す道具だよ。仕組みは知らないけど」


 カティの声が青の中から聞こえた。

 魔法を使っているというのはわかるが、こんなものは勇者だったころには無かった。

 白いユーレイたちは大きさや輪郭(りんかく)がわかる程度であり、男か女かはわかるのだが、顔まではわからない。

 これが故意なのか技術の限界なのかは知りようもなかった。


「うわー! この子、小さいね! 本当にウェンズデイを殺したのかなぁ?」


 女の子っぽい白い影が目の前でボクを覗き込んでいる。

 近い。キスしてるんじゃないか、とさえ思える近さ。


『ビィ!』


 勢いよくソラが彼女に突っ込むと、案の定すり抜けた。


「キャッ! 今の、なに~?!」

「……ごめんなさい。ボクのスライムです」

「スライム飼ってるの?」

「いや、ソラは──」

「コホン。小さいといえば、そなたもだろう。いや、若いといえば良かったか? ともあれ拙者は肉体の大小では力が推し量れぬと、知っているでござる」


 ボクの後ろにくのいち、いや女忍者がいた。

 にんにんというポーズと見た目もなんとなく忍び装束っぽい。

 しかし、なんというかニセモノっぽい忍者だ。


「私を含めて三人とは……他の三人は、なにを考えているのやら」


 目頭を押さえてまいったな、と現れたのは頭のよさそうな印象を受ける長身の男だった。

 彼はどこかの民族衣装を着ている。

 接近してボクをまじまじと見ている女の子が着ているのは、北方の巫女装束なのだと、記憶が教えてくれた。


 白いユーレイたちは、ボクがいるのを無視して誰が説明をするのかで揉めはじめている。


「拙者は忍ゆえ、話は苦手でござる!」

「私はあの子とお話したいけど、メンドーな説明なんかはパスかなぁ」

「ハァ……まったく。では一体、なぜ集まったんですか」

「暇だったでござる!」

「私もー」

「ハァ……」


 大変なんだな、暗殺者も。そう思いながら眺めていると男性が説明することに決まり、こちらにやって来る。

 その顔はボヤけているが疲れているように見えた。


「はじめまして。私はマンデイと言います」

「レインです」

「ではレインさん。あなたは結社についてどこまで知っていますか?」


 どこまで? どこまでだろう? 暗殺者ってこと以外には、


「えっと、イジェルド連邦の人ってこと、くらいですかねー」

「そうですか。では基本的なことからご説明しますね」


 どうやら彼らも別々の所にいるようで、彼がなにもない空間に座るとそこには椅子が現れた。

 少女は何かを飲んでいる。忍者は……上半身が壁にめり込んでいた。

 おそらく彼女の部屋にはあそこに扉か窓があるのだろう、と思う。


「まず、私たちはイジェルド連邦に所属する暗殺者です。暗殺者とは依頼を受けて完遂させ、報酬を得る職業。──つまり冒険者のようなもの、ですね」


 いや違うだろ、とは思ったのだが口には出さない。

 イジェルド連邦では暗殺が合法なのだから批判しても意味がないし、その暗殺者を二人も殺したのはボク自身である。


「暗殺者にはグループ、あるいは組織、と言えばいいのでしょうか。そういった大小さまざまな集団が存在しています」


 男の声には誇らしさがあった。それでも口調は穏やかで、言葉を聞いていなければとても暗殺者などの話をしているとは思わないだろう。


「連邦の首長に仕え、忠誠こそ誓っていますが、見ての通り結束力もありません」

「幹部っていうのは?」

「我々は暗殺者の中でも最高の実力を持つ上位七人であり、首長の直轄というだけです。それを幹部だと言う者も多いですが、依頼を受けて対象を殺す。したっぱと同じですよ、ほとんど」


 そう言った彼は他の二人を見て、肩を落としているように見えた。

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