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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第四章 元勇者、暗殺者になる!
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第64話 元勇者、真夜中の外出

 露店で大量に買ったイカ焼きを頬張りつつ通りを歩く。

 ソラにイカ焼きを突き刺すと、もきゅもきゅと食べていた。


(スライムってなんでも食べるんだなぁ)


 なんて思っていると、屋敷が見えてくる。

 邪魔にならないように自室に戻ろうとして、案の定気づかれた。

 ティエラはボクが怪我をしていないか確認するように上から下に、下から上にと服をめくって素肌まで確認する。

 これにはボクも肩を落とした。

 一方のティエラは、


「よかった。兄さん、怪我はしてないようですね」


 と胸を撫で下ろす。


「してないって言ったじゃん、途中で何度も……。ティエラにひとつ、聞きたいんだけど」

「なんですか?」

「イジェルド連邦って行ったこと、ある?」

「ないです。かの国とオルベリアは国交がありませんから」

「えっ、じゃあカティたちってどうやって来たの?」

「正確にはわかりませんが、国と国との交流がなくても往き来している船などはあります。といってもオルベリアの南部から、でしょうけど」

「んー、船かぁ。船、いいね!」

『ピィ!』


 首をかしげるティエラはメイドに呼ばれて、また忙しさの中に戻っていった。

 一方、ボクは自室に戻ると、ベッドの上に武器を並べる。

 百々切丸(モモキリマル)──妙な名前だが見た目はかっこいい、柄も非常に握りやすく実用的な魔剣だ。


「名前はともかく、見た目はいいね」

「ピェ……ピピッピピィ……」


 ショックを受けているソラを無視して、一度装備してみることにした。

 エイナルと同じように背負おうかとも思ったのだが、紐のような物もなかったのでリュックに縦に入れて取り出せるようにした。

 アーカーシャの剣はベルトの背中側に装着し、右手で抜けるようにする。

 狩猟刀は左側の腰。と、これでは全てが利き腕の右手でしか扱えないが……まぁいいだろう。

 夜には戦闘になるかも知れない今、左手で剣の練習する余裕などは無いのだから。





 そんなこんなで夜になり、食事を終えると再び部屋に戻る。

 装備の数々を装着し終えると、皆が寝静まるのを待ち、そっと部屋を抜け出して玄関に向かう。

 ドアノブに手をかけたとき、後ろから声をかけられた。


「兄さん。どこに行くんですか?」

「えっ!? ティエラ、なんで……え、えっと友達と遊びに──」

「こんな夜更けにですか? 相手のお名前は?」

「……ミ、ミッシェルとか」

「どこに住んでおられる方ですか?」

「あー……」


 ジト目でボクを見つめるティエラは、あきらめたようにため息を吐いたあと、心配しているという感情の含まれた微笑みを見せる。


「行くのは止めません。でも、絶対に戻って来ると約束して下さい」

「うん。絶対に戻ってくるから、安心して!」

「ソラも、兄さんを守って下さいね?」

『ピィ!』

「ソラもいるしイナガミだっているんだから、大丈夫だよ」


 (うなず)くティエラはボクを抱き締めた。その温かさがズキッと胸を苦しめる。

 もしも罠だったら。

 そう思うと不安が強まる。

 ボクは妹のぬくもりを忘れないように、急いで目的地へと向かって駆け出した。



 屋敷を出て十数分、カティたちが泊まっている宿屋は裏通りにあるらしい。

 道を聞いたおばさんは行くべきではない、と暗に言っていた。

 その意味が、通りに一歩踏み込んでわかった。

 ベルンにこんな場所があったのかと思うほどの陰鬱な空気。道の端には眠る浮浪者たちの姿。


「──待ちな」


 気がつくと浮浪者たちが立ち上がっていた。

 手に持つナイフが月明かりを肌に受け、淡く輝く。


「さ、叫んじゃうぞ」

「その前に首を掻き切ってやる」


 褐色の肌をした男たちがボクを中心にぐるりと囲む。

 輪はどんどんと小さくなっていき、白刃は鋭さを増していく。


「やっぱり罠だったのか。カティのアホ! 嘘つき!」


 ボクの怒りの声に彼らは立ち止まった。目玉が飛び出さんとばかりに見開いている。


「……カティ? お前、レインか?」

「そうだけど、なに?」


 男たちは急いで刃を鞘に戻すと顔を見合わせる。


「こんな小娘が?」

「しかし確かにレインだと、名乗ったぞ?」


 しばらくすると、彼らは道を開けた。

 ある者は闇に消えたし、ある者はまた浮浪者の格好に戻る。

 通りの真ん中に残されたボクはため息をはいて、先に進むことにした。 

 が、すぐに木製の建物に行き止まった。


(ぼっろ……)


 おんぼろ宿屋の鎧戸からは部屋の明かりが漏れ出ている。人はいるのだろう。

 看板には『砂とかげ』と書かれていた。


「聞き間違えた……のかな」

『ピィピィ』


 ここまで来て、躊躇(ちゅうちょ)する。

 室内での戦闘になった場合、イナガミもドラゴンも召喚することが出来ない。

 通りには彼女らの仲間であろう者たちもいる。

 まるで両手を縛られて泳いでいるかのようだ。


「はぁ……。罠じゃないことを祈るとしよう」


 諦めを吐き出すような、その言葉が聞こえたのだろう。二階にある鎧戸がキィーと怪しげな音を立てて開いた。

 そこから顔を出してこちらを確認するカティは、明るく笑う。


「遅いぞ、早く入って来いよ!」


 無邪気な愛らしさすら感じる笑みに、ボクは呆然とした。

 この前、ボクを刺したけど覚えてないのか? そう聞きたいがそこまで豪胆ではないので、覚悟を決めて宿の扉を開けて中へと入る。


「えぇ……」


 外観と内装が違う。

 まるで魔法かのように、内装はしっかりと掃除の行き届いた宿そのものだ。

 内装はオルベリア風ではないので、これがイジェルド風なのだろう。

 だが、店主もおらず他の客もいない。


 ──ギイッギイッ


 と、(きし)む階段を上り、部屋の扉をノックすると「入っていいよ~」と陽気な声がした。


「ソラ、どう思う?」

『……ピィ』


 ボクとソラは扉の隙間から中を覗いた。


「なにしてんだよ。早く入ってこいって」

「あたしらはあんたに攻撃しないって、誓うよ」

「そうね。だから入ってきなさいよ」


 諦めて中に入ると三人の暗殺者は、ニコニコと嬉しそうにこちらに微笑んだ。

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