第63話 元勇者、望まぬ再開
ティエラがメイドさんたちに命じて、明日のパーティーの準備を進めていく。
書斎で次々と手際よく作られていく招待状たち。
内容をかいつまんで言うと、明日パーティーです。妹のお披露目会なので暇なら来てください。
という感じだ。
(明日……いくらなんでも、滅茶苦茶だ)
通常であれば『馬鹿にしているのか』と怒鳴られそうな手紙は、夜までには宛先に書かれている貴族の元へ届けられた。
一部ベルン近辺に住んでいる者を除いて、ベルンの城壁内に住んでいる者ばかりであるから、それは難しくはない。
一方で手紙を受け取った貴族たちの反応はさまざまだった。
今まで他の貴族との関わりを持とうとすらしていなかった〈六侯〉の一人がパーティーを開くというのだ。
それも内容は『妹が出来た』というバカバカしいもの。
大半は読んだ瞬間に、渋い顔をした。大いに喜んだ者もいる。
内容の受け取り方はさまざまではあったが、返答は皆が同様のものである。
──お招きいただき感謝します。
これは貴族たちにはとても面白い、あるいは興味を惹かれる話だった。
ルカ商会の実力を調べることにもなるし、顔見知りになっても損はない。
なにより彼らを喜ばせているのは、ティエラ・ルーファンが、そしてレイン・ルーファンが、この二人が未婚だということである。
そんな策謀など露知らず、
(ボク、さっきまで意識不明だったのに)
と以前も病みあがりのボクにリーネがスパルタをおこなったのを思い出す。
でも荷物を持つのは心配されたので、なんだかおかしかった気がする。
そして今回のこれ。
オルベリア人、女性とは一体……。
時間を少し戻して、ティエラが招待状を書き終えた時のことだ。
ボクはティエラに質問をした。
「えっと、傭兵さんたちは……やっぱり全員死んでたの?」
「……はい」
「そっか。……彼らには悪いことをした。ボクがあんなこと、言わなければ死ななかったのに」
「傭兵が命懸けで戦ってくれて、私は感謝しています。それに自身が選んだことです。きっと彼らにも後悔はないでしょう」
ティエラは町の人たちに彼らを火葬するように頼んだらしい。
オルベリアでは土葬が一般的だが、傭兵たちは例外的に火葬にされる。
それは遺骨を故郷に送り届けるのが雇用条件に含まれているから、なのだとか。
「エイナルは?」
「彼は土葬ですね。敵とはいえ最低限の礼儀として埋葬くらいはしなければ。以前、兄さんたちと一緒に依頼を受けたトマスという方や、ウルホという殺し屋の方も埋葬は済んでいますよ」
「……そうだったんだ。ありがとう」
オルベリア人の考え方は嫌いではない。
いくら殺しに来た相手だったとしても、野晒しにするのは間違っている。
そうして現在。
書斎にはひっきりなしにメイドさんがやって来ていた。
「ティエラさま、食器はこちらでよろしいでしょうか?」
「……いえ、やはりガラスの大皿にしてください。貴族が相手ではナメられるわけにはいきません」
「かしこまりました!」
彼女たちは食器は、食材は、酒は、果物は、と主催者であるティエラの意見を聞きに来ている。
ティエラ自身もはじめてのパーティーゆえに右往左往しているようだ。
それでも、ボクが話しかけると作業を中断して話してくれる。
さすがに申しわけない。
「あの、ボクさ、邪魔に──ちょっと運動がてら、街に行ってもいい?」
「……兄さん。動けるようになったとはいえ、一時間前に目覚めたばかりなんですよ? 絶対に無茶はしないと……約束して貰えますか?」
「まぁ、うん」
「絶対に絶対ですよ? 誰かが兄さんにちょっかいを出したら、逃げて下さい! あとでルーファン家と商会の総力をあげて後悔させてやりますから!」
「逃げるから、そんなことしなくていいよ~」
ボクはにっこりと笑いながら、見送りで玄関までついてきたティエラに手を振った。
(あの後悔させるという言葉、アレはマジだ。目がマジだった……)
さすがに命まではとらないだろうが、ケツの毛までむしり取るってあれを実証しそうだと思うほどのマジな雰囲気。
相手にも迷惑だろうとあまり目立たないようにして、ボクは行く宛もなくブラブラと街中を歩く。
と、
『ピィ!?』
「ん、どした……の……」
前方を通せんぼしている者たちがいる。
バッタリと、しかし偶然ではなく、完全にこのタイミングを狙っていたであろう黒衣の三人組。
彼女らは、にやにやと笑っていた。
「──やぁ、久しぶり!」
「起きたんだな。心配してたんだぞ?」
「びっくりしてるじゃない。先に説明しないと!」
その三人は懐かしい面々。しかし会っても嬉しくともなんともない三人組。
カティ、ルドヴィヒ、カーチャだった。
呆れたという表情で額に手を当てているカーチャ以外の二人は、嬉しそうに笑っている。
(……ヤバい!)
武器は屋敷に置いてきているし、こんな人混みでは召喚なんて使えない。というか勝てるモノがイナガミかドラゴンしかない。
どうするどうするどうすると考えた結果、その瞬間に結論が出た。
(よし! 逃げよう!)
ソラを抱き抱えるとボクは走った。走って走って走り続ける。
路地裏を抜け、商店街を抜け、食事中の誰かの食卓まで通り抜けて走り続けた。
そして漁港にある、網などをいれている小屋に入ると──奥の物陰に隠れた。
(ま、まだ完治してないのに、走らせやがって……)
荒い呼吸をしていると、物置小屋の扉が開けられた。
ボクは両手で口をふさぐ。
「ハァハァ……逃げんなって! 話がしたいだけだからっ!」
カティが荒い息を吐きながら言う。
ボクは覚悟を決めた。
「……頼みがある!」
「なに?」
「ボクを殺すっていうのなら明後日まで待って欲しい! お願いだよ……。明日、ボクのためのパーティーがあるんだ」
「へぇ、パーティーやるのか。面白そうじゃん」
「……返答によってはここら一帯を壊滅させてでも、抵抗するからね!」
「いや、殺さないって!」
「……はぁ、私が話すわ」
呆れたような声を出したカーチャは弓と矢筒、そしてナイフを入り口の見える所に置くと、両手をあげてゆっくりと近づいてきた。
ボクは威嚇しつつ、ソラをボールのようにぶん投げる構えで向かい合う。
「がるるるるっ……なにしに来たの?」
「いや、実はね」
それはにわかには信じられない。いや、信じたくない話であった。
ボクは彼女から受けた説明を頭の中で反芻すると、口に出してみる。
「──つまり、エイナルは君たちイジェルド連邦の暗殺者、通称『結社』の幹部で、次の幹部になる条件っていうのが前任の幹部を殺すということ。で……エイナルを殺したから、ボクが次の幹部になれるってこと?」
「そーそー、その通り」
「あ、お断りします」
まぁ取り敢えず話だけでも聞きに来なよ! 金持ちになれるし尊敬されるぜ? 名誉な事だし、入らないとヤバいことになるよ(小声)などと新手の新興宗教のようなヤバそうな勧誘を受けて、ボクは悩んだ。
(いや、暗殺者の幹部とか……。でもイジェルド連邦に行けるのは、面白そうだよなぁ)
薄暗がりで悩んでいるボクを見かねてか、
「あー、夜になったら宿まで来てくれよ。裏通りにある『砂とかげ』って宿屋だ。んじゃ」
とカティが手を振るのを最後に、三人は去っていく。
ボクは唖然としていた。
突然のことが多すぎる。
肩を落とすと、漁港まで来ているのを思い出した。
せっかくだから、海の幸でも買って帰るとしよう。




