第62話 元勇者、新たな妹?
確実に身体には入らないであろう量の、食事を食べ終えた。
料理人のおばさんが脱帽するほどの胃を持っている──なんてことはなく、食べた途端に魔力へと変換されたのだろう。
ティエラたちも驚いていたが、食事後には自分で歩けるまでに回復していたボクの姿を見て、喜んでくれた。
「兄さん、来てください」
彼女の背中を追って進んでいくと、屋敷の裏手、庭園にたどり着いた。
「へぇ、こんな場所があったんだ」
屋敷の裏庭は庭園になっていた。
花が沢山植えられていて、花壇などと言うのが無礼であるほどの花園が、そこにはある。
真っ赤な薔薇や白や黄色の花の優しい香りがボクたちを包み込む。
そんな花たちの一角に、黒っぽい色で表面がうっすらと反射している石柱があった。
「これ、お墓?」
「はい。兄さんが眠っているあいだに用意したんです。ここしようと言うのは以前から決めていましたから……」
ティエラは嬉しそうな、でも少し寂しそうな顔で墓石を見ている。
そこには文字が刻まれていた。
ルーファン家の当主ティエラ及びレイン、両名の両親であるライルとルルナが眠る──
そう彫られている。刻まれている文字をなぞるとボクは複雑な気分になった。
体感としては数ヶ月前に両親と自身が殺されたように感じている。
いわば最近の出来事であるし、共に死んだせいか死に別れた気すらしない。
(悲しくないというと、嘘になる。それでも……ティエラと比べると……)
両親の墓石を守るかのように左右に二つずつ白い墓石がある。
それは護衛の騎士たちのものだ。
「兄さん、これを」
ティエラは大事そうに持つ箱をボクに手渡した。
美しい装飾の木箱には父の指輪と母の短剣が入っている。
ボクはそれを、墓の前に空いた穴の底へと優しく置いた。
二人で一緒に土をかけて穴を埋める。
手についた土を払い終えると、手を合わせた。
「〈導きの神〉よ。あなたの微笑みに感謝します。兄さんに出会わせてくれたこと、兄さんと両親を弔うことが出来たこと、共に──感謝致します」
揉み手するように祈っているティエラの真似をして、ボクも祈りを捧げる。
でも、神さま……三人娘が思い浮かんで苦笑う。
(誰がアルスゥなのか知らないけど、ありがと)
感謝を心の中で伝えていると、声が聞こえた。
「…さん……兄さん!」
「あ、ごめん。どうしたの?」
「これをどうぞ!」
差し出されたのは手紙だった。
まるでラブレターのような封筒ではあるが、妹がそんなものを寄越すはずもない。
ボクはおそるおそる開けてみる。
封じている赤茶色の蝋にはどこかの家紋の押し印があり、それをベリっと強引に開けると、中には三つ折りの紙が入っていた。
上質な手触りの羊皮紙だ。
「えーっと、ルーファン家の養子としてレイン・ヴィーシを迎えることを許可する。この手紙を開封した時点でこれを有効とし、レイン・ヴィーシはレイン・ルーファンに名を改めよ。なお、ティエラ・ルーファンを今まで通り、ルーファン家の家督とする。しかし、レイン・ルーファンにも相続権を与え、ただいまより子爵の地位を授ける……って! えぇぇぇぇぇえ!! ボク貴族になったの?」
「おめでとうございます。兄さん! いえ、レイン子爵」
「おめでとうございます。レイン子爵さま」
「「おめでとうございます。レイン子爵さま!」」
ティエラやカイネ、ミッコとユッカだけではなく屋敷にいる全てのメイドさんや料理人までもが集まり、ボクに挨拶の立礼をした。
有無を言わさぬその光景に仕方なく「うん」と肯定すると皆が喜んでいる。
『ピィ!』
「あ、ソラもありがとう。……ティエラ、貴族ってなにをしたら良いのかわからないんだけど」
「兄さんは私の補佐をして下さい!」
若く見識の浅い自分のためにボクが世界を見て、知識を広げさせて欲しい、と。
もちろんそれは名目上のことであり、実質、自由行動が認められたって感じだろうか?
「あとですね……えっと」
ティエラは言いにくそうに目線を反らした。
「どうしたの?」
「申し訳ないんですが、名義上……と戸籍上、兄さんは妹です」
「……は?」
「でも私は兄さんを兄さんと呼ぶので、安心して下さい!」
うーん。意味がわからない。
詳しく聞くと、どうやら家督であるティエラがボクを実兄として迎える、ということは前例も無いために出来なかったらしい。
ではそれならと実弟として迎えようとしたのだが、そもそも血の繋がりが無いために養子としてしか迎えることが出来ないと言われたらしい。
(まぁ、当然だよね。それを許せば強要して家を乗っ取れるようになるし)
とはいえ養子であれば、ボクがティエラの子供になってしまう。
そこでティエラは父が既に養子としてボクを迎えていた、という──まったくの嘘──直訴の手紙を国王に送り、ゴリ押ししたようだ。
半ば、というより完全に嘘だとバレていたものの、嘆願書にボクが兄ルカの転生者である、と記載していたことでなんとか許可されたのだという。
(ほんと、なんでこんな無茶が通るんだろう……)
いくら今回は長めに眠っていたとはいえ、いつ手紙を送っていたのだろうか?
思い返してみれば所用だと言って色々と手紙を書いていたし、宿で何かに記入させられたのを思い出した。
なんたる行動力。流石は一代で商会を作っただけはある。
「それで……ボクが寝ているあいだに役人が確認しに来て、弟だと言うのが誤字だと思われた。で、いつの間にか妹だと書き換えられていた、と?」
「はい! その通りですよ、兄さん!」
中身は兄で肉体は男、名義上と戸籍上は妹で女性。
妹、ティエラがボクを呼ぶときは、兄さん。
妹の妹がボクで兄さん。
女の子のような見た目でも、ボクは男だ。
妹より実際には遥かに年上ではあるが、今は年下。
(うーん、ややこしい)
それでも一応礼儀として、ボクは居住まいを正した。
「あらためまして、レイン・ルーファンです。みんなよろしく」
『ピピピピピッ』
ソラに笑われている中で、挨拶をした。
屋敷のすべての人への挨拶を終えると、ティエラが満面の笑みで近づいてボクの手を握る。
そしてさも当然かのように言ったのだ。
「に~いさんっ! 明日は兄さんの御披露目パーティーを開きますよっ!」
と。




