第60話 元勇者、戻ったそこは
はっと目が覚めた。
見えたのは女性などではなく、茜空でもない。
それは見たことのある天井だった。
「って、ボクの部屋じゃん! なんで!?」
誰もいなかったので独り言になってしまったが、ここはティエラの屋敷にあるボクの部屋に間違いない。
見慣れた家具はやたらと高級感があってベッドはふかふかだ。
「ソラ、召喚」
ベットの脇にあるテーブルに置いてあった王冠を、ボクは出てきたソラの上に乗せた。
「あれから……なにがあったか、わかる?」
『ピーピィ』
「そっか。……そういえばさ、夢の中に猫耳の綺麗な女の人が出てきて──」
『ピィ!? ……ピェ~?』
ソラが逃げ出すように扉に向かったのでボクは追いかけた。
立ち上がった瞬間に猛烈な倦怠感が襲ってきて、なにもないのに転んで顔面を強打する。クゥーと弱々しくお腹が鳴った。
『ピィ?』
「……痛い。これ、あれ? ボク、また魔力が尽きてたみたい」
全身が筋肉痛のように痛む。
痛みだけなら骨折しているように痛い。
うつ伏せになったまま動けなかった。
最初に魔力切れになったときは、身体が鉛のように重く感じた。そして燃えるように熱く。
二回目はずっと眠っていた。もはや死んでいるように見えたのだとか。
では今回は?
(熱さはないけど、動けない。それもめちゃくちゃ痛い。眠っていたのかは……まぁ屋敷に帰っているんだから、眠ってたみたいだ)
心配そうに鳴いているソラが器用にドアを開けて廊下に出ていった。
しばらくして、
「「レインさまぁあああああ!!」」
声が聞こえた。
扉の向こうから、誰かが走ってきているであろう音が聞こえる。
──ガチャリ
と扉が開き、メイド服が見えた。
ただのメイド服ではない。よく見てみると金属板や手甲、剣帯があるし腰には剣がある。
「ミッコ、ユッカ。無事だったんだね」
二人は立って動き回れるほどには回復していたが、包帯が巻かれていて痛々しい姿だった。
ぽよんぽよんと跳ねている空色が少し遅れてやって来る。
「レインさま! おはようございます。……お体は大丈夫ですか?」
「レインさま! お守りすることが出来ず、申しわけありませんでした」
「えっと、あちこち痛いんだけど……お腹が空いたかなぁ。ボクこそ巻き込んじゃってごめん」
二人の少女は少し悩んだような顔になったが、すぐさまパァと明るくなり、「では食事にしましょう。大至急用意させます」とミッコが廊下を走っていく。
「ソラ、リュック持ってきてくれる?」
「ピィ~」
ミッコの背中を見送り、ボクとユッカとそれからソラは、共にダイニングへと向かう。
自分では起きられなかったので肩を貸してもらった。
「んーと、ティエラは無事?」
「ご無事です。今は鍛冶屋に品物を受け取りに行っておられますので、屋敷にはいらっしゃいません」
「そうなんだ」
「……レインさまが目覚めたと、ソラが教えてくれて、本当に……」
ユッカは目をうるませた。
『ピィ!』
「ソラ、ありがとね。でもボク、そんなに悪そうに見えたの?」
などと自分で聞いて、今も肩を借りているのに苦笑う。
自分で動けない病人がなにを言っているんだか。
廊下を歩いていると、他のメイドさんたちがやって来た。皆が目尻に涙を溜めていて口々に「おはようございます」と伝えられる。
「みんな、ありがとう」
「いえいえ、レインさまがご無事で本当に良かったです」
嬉しそうな彼女たちを見て、ボクは安堵した。元の生活に戻ってきたのだ──。
その後はダイニングルームに到着して食事を待っている。
いきなり目覚めたので、住み込みの料理人たちが大急ぎで料理を作ってくれている最中らしい。
「ねぇ、ボクってあのあと……っていうか、なんでここにいるの?」
「……あの日の夜、レインさまがお戻りになられなかったので……その」
「最悪の事態も想定しました……」
「「そんなとき、夜空に一筋の煙が見えました」」
「煙?」
「はい。夜空の中に青空が一筋だけ残っているようでした。それからティエラさまと師匠が相談して、みんなで向かうことに」
「煙の場所まで向かうと……レインさまが、道路脇に倒れていました」
「「私たちのせいです」」
どうやらボクは、またしても魔力切れで気を失って倒れていたらしい。
何者かが付近で魔法の狼煙のようなものを使ったらしく、それで発見出来た、と。
(誰がやったのかなー、まったくわからないなー)
そして付近に倒れていた暗殺者を確認したので、ボクと暗殺者が相討ちになったのだと思っているらしい。
まぁあっちは死んでボクは生きてるのだから……そもそも相討ちではない気がするのだけれど。
二人は「ごめんなさい」「申し訳ありません」と謝罪の言葉を何度も言っていた。
それもこれも倒れていたボクには血の気がなく、体は冷えきっていて、呼吸すら曖昧で微かだったから、だとか。
そんなボクを大急ぎで馬車に乗せてベルンに戻り、ベッドに眠らせて一週間の時が過ぎているのだと聞いた。
(……もう、ソラとイナガミを合わせるのはやめとこ)
ボクはため息混じりにリュックに手を伸ばす。
なんとかファスナーを開けると中から一枚のカードを取り出して、見た。
レイン・ヴィーシ
Lv.3 力:E31 耐久:E26 俊敏:E20 魔力:A372
〈魔法〉
【使令秘法】
・魂縛できる
・召喚できる《召喚可能数:536870912体》
〈スキル〉
【前世の記憶】
・思いだせる
【生活補助】
・クリーニングできる
・牛乳だせる
・調味料だせる
・蜜酒をそそぐ
【対話】
・魔物と会話できる
【登録モンスター・魔物】
・ソラ(スライム)
・ストーンドラゴン
・ケイハスx2
・タイヴァス
・アーメイジャx5
・レンオアム
・バジリスク
・〈白き神獣〉イナガミ
(びみょーにスキルが増えてる。それにしても、召喚可能数が五億って……)
使い道がわからない。
使い道があるのかも、わからない。
「二人ってさ、レベルはどれくらいなの?」
「私は4です」
「私は……3です」
「「レインさまはいくつですか?」
「ボクも3だよ?」
「「またまたぁ~」」
二人は冗談だと思ったらしく、面白いですと笑っている。
でも……ジョークではなくマジ、本気と書いてマジと読む本気、なんですけど。




