第59話 元勇者、決着と戦利品
戦闘が終わると霧が晴れていき、大地が見えてきた。
降り立ったボクの周辺には激戦の跡が見える。血も、大地の亀裂も、戦闘の前には存在しなかったものだ。
そんな中に一人、倒れている者がいる。
血を吐き、もはや動けるような状態ではない男が。
「……おい、レインと言ったな……こちらに来てくれ」
声に殺意は無かった。
自身の死を受け入れているかのような声。
ボクは彼の側に立つ。
男はボクを見上げている。
「完敗だ。……おれの弟、エリクを殺したのが君だと聞いたとき、こんな小娘にやれるはずがないと思ってしまった。だからこそ、連れていた仲間と共に罠にかけて殺したのだと……」
男は血を吐き、それでも尚も言葉を続ける。
「だが、君の力は本物だった」
「エリクは……ボク、襲われそうになって……」
「はぁ……あいつは前からそういうところがあったんだ、何度も言い聞かせたのに。……すまなかった」
申しわけなさそうな声が聞こえる。
ボクは頷くと目線を反らした。
虚ろな目の男は、まるで清々しさのある顔で笑った。
「──君は俺を殺したことで、選択せざるを得なくなった。説明はもはや出来ないが……断らない方がいい。これは最初で最後の、先輩としての助言だ。あとは──あの魔剣は俺の相棒だ。野晒しにするくらいなら、使うか売って欲しい」
彼の視線の先、少し離れた場所には刺さった魔剣があった。
まるで別れを告げる微笑みのように柄頭の玉が煌めく。
ボクの胸の中は燃えるように熱くなった。
それは転生以前には感じたことのない動悸、あるいは感情の発露だろうか。
『ピィ!』
「えっと、ボクが大切に使わせて貰うよ。……最後に、あなたの名前を教えて欲しい」
「俺はエイナルだ。強き者よ、どうかそのチカラを正義のために使ってくれ──」
ボクは息を引き取ったエイナルに手を合わせた。
「さて、みんなありがとう。撤退!」
ソラ以外のモノたちを撤退させると、剣を持ってみる。
くれると言った物を貰っても、バチは当たらないはずだ。
「ねぇソラ、これ知ってる?」
『ピィ~!』
金色の鍔をしたグラディウス。
刀身はうっすらと浅葱色でキラキラと光っている。
柄の頭は濃い紫色の玉であり、柄は黒。鞘は激戦の最中に砕けてしまったようで残骸が落ちていた。
(……あれ? これ、漢字だ)
柄と柄頭の境に銘が彫られている。異世界の文字──百々切丸。
(モモ……キリマル?)
「ぷっ、変な名前ぐえー」
『ピィピィ!』
ソラがぶつかってきた。
負傷こそしていないが、戦い終わりには手痛い攻撃だ。
そして、なんとなく誰の作品かはわかった気がする。
「そういえばこの剣、間合いの外にいる相手を斬ってたけど……ソラ、どういうことか教えて?」
『ピィ!? ピ、ピィピィャ~』
「──では、わたしにお任せを」
いつの間にか背後に立っていた女性は、いつも通りに藤色のヴェールで顔を隠している。
「アトさん」
『ピピャュ』
「……その剣をお使いになるんですよね? 浮気性は好みませんが、英雄色を好むという。剣とは主と侶するもの、ええ、ええ。みなまで申しませんとも」
「……」
『……』
「……あの、それは魔力を込めれば刀身が伸びる魔剣です。刀身は透明で、込めた魔力の大きさによって長さが変わるみたいです。まぁ伸びた刀身は魔力の塊ですので切れ味や硬度は魔力次第、でしょうか」
『ピィ!』
「へぇー、だから遠くが斬れるのか」
エイナルが使っていた時は、明らかに刀身が届かない距離にいるタイヴァスが斬られていた。
取り敢えず振ってみる。
魔力を込めなければ、やはり刀身に接していない物は斬れない。
「──えい!」
今度は魔力を込めて振ってみる。
数メートル先の草が切断された。そして柄を握っている手のひらには物を切った感触があった。
透明な刀身に砂を落としてみると、跡すら付着しない。だが砂は、まるで透明な何かを避けているかのように流れていく。
「最長で五十メートルくらいかな? 面白い魔剣だね」
『ピッピピピィ~』
明らかに喜んでいるソラは、ぽよんぽよんと飛び跳ねる。
一方のアトは心配そうな声色を出した。
「レインさま、あなたはレベルが上がりました。ですので……その、がんばってください」
と、その言葉を残すと彼女の姿はこつぜんと消える。
町から離れた道路、空は茜色。見渡す限りボクとソラ以外には誰もいない。
「なにを頑張れば良いのか……。ソラ、ベルンじゃ試せないし、召喚を試してみよっか。……ん~ドラゴンとイナガミを合体させてみるね」
『ピィ!』
百々切丸でソラを叩いて潰す。
召喚している最後の一体だけは撤退が出来ないので、合体させるには必ず一度は殺す必要がある。
正直やりたくはない。
「──ドラゴン、召喚! ……えっ、なにも出ない……なんで?』
すべてを合体させようとすると、出来なかった。
何か条件があるのだろうか。
「んー……じゃあ、ソラとイナガミを合体させて──召喚ッ!」
目の前に空色の瞳をした人型のイナガミ(?)むしろ猫耳の女性? ──が現れた瞬間、ボクの意識は真っ黒の中へと消え去った。
◇
淡く光る白光の女は己が耳を触った。
まるで猫の耳としか思えないものが自分の頭から生えている。
陳腐なおもちゃ等ではなく、もはや本物以外のなにものでもないネコミミだ。
「まさか……このわたしが、ネコミミとはねぇ……」
せせら笑う女が気づいたように足元を見ると、銀髪の子供が倒れているのが見えた。
触れてみると死人のように冷たい。
「あーあ、完全に魔力が足りてない。……しっかし本当に女の子にしか見えないなぁ。私より可愛いとか、へこむわー」
ネコミミをぴこんと連動させて肩を落とすと、女は片手を路上に向けて、ため息一つと共に簡単な魔法を展開させる。
一瞬で起動した小さな魔方陣からは空色の煙が噴き出した。
それはまるで、茜空を貫くように高く高く、上がっていく───。




