表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
60/181

第59話 元勇者、決着と戦利品

 戦闘が終わると霧が晴れていき、大地が見えてきた。

 降り立ったボクの周辺には激戦の跡が見える。血も、大地の亀裂も、戦闘の前には存在しなかったものだ。

 そんな中に一人、倒れている者がいる。

 血を吐き、もはや動けるような状態ではない男が。


「……おい、レインと言ったな……こちらに来てくれ」


 声に殺意は無かった。

 自身の死を受け入れているかのような声。

 ボクは彼の側に立つ。

 男はボクを見上げている。


「完敗だ。……おれの弟、エリクを殺したのが君だと聞いたとき、こんな小娘にやれるはずがないと思ってしまった。だからこそ、連れていた仲間と共に罠にかけて殺したのだと……」


 男は血を吐き、それでも(なお)も言葉を続ける。


「だが、君の力は本物だった」

「エリクは……ボク、襲われそうになって……」

「はぁ……あいつは前からそういうところがあったんだ、何度も言い聞かせたのに。……すまなかった」


 申しわけなさそうな声が聞こえる。

 ボクは頷くと目線を反らした。

 (うつ)ろな目の男は、まるで清々(すがすが)しさのある顔で笑った。


「──君は俺を殺したことで、()()()()()()()()()()()()。説明はもはや出来ないが……断らない方がいい。これは最初で最後の、先輩としての助言だ。あとは──あの魔剣は俺の相棒だ。野晒しにするくらいなら、使うか売って欲しい」


 彼の視線の先、少し離れた場所には刺さった魔剣があった。

 まるで別れを告げる微笑みのように柄頭の玉が煌めく。

 ボクの胸の中は燃えるように熱くなった。

 それは転生以前には感じたことのない動悸、あるいは感情の発露(はつろ)だろうか。


『ピィ!』

「えっと、ボクが大切に使わせて貰うよ。……最後に、あなたの名前を教えて欲しい」

「俺はエイナルだ。強き者よ、どうかそのチカラを正義のために使ってくれ──」


 ボクは息を引き取ったエイナルに手を合わせた。


「さて、みんなありがとう。撤退!」


 ソラ以外のモノたちを撤退させると、剣を持ってみる。

 くれると言った物を貰っても、バチは当たらないはずだ。


「ねぇソラ、これ知ってる?」

『ピィ~!』


 金色の(ツバ)をしたグラディウス。

 刀身はうっすらと浅葱(あさぎ)色でキラキラと光っている。

 柄の頭は濃い紫色の玉であり、柄は黒。鞘は激戦の最中に砕けてしまったようで残骸が落ちていた。


(……あれ? これ、漢字だ)


 柄と柄頭の境に銘が彫られている。異世界の文字──百々切丸。


(モモ……キリマル?)


「ぷっ、変な名前ぐえー」

『ピィピィ!』


 ソラがぶつかってきた。

 負傷こそしていないが、戦い終わりには手痛い攻撃だ。

 そして、なんとなく誰の作品かはわかった気がする。


「そういえばこの剣、間合いの外にいる相手を斬ってたけど……ソラ、どういうことか教えて?」

『ピィ!? ピ、ピィピィャ~』

「──では、わたしにお任せを」


 いつの間にか背後に立っていた女性は、いつも通りに藤色のヴェールで顔を隠している。


「アトさん」

『ピピャュ』

「……その剣をお使いになるんですよね? 浮気性は好みませんが、英雄色を好むという。剣とは主と(りょ)するもの、ええ、ええ。みなまで申しませんとも」

「……」

『……』

「……あの、それは魔力を込めれば刀身が伸びる魔剣です。刀身は透明で、込めた魔力の大きさによって長さが変わるみたいです。まぁ伸びた刀身は魔力の塊ですので切れ味や硬度は魔力次第、でしょうか」

『ピィ!』

「へぇー、だから遠くが斬れるのか」


 エイナルが使っていた時は、明らかに刀身が届かない距離にいるタイヴァスが斬られていた。

 取り敢えず振ってみる。

 魔力を込めなければ、やはり刀身に接していない物は斬れない。


「──えい!」


 今度は魔力を込めて振ってみる。

 数メートル先の草が切断された。そして柄を握っている手のひらには物を切った感触があった。

 透明な刀身に砂を落としてみると、(あと)すら付着しない。だが砂は、まるで透明な何かを避けているかのように流れていく。


「最長で五十メートルくらいかな? 面白い魔剣だね」

『ピッピピピィ~』


 明らかに喜んでいるソラは、ぽよんぽよんと飛び跳ねる。

 一方のアトは心配そうな声色を出した。


「レインさま、あなたはレベルが上がりました。ですので……その、がんばってください」


 と、その言葉を残すと彼女の姿はこつぜんと消える。

 町から離れた道路、空は茜色。見渡す限りボクとソラ以外には誰もいない。


「なにを頑張れば良いのか……。ソラ、ベルンじゃ試せないし、召喚を試してみよっか。……ん~ドラゴンとイナガミを合体させてみるね」

『ピィ!』


 百々切丸でソラを叩いて潰す。

 召喚している最後の一体だけは撤退が出来ないので、合体させるには必ず一度は殺す必要がある。

 正直やりたくはない。


「──ドラゴン、召喚! ……えっ、なにも出ない……なんで?』


 すべてを合体させようとすると、出来なかった。

 何か条件があるのだろうか。


「んー……じゃあ、ソラとイナガミを合体させて──召喚ッ!」


 目の前に空色の瞳をした人型のイナガミ(?)むしろ猫耳の女性? ──が現れた瞬間、ボクの意識は真っ黒の中へと消え去った。





 淡く光る白光の女は己が耳を触った。

 まるで猫の耳としか思えないものが自分の頭から生えている。

 陳腐なおもちゃ等ではなく、もはや本物以外のなにものでもない()()()()だ。


「まさか……このわたしが、ネコミミとはねぇ……」


 せせら笑う女が気づいたように足元を見ると、銀髪の子供が倒れているのが見えた。

 触れてみると死人のように冷たい。


「あーあ、完全に魔力が足りてない。……しっかし本当に女の子にしか見えないなぁ。私より可愛いとか、へこむわー」


 ネコミミをぴこんと連動させて肩を落とすと、女は片手を路上に向けて、ため息一つと共に簡単な魔法を展開させる。

 一瞬で起動した小さな魔方陣からは空色の煙が噴き出した。

 それはまるで、茜空を貫くように高く高く、上がっていく───。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ