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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
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第54話 元勇者、死の宣告を受ける

「兄さん、ありがとうございました」


 帰りの馬車の中で、ティエラはそう言った。

 母の面影(おもかげ)が残る、美しい顔には微笑みがまぶしい。

 ボクたちは遺品を回収すると帰ることになった。

 目立つイナガミをそのままにはしておけないので撤退させると、ブラックホーンたちは夕焼け色に染まった荒野に消えた。


 窓の外には美しい景色がある。

 はじめて来たときは真っ暗で恐怖しかなかった。

 だが、今は美しい景色と喜びだけが心を満たしていた。

 ここがボクのはじまりであり、終わり。終わりであり、はじまりなのだと思うと少し、複雑な気分だ。


(それでも、妹がいるから……なにも寂しくはない)


 林を抜けると、立て看板があった場所が見えてきた。

 傭兵たちは抜剣して構えていたが剣を鞘に戻すと駆け寄って来る。


「よくぞご無事で! 空を切り裂くような声が聞こえたので、もう生きてはいないと思いましたよ」

「町まで報告に行こうと思っていたところです」

「よかったですな。報酬がなくなると思いました」

「どうなさいます?」


 矢継ぎ早な言葉にボクは苦笑う。


(ずっと待っててくれた癖に)


 予定より少し遅れたのに残っていてくれた。

 彼らには彼らなりの忠義があるのだろう。


「では、目的は達したので町に戻ります」


 ティエラの言葉を聞いた彼らは自らの馬に騎乗すると、来たときと同じように馬車を守る陣形で並走(へいそう)をはじめた。

 遠くには町の灯りが見える。

 疲れてしまったのだろう、ティエラは眠ってしまった。

 そんな妹にシーツをかけ終えるとミッコとユッカはボクを見て、にやりと笑う。


「ふふん、傭兵なんて雇わなくてもよかったんです」

「ふふん、レインさまがおひとりでこれほどお強いのなら、あいつらなんていらなかったです」

「いやいや、ボクの魔法は人前じゃ使いにくいし」

「「でも、師匠とレインさまがいればどんな敵でも──」」

「〈草原の青〉の傭兵は、誰もがお前たち二人よりも強いぞ?」


 カイネはため息を吐いた。こんな彼ははじめて見た。


「まったく──帰ったら、稽古をつけ直す」


 魂が抜けたような、死んだ魚のような目になったミッコとユッカは動かなくなった。

 返事がない。ただの屍のようだ。

 ボクは好奇心で馬車から顔を出す。


「ねぇ〈草原の青〉って、強いの?」


 若い傭兵が驚いた顔でこちらを見ると苦笑う。

 そして少しわざとらしく考えたあと、諦めたような表情でこめかみを掻いた。


「我々とカイネどのを比べられると、なにも言えません。ですが我々の千人長であれば、カイネどのとも良い勝負になると思いますよ?」


 千人長、つまり彼らの傭兵団というのは思った以上に大所帯のようだ。

 しかしカイネと良い勝負。つまり匹敵するというのは流石に言い過ぎだと思うんだけれど。

 そんな話をしていると町にたどり着いた。



 深夜。

 宿にたどり着くと飛び込むようにして、ボクはベッドに眠った。

 眠りはじめてしばらくすると、


 ──ドンドンッ


 と扉を激しく叩く音が聞こえる。

 急いで開けるとティエラが青ざめた顔で心配そうにこちらを見た。


「ご無事ですか?」

「どうしたの?」


 ボクの無事を確認すると、ティエラはへなへなとその場に座り込む。


「この宿に、くせ者が入り込んだようです」


 気配に気づいたカイネが出迎え、一階で二、三度剣を(まじ)えたのだが突破され、二階に入られたのだという。

 ティエラやミッコとユッカ、傭兵たちは剣撃の音で飛び起きたらしく、ボクだけが起きて来なかったので、「もしや……」と思われたらしい。


「ボクは大丈夫だよ。……普通に寝てただけだし」

「わかりました。ですが兄さんも一応、気をつけて下さい。……あっ、それと、こちらにサインお願いします!」

「ん、はーい」


 渡された紙にボクは名前を書く。

 内容こそ読んでいないが、ティエラが妙な書類に名前を書かせたり、なんてしないだろう。

 自室に戻るティエラたちを見送ったあと、部屋の鍵を閉めた。

 で、ベットまで向かうと──そこには手紙があった。


(こんな物、さっきまであったっけ?)


 真っ黒な紙に赤い血のようなインクで文字が書かれていた。

 眠気眼(ねむけまなこ)のまま、ボクは読んでみる。


「え~と、なになに」



 渇いた枯れ葉の如く、汝のその身は血を失うだろう。

 その髑髏(どくろ)は白日の下に晒され、人々の嘲笑(ちょうしょう)の中で朽ち果てる。

 汝の罪を認めよ。謝罪と後悔の中で定められた死を迎えるのだ。

 ──我が名はウェンズデイ



「……なにこれ。ソラ、これ食べて」

『ピィピィ』

「食べて」

『……ピィ』


 くせ者が手紙を置いて帰った、なんてことは流石にないだろう。


「おやすみソラ」

『ピェ~』


 ボクは謎の手紙を気にすることもなく、再び眠りに就いた。

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