第43話 元勇者、監禁される
視線が痛い。冒険者組合に集まったすべての人から、ボクは穴があきそうなくらいに見られている。
ターヤが一歩、二歩と近づいて、
「いえ、あなたは駄目。あなたにもしもの事があれば、ルーファン侯に申し訳がたたないもの」
と言った。
勘違いされているが説明している時間などない。危険なこと、なんてやりたくもない。
でも、それでも、門の内側に残ってじっと待っているのが良いとも思えない。
(でも、今のボクに……なにが出来るのだろう)
イナガミは強い。ターヤさんが語った伝承と同じ存在であれば、ドラゴンよりも強いのかも知れない。
(ドラゴン、か)
あのソラを出せるのは長くても数分。それでも数分でも時間を稼げるのならば、倒すチャンスはあるかも知れない。
冒険者たちがイナガミに勝てるかは五分五分だろう。かの魔獣の威圧感が、実力に比例するとも限らないからだ。
それでも、
(勇者だなんだと、もてはやされては来たけど、本当は仲間がいないとなにも出来ないへたれだ。そんなボクでも、少しは役に立つかも知れない──)
ボクはターヤさんの正面に進んでいった。
「荷物持ちでもなんでもするので、連れていって下さい!」
「──いい根性だ!」
答えたのはターヤさんではなかった。
酒をガブガブ飲んでいたおっさんが中央に出てくる。
その赤ら顔のまま両手を広げてわざとらしく、この場にいる皆に言う。
「弱いやつも強いやつも気持ちは一緒だ! 皆がこの街、ベルンを守ろうとしている。だが、お嬢ちゃん、お嬢ちゃんは今回は留守番だ。先輩の俺たちに任せちゃくれねぇか?」
ボクは息を飲んだ。
元々知っていたことではあったが、それほど高い身長でもないターヤさんよりも、酒を飲んでいるおっさんよりも、ボクは一回り小さかった。
二人を見上げていることに気づいて、それを痛感した。
周りからすれば、ボクなどただの子どもに過ぎない。それも銀等級──新米の子ども、だ。
「……出すぎた真似をしました。ごめんなさい」
しゅん、としているボクを見かねてかターヤは肩を落とす。
「レイン。あなたをつれていくことは出来ないけれど、あなたにも出来ることはあるよ。出発するまで、お手伝いを頼めるかしら?」
「……はい!」
そしてターヤは噴水の縁に立つと、ぐるりと周りに集まった冒険者たちに説明をはじめた。
イナの末裔に伝わる伝承。
実際に目撃した感想。そういった話が進むにつれて、空気が変わっていく。
まるで鋭い刃の上に立っているような鬼気迫る雰囲気だ。
話を聞いた者の反応はバラバラで、苦笑する者、明らかに顔色の悪い者、涙する者さえ居る。
そんな中、
「あのー、いつ行くんすか?」
若い男の声が聞こえた。
テーブルに座っている若い男女が四人組が、楽しげな顔でターヤを見る。
「おーあんたらか! やる気だねぇ。ま、明日の朝くらいの予定だよ」
言葉を受けて、四人組の一人、女の子が大袈裟なジェスチャーをして「なんだぁ~」と言った。
それを目のはしで見やると先ほどの若い男がさらに問う。
「ブラックホーンは夜行性っすよね? 夜の内に行動するんじゃって思うんですけど、今すぐに仕掛けない理由は?」
「相手は強者。弱い人間が攻めてくるとは思っていない。確かに速攻は有効だろうけど、選べるなら相手の嫌がる朝を選んだ方がいいでしょ」
「でもさぁ~、あっちも群れなんでしょ? 周りの村が危なくない?」
「そうね。……確かに百頭いれば、百頭分の食事が必要になる。肉食の魔物だから、家畜や村人、旅人が襲われるでしょう」
「見捨てるのか?」
四人組のもう一人の男が問う。
ターヤは悲痛な顔を隠すように視線を反らした。
「……えぇ、そうね。でも、みんなもわかって欲しい、これがおそらく最初で最後のチャンスなのだと。群れでいるからこそ、殲滅のチャンスなの。散らばって近隣を襲い出したら、もう追い付けない」
ブラックホーンに乗ったからこそ、わかることもある。人を乗せて壁を登り、屋根を飛び越える身体能力を。
もし分散してしまえば、どこかの村が襲撃を受けていると聞いても間に合わないだろう。
一ヶ所に集まっている今だからこそ、危険であり、またチャンスでもある。
「えっ? 今行かないなら、なんでこんなに人を集めたの? 出発する時でよくないです?」
四人組、最後の女が眠たそうに言った。
周りから賛同の声がちらほらと聞こえ、ターヤはわざとらしく笑う。
「みんなを信頼してるけどさ、それでも逃げる人を減らしたかったの。少しでも戦力が多い方が良いし。……さっきの話を聞いて明日集合なら、集まっても半分でしょ?」
弱気とも侮辱とも取れるその言葉に、ざわつく冒険者たち。
ある者は怒ったがある者は目を反らす。
そんなざわついていた広間は、
──パチンッ
と手を叩いた音のあと、静寂へと変貌した。
合掌しているターヤは鋭い犬歯を覗かせながら、にやり。
「今日はお前たちを帰らせないぜー! ま、食事と酒くらいは私がおごってやろう!」
歓声と怒号が鳴り響いた。




