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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
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第43話 元勇者、監禁される

 視線が痛い。冒険者組合に集まったすべての人から、ボクは穴があきそうなくらいに見られている。

 ターヤが一歩、二歩と近づいて、


「いえ、あなたは駄目。あなたにもしもの事があれば、ルーファン侯に申し訳がたたないもの」


 と言った。

 勘違いされているが説明している時間などない。危険なこと、なんてやりたくもない。

 でも、それでも、門の内側に残ってじっと待っているのが良いとも思えない。


(でも、今のボクに……なにが出来るのだろう)


 イナガミは強い。ターヤさんが語った伝承と同じ存在であれば、ドラゴンよりも強いのかも知れない。


(ドラゴン、か)


 ()()ソラを出せるのは長くても数分。それでも数分でも時間を稼げるのならば、倒すチャンスはあるかも知れない。

 冒険者たちがイナガミに勝てるかは五分五分だろう。かの魔獣の威圧感が、実力に比例するとも限らないからだ。

 それでも、


(勇者だなんだと、もてはやされては来たけど、本当は仲間がいないとなにも出来ないへたれだ。そんなボクでも、少しは役に立つかも知れない──)


 ボクはターヤさんの正面に進んでいった。


「荷物持ちでもなんでもするので、連れていって下さい!」

「──いい根性だ!」


 答えたのはターヤさんではなかった。

 酒をガブガブ飲んでいたおっさんが中央に出てくる。

 その赤ら顔のまま両手を広げてわざとらしく、この場にいる皆に言う。


「弱いやつも強いやつも気持ちは一緒だ! (みな)がこの街、ベルンを守ろうとしている。だが、お嬢ちゃん、お嬢ちゃんは今回は留守番だ。先輩の俺たちに任せちゃくれねぇか?」


 ボクは息を飲んだ。

 元々知っていたことではあったが、それほど高い身長でもないターヤさんよりも、酒を飲んでいるおっさんよりも、ボクは一回り小さかった。

 二人を見上げていることに気づいて、それを痛感した。

 周りからすれば、ボクなどただの子どもに過ぎない。それも銀等級──新米の子ども、だ。

 

「……出すぎた真似をしました。ごめんなさい」


 しゅん、としているボクを見かねてかターヤは肩を落とす。


「レイン。あなたをつれていくことは出来ないけれど、あなたにも出来ることはあるよ。出発するまで、お手伝いを頼めるかしら?」

「……はい!」


 そしてターヤは噴水の(へり)に立つと、ぐるりと周りに集まった冒険者たちに説明をはじめた。

 イナの末裔に伝わる伝承。

 実際に目撃した感想。そういった話が進むにつれて、空気が変わっていく。

 まるで鋭い刃の上に立っているような鬼気迫る雰囲気だ。

 話を聞いた者の反応はバラバラで、苦笑する者、明らかに顔色の悪い者、涙する者さえ居る。

 そんな中、


「あのー、いつ行くんすか?」


 若い男の声が聞こえた。

 テーブルに座っている若い男女が四人組が、楽しげな顔でターヤを見る。


「おーあんたらか! やる気だねぇ。ま、明日の朝くらいの予定だよ」


 言葉を受けて、四人組の一人、女の子が大袈裟なジェスチャーをして「なんだぁ~」と言った。

 それを目のはしで見やると先ほどの若い男がさらに問う。


「ブラックホーンは夜行性っすよね? 夜の内に行動するんじゃって思うんですけど、今すぐに仕掛けない理由は?」

「相手は強者。弱い人間が攻めてくるとは思っていない。確かに速攻は有効だろうけど、選べるなら相手の嫌がる朝を選んだ方がいいでしょ」

「でもさぁ~、あっちも群れなんでしょ? 周りの村が危なくない?」

「そうね。……確かに百頭いれば、百頭分の食事が必要になる。肉食の魔物だから、家畜や村人、旅人が襲われるでしょう」

「見捨てるのか?」


 四人組のもう一人の男が問う。

 ターヤは悲痛な顔を隠すように視線を反らした。


「……えぇ、そうね。でも、みんなもわかって欲しい、これがおそらく最初で最後のチャンスなのだと。群れでいるからこそ、殲滅のチャンスなの。散らばって近隣を襲い出したら、もう追い付けない」


 ブラックホーンに乗ったからこそ、わかることもある。人を乗せて壁を登り、屋根を飛び越える身体能力を。

 もし分散してしまえば、どこかの村が襲撃を受けていると聞いても間に合わないだろう。

 一ヶ所に集まっている今だからこそ、危険であり、またチャンスでもある。


「えっ? 今行かないなら、なんでこんなに人を集めたの? 出発する時でよくないです?」


 四人組、最後の女が眠たそうに言った。

 周りから賛同の声がちらほらと聞こえ、ターヤはわざとらしく笑う。


「みんなを信頼してるけどさ、それでも逃げる人を減らしたかったの。少しでも戦力が多い方が良いし。……さっきの話を聞いて明日集合なら、集まっても半分でしょ?」


 弱気とも侮辱とも取れるその言葉に、ざわつく冒険者たち。

 ある者は怒ったがある者は目を()らす。

 そんなざわついていた広間は、


 ──パチンッ


 と手を叩いた音のあと、静寂へと変貌した。

 合掌しているターヤは鋭い犬歯を覗かせながら、にやり。


「今日はお前たちを帰らせないぜー! ま、食事と酒くらいは私がおごってやろう!」


 歓声と怒号が鳴り響いた。 

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