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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
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第37話 元勇者、新しい冒険者組合に行く

 オルベリア王国『交易都市ベルン』は海に面した都市だ。

 陸路と海路双方の要衝(ようしょう)であり、港には常に多くの大型帆船が停泊している。

 都市内の住居は白い壁に青のタイルで模様が描かれている美しいもの。

 王国内でも有数の商会であるルカ商会や魔法学校があり、別名、〈(あきな)いの都〉である。

 そんな街の一角にある、大きな建物を銀髪の少女が見上げていた。


(うーん、デカイ! カレリアの支部の倍以上はありそうだなあ)


 ボクは目的地にたどり着いた。

 大通りにある大きな建物の外壁は真っ白。中央にある木製の門扉は開かれている。

 中に入ってみると広場があり、中央には噴水があった。

 一面の芝生とリンゴの木、通路は石畳という、間違えておしゃれな公園に来てしまったかのようだ。

 壁の内側には青のタイルが綺麗に貼られており、まるで絵画のようになっている。

 談笑する若者は恋人に見えるが、腰には剣を帯びていた。


「綺麗な建物。でも冒険者組合っぽくないなぁ……」


 ボクはひとりごちてエントランスへの扉に進む。

 通りを歩いて気がついたことだが、ベルンには若者がとても多い。それは冒険者組合も同じで、若手の冒険者が多かった。

 安らかな一時(ひととき)を過ごしている彼らを横目に、ボクはエントランスへの扉を目指す。


「──えっ」


 扉を開けると、そこには──ブラックホーンがいた。

 とっさに後ろに飛び退くと同時に狩猟刀を鞘走らせる。

 火事場のなんとやらなのか、一切の抵抗なく無駄な動きすらせずに一瞬で抜刀出来ていた。


「待って!」


 女性の声が聞こえる。

 しかし、なにを待つ必要がある? 誰がどう見てもこれはブラックホーンだ。


(……いや、落ち着け)


 野生の魔物が都市に入り込むはずがない。それも、冒険者組合なんかには。


「もーやめてよ~私のプランちゃんは襲ったりしないよ?」


 気づくと目の前には端正な顔立ちをした褐色の女性が立っていた。

 獣のような黄色の瞳に長い黒髪の、見たことのない人種だ。

 ボクは落ち着きを取り戻し、狩猟刀を鞘に戻すと頭を下げた。


「ごめんなさい」


 お姉さんはニコニコと笑いながらボクの肩に手をまわした。


「さ、取り敢えず席につこうぜ! まずはおねーさんが一杯おごってあげよう!」


 流れるような動きで連れられて席につくと、彼女は「蜂蜜酒を大急ぎで!」と係りの人に言い、自己紹介する。


「私の名前はターヤ、この組合の支部長だよ! 最近の子はギルドマスターなんて呼んでるよね~」


(支部長……)


 ボクは不安と驚き、そして好奇心が入り()じった感情を押さえ込む。


「レインです。あの、すいませんでした」

「いやいや謝る必要はないよ? 被害はないからね。でもなんでそんなことをしたのか教えなさい。そしたら許してあげる」

「実は──」


 ボクはターヤさんに両親が目の前で、ブラックホーンに殺されたことを伝えた。

 もちろんボク、ルカが殺されたことは言わない。

 彼女は話を真剣に聞き終えると、頷いた。


「ごめんね。ツラいこと話させちゃって……。でも、この子は私がテイムしているから絶対にあなたを襲ったりしない。だから、安心していいよ」


 安心は出来ないが、確かに殺気はない。

 ほら、よくみると首に赤い(バンダナ)を巻いていてかわいい……かも。う~ん。

 ボクは軽く息をはいたあと、出された蜂蜜酒を一口飲んだ。

 そして周りの冒険者がおとなしいことに気がついた。レティア支部ならもっと騒ぎになっていただろう。


「あの、なんというか」

「広いわりに活気がない、でしょ? レインはどこから来たの?」

「ヴィオレッティ共和国のレティアで冒険者になりました。で、いろいろあってここに」

「レティアかぁ……。いいよね、あそこの雰囲気が懐かしいわ」


 ターヤは肩を落とした。


「あ、別にここが嫌なんじゃないよ? ただ……お上品過ぎるのよね。利便性があるから強い人も多いんだけど」


 支部長というのがどう任命されるのはわからないが、自分で選べるようなものではないのだろう。


「喧嘩なんて、起こりそうにありませんね」

「ないよ。……っと、話がずれちゃったわね。この組合だって普段は活気があるんだよ。まぁ今、活気がない理由なんだけど、これは一言では説明も難しい……ってあれ?」

『ピェ?』

「スライム……」


 ターヤは息を飲む。

 それから支部長ゆえの忙しさがあるのか、彼女は奥から呼ばれたのでそちらに向かった。

 組合は静かで小鳥の声すらさえずっている。

 残されたのはボクとソラだけ。

 でも、


「ねぇソラ」

『ピィ?』

「なんかさ、見られてない?」

『……ピィ』


 鳴くスライム、といえば誰もが驚く。それでも鳴き声が聞こえないであろう場所の者ですら、こちらを見ていた。

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