第36話 冒険者、友と別れる
屋敷の門は開き、庭では戦闘がおこなわれている。
イルマとリーネの二人が数人の兵士と戦っており、カイネも暗青色の甲冑を着た剣士と一騎討ちの最中だった。
(あの男、強い……!)
カイネと正面から戦えるだけの技量は、今のボクにはない。
馬車は速度を落としたとはいえ、徐々に屋敷に近づいていく。
「「ティエラさま、どうしますか?」」
メイドたちの声。
襲撃者はティエラの屋敷を襲っている。その目的は何か? 簡単だ。ティエラを狙っていると考えるのが妥当である。
「何者か調べます。馬車を屋敷の前へ!」
ティエラの命令を受け、馬車は横滑りしながら門の前に止まった。
ボクたちは急いで馬車から降りると剣を構える。
「この屋敷が、誰の物か知っての狼藉ですか!! 私はオルベリア王国の侯爵、ティエラ・ルーファンです。直ちに戦闘を止め、名を名乗りなさい!」
その凛とした声に全ての者たちが動きを止める。
戦闘は中断され、カイネと戦っていた剣士が剣を鞘に戻してこちらに近づいて来た。
彼は近くまで来ると立ち止まり、一礼する。
「ご無礼をお許し下さいルーファン侯。私はオルベリア王国王室親衛隊、隊長のトリラス・クロエチェンです」
(クロエチェン……?)
戦闘が終わったのを確認し、ミッコとユッカの二人にティエラを頼みますと言ったあと、ボクはイルマとリーネの元に向かった。
「あーこれはヤバい。終わった」
「最悪ですね」
「大丈夫?」
『ピィ?』
「ごめん、迷惑かけた」
イルマは苦笑う。
「いや、これどういうことなの?」
「まぁいろいろあってな。あ! ちょっとリーネと一緒に待っててくれ」
そういうとイルマはティエラとトリラスの元に行って、なにかを話している。
声は聞こえないが、ティエラが驚いた顔で頭を縦に振った。
「リーネ、あのトリラスって人まさか?」
「はい。私の父です」
イルマが戻ってきた。死んだ魚のような目で。
「これからオレとリーネは叱られる。最悪の軟禁生活だ……。でもさ、一年後に必ず抜け出すから、そしたらまた一緒に冒険してくれるか?」
答えなど、考えるまでもなく決まっている。
「もちろん!」
二人はほっとしたように笑った。
冒険者になってから約二ヶ月。そのあいだ、ずっと一緒にいた。いろんな依頼を受けたし、遊んだり喧嘩したり……。
やっぱり、別れるのは寂しい。
それでもこれが今生の別れってわけでもない。
「そうだ」
と、イルマは少し意地悪っぽく笑った。
「オレは強くなって戻ってくるぜ。二人とも、強くなってろよ?」
「私は父に絞られ、地獄の毎日になるでしょう……。でもがんばります」
リーネは涙目だ。
「じゃあボクは魔法を使えるようになろうかな」
『ピィ~!』
「ソラは魔王になるって言って──うわやめっ……ぎゃー」
しばらく話しているとトリラスがわざとらしく咳払いした。
ボクはソラとの戦闘をやめる。
「あー、そろそろ時間みたいだな。またな!」
「また会いましょう! 絶対ですよ?」
「うん! じゃあ──」
「「「一年後!!」」」
トリラスはその様子を見終わると肩を落とした。
「まったく……私は今のを聞かなかったことにします。お前たちも、そうだな?」
「「はっ! なんのことでしょうか?」」
彼の部下たちはなんのことかわからない、という表情だった。よく訓練されているし良い人たちだ。
「よろしい。では行きましょう」
リーネのお父さんは一年後に抜け出すというのを、聞かなかったことにしてくれた。
出ていった二人の背中が小さくなっていく。
背中に誓う。
二人に負けないように、強くなろう。
「兄さんは本当に……本当に凄い人たちと知り合い、いえ、友達なのですね」
「イルマとリーネって凄いの?」
「はい。ですが約束したので詳しくは」
「わかった。二人が言ってくれるのを待つよ!」
「ふふ、それが良いです!」
◇
別れから二日が経過した。
そろそろこの街の冒険者組合に行ってみるのも、いいかも知れない。
そんなことを考えながらダイニングルームに行くと、ティエラとカイネがいた。
「おはよう、なにしてるの?」
「おはようございます。兄さん!」
「おはようございます。レインどの」
話を聞くと、マルセロの説明と地図を照らし合わせているらしい。
だがそこはわかっていたことだが、ブラックホーンの縄張りのど真ん中である。
カイネ一人ならば行き来が出来るが、ボクとティエラを連れていくのは難しいようだ。
ブラックホーンは群れで動く。
とても頭が良く身体能力も高い。それは自分の身をもって知っていることだ。
「アレは、とても怖い」
「兄さんはブラックホーンに……」
「人を集めるにも時間がかかります。今は待った方がいいかと」
頷いたティエラの顔は残念そうだった。きっと今すぐにでも行きたいはずだから、当然だ。
行くだけでも時間がかかる。護衛を集めるのも同様に。
目的地が分かっていても手が届かないツラさ。
(きっとティエラのツラさはボクよりも……)
それでも、伝えることにした。
「ボク、今日は冒険者組合に行ってくるよ」
「お金ならいくらでも……いえ、兄さんは冒険者でしたね。では妹として、応援させて貰います! 頑張ってください!」
無茶はしないで下さいと、念押しされた。
ボクは了承して屋敷をあとにする。




