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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
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第36話 冒険者、友と別れる

 屋敷の門は開き、庭では戦闘がおこなわれている。

 イルマとリーネの二人が数人の兵士と戦っており、カイネも暗青色(あんせいしょく)の甲冑を着た剣士と一騎討ちの最中だった。


(あの男、強い……!)


 カイネと正面から戦えるだけの技量は、今のボクにはない。

 馬車は速度を落としたとはいえ、徐々に屋敷に近づいていく。


「「ティエラさま、どうしますか?」」


 メイドたちの声。

 襲撃者はティエラの屋敷を襲っている。その目的は何か? 簡単だ。ティエラを狙っていると考えるのが妥当である。


「何者か調べます。馬車を屋敷の前へ!」


 ティエラの命令を受け、馬車は横滑りしながら門の前に止まった。

 ボクたちは急いで馬車から降りると剣を構える。


「この屋敷が、誰の物か知っての狼藉(ろうぜき)ですか!! 私はオルベリア王国の侯爵、ティエラ・ルーファンです。(ただ)ちに戦闘を止め、名を名乗りなさい!」


 その凛とした声に全ての者たちが動きを止める。

 戦闘は中断され、カイネと戦っていた剣士が剣を鞘に戻してこちらに近づいて来た。

 彼は近くまで来ると立ち止まり、一礼する。


「ご無礼をお許し下さいルーファン侯。私はオルベリア王国王室親衛隊、隊長のトリラス・クロエチェンです」


(クロエチェン……?)


 戦闘が終わったのを確認し、ミッコとユッカの二人にティエラを頼みますと言ったあと、ボクはイルマとリーネの元に向かった。


「あーこれはヤバい。終わった」

「最悪ですね」

「大丈夫?」

『ピィ?』

「ごめん、迷惑かけた」


 イルマは苦笑う。


「いや、これどういうことなの?」

「まぁいろいろあってな。あ! ちょっとリーネと一緒に待っててくれ」


 そういうとイルマはティエラとトリラスの元に行って、なにかを話している。

 声は聞こえないが、ティエラが驚いた顔で頭を縦に振った。


「リーネ、あのトリラスって人まさか?」

「はい。私の父です」


 イルマが戻ってきた。死んだ魚のような目で。


「これからオレとリーネは叱られる。最悪の軟禁生活だ……。でもさ、一年後に必ず抜け出すから、そしたらまた一緒に冒険してくれるか?」


 答えなど、考えるまでもなく決まっている。


「もちろん!」


 二人はほっとしたように笑った。

 冒険者になってから約二ヶ月。そのあいだ、ずっと一緒にいた。いろんな依頼を受けたし、遊んだり喧嘩したり……。

 やっぱり、別れるのは寂しい。

 それでもこれが今生の別れってわけでもない。


「そうだ」


 と、イルマは少し意地悪っぽく笑った。


「オレは強くなって戻ってくるぜ。二人とも、強くなってろよ?」

「私は父に絞られ、地獄の毎日になるでしょう……。でもがんばります」


 リーネは涙目だ。


「じゃあボクは魔法を使えるようになろうかな」

『ピィ~!』

「ソラは魔王になるって言って──うわやめっ……ぎゃー」


 しばらく話しているとトリラスがわざとらしく咳払いした。

 ボクはソラとの戦闘をやめる。


「あー、そろそろ時間みたいだな。またな!」

「また会いましょう! 絶対ですよ?」

「うん! じゃあ──」

「「「一年後!!」」」


 トリラスはその様子を見終わると肩を落とした。 


「まったく……私は今のを聞かなかったことにします。お前たちも、そうだな?」

「「はっ! なんのことでしょうか?」」


 彼の部下たちはなんのことかわからない、という表情だった。よく訓練されているし良い人たちだ。


「よろしい。では行きましょう」


 リーネのお父さんは一年後に抜け出すというのを、聞かなかったことにしてくれた。

 出ていった二人の背中が小さくなっていく。

 背中に誓う。 

 二人に負けないように、強くなろう。   


「兄さんは本当に……本当に凄い人たちと知り合い、いえ、友達なのですね」

「イルマとリーネって凄いの?」

「はい。ですが約束したので詳しくは」

「わかった。二人が言ってくれるのを待つよ!」

「ふふ、それが良いです!」





 別れから二日が経過した。

 そろそろこの街の冒険者組合に行ってみるのも、いいかも知れない。

 そんなことを考えながらダイニングルームに行くと、ティエラとカイネがいた。


「おはよう、なにしてるの?」

「おはようございます。兄さん!」

「おはようございます。レインどの」


 話を聞くと、マルセロの説明と地図を照らし合わせているらしい。

 だがそこはわかっていたことだが、ブラックホーンの縄張りのど真ん中である。

 カイネ一人ならば行き来が出来るが、ボクとティエラを連れていくのは難しいようだ。


 ブラックホーンは群れで動く。

 とても頭が良く身体能力も高い。それは自分の身をもって知っていることだ。


「アレは、とても怖い」

「兄さんはブラックホーンに……」

「人を集めるにも時間がかかります。今は待った方がいいかと」


 頷いたティエラの顔は残念そうだった。きっと今すぐにでも行きたいはずだから、当然だ。

 行くだけでも時間がかかる。護衛を集めるのも同様に。

 目的地が分かっていても手が届かないツラさ。


(きっとティエラのツラさはボクよりも……) 


 それでも、伝えることにした。


「ボク、今日は冒険者組合に行ってくるよ」

「お金ならいくらでも……いえ、兄さんは()()()でしたね。では妹として、応援させて貰います! 頑張ってください!」


 無茶はしないで下さいと、念押しされた。

 ボクは了承して屋敷をあとにする。

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