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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第三章 元勇者、冒険者になる!
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第35話 元勇者、街歩き(馬車)

「兄さんは、どうなさるんですか?」


 乳白色のお湯をちゃぷちゃぷしていると、ティエラから声をかけられた。

 それが今後のことだというのは声音でわかる。去る、と言われるのを危惧しているのだろう。

 しかしボクには一切の予定がなかった。

 そもそも、未だに屋敷から一歩も出てすらいない。


「とりあえず、観光かな」

「それでしたら馬車に乗って一緒に見て回りましょう!」


 ティエラは嬉しそうに、本当に嬉しそうに、そう言った。

 ボクとしても体調が万全ではないのでありがたい。


「そうだね。うん、この街を色々教えてよ」


 ティエラは満面の笑みで頷いた。

 しかし妹とはいえ、目のやり場に困る。そりゃあ、ボクだって今は思春期くらいの男の子でもあるわけで。

 いくら妹だと言っても体感では昨日女の子だとわかったばかりだ。


(やっぱり妹とはいえ……一緒にお風呂は……)


 お湯に浮かんでいるソラが、『ピィー』と鳴いた。


「兄さん。初めて見たときから思っていたんですけど、ソラの王冠ってかなり良いものですよね」


 見ていいですか? と、王冠を取ったティエラは、鑑定をはじめる。

 そして眼を輝かせ、


「これ、金貨千枚はしますよ?! どこで手に入れたんです?」


 と言った。

 そんな高価なものだったとは。


「〈傀儡(くぐつ)〉のシルフェルドって人から貰ったんだよね」

『ピィ!』

「えっ……〈魔導6杖〉から……?」

「あれ、シルフェさんの二つ名って〈傀儡〉じゃないの?」

「それは……そうですけど。えっと西の魔王に認められた魔法使いの総称が〈魔導6杖〉です」


 世界には四つの大陸がある。

 そしてその大陸ごとに一人の魔王と、一人の勇者がいた。

 勇者レステンシアだった時には、別の勇者とも会う機会はなかったし、東の大陸で住んでいる以上、他の魔王にも興味がなかったのだが。


「ボク、〈魔導6杖〉の記憶がまったくないなぁ……。聞いたことくらいはあったんだろうけど」

「では私がお教えします!」


 ティエラはソラに王冠を返すと、心を落ち着かせるように息をはいた。 


「〈創造〉のフラーグン。〈模倣〉のエインケッシュ。〈傀儡〉のシルフェルド。〈決死〉のアルカ・ルーン。〈消滅〉のルシエ・ロウ。〈破壊〉のミナト・ハル。──これの六人が〈魔導6杖〉です!」


(……何人か気になる名前があるんですが)


「ミナト・ハルって人は異世界人?」

「はい。南の大陸にいる魔法使いで、異世界人最強の魔法使いなのだと言われています」


 彼女はすみれ色のローブを身にまとっているのだとか。

 しかし聞きたいのは彼女のことではない。


「アルカ……ってまさか、魔王を殺してたり?」

「そうです! アルカさまは、勇者レステンシアさまと共に魔王と戦った英雄のお一人ですよ!」


 ボクは口をあんぐりと開けた。


(し、知らなかった。アルカってそんな有名だったんだ……)


 アルカに出会ったのは、広大な湖に浮かぶ遺跡の中だった。

 当時の彼女は新たな魔法の思索(しさく)中で、その邪魔をしてしまったがために、怒らせてしまったのを覚えている。

 それでも説得すると、旅に同行してくれた。

 数多くの強敵と戦い、数多くの激戦と死地をくぐり抜けるうちに、彼女は笑うようになったし、信頼しあえるようになったのだ。


(アルカ。今も新しい魔法を造るんだって、努力してるのかな)


「……あ、シルフェさんの魔法って人形でも使うの?」

「えぇ!? 会ったのに知らないんですか?」

「一緒にお風呂には入ったけど、そういう話はしてないし」

「一緒にお風呂……。シルフェルドの魔法は相手を操るものらしいです。気に入った人間や魔物でさえも自らの下僕とし、(さら)ってしまうそうです。美しい村人が消えたらシルフェルドが拐ったと言われるほどで、まぁ全てが彼女の犯行かはわかりませんけど、実際に多くの人が拐われているのは事実みたいですよ」


 ひとつ、おとぎ話を教えてくれた。

 傀儡使いとも呼ばれている魔法使いが戦争に介入し、行方不明となっていた集団が狂気の戦い方をする話だ。

 魔法使いは勝手に介入し、敵軍を壊滅させた。

 敵を退けた報酬として姫君を要求された国王は──。 


 と、商人はこの話を好んでいるのだとか。

 タダより怖いモノはない。不確定な要素も避けるべきだ。それでも逆らえないこともある。という教訓が獲られる……らしい。


(って何やってんの、シルフェさん!!)


「うなぁ……そういえばボクも操られてたわ」

「ど、どうして無事なんですか?」

「……さあ?」

『ピピピッ』


 そのあとはレインとしておこなってきたこと、前世の記憶などと言ってもあいまいで断片的だということを簡単に説明した。

 お風呂を出ると部屋が用意されていて、ボクはベッドに潜り込む。


「まだ魔力が回復してないみたい。……ソラ、おやすみ」

『ピィ!』


 しばらくするとティエラが入ってきた。


「兄さん、一緒に寝ましょう!」

「えぇ!?」

『ピィ!?』


 そうして一日が今日も終わった。


 

 翌朝。

 イルマたちに街を見に行かないかと聞くと、せっかくだから妹と行くべきだと言われた。

 そんな二人の予定はというと、カイネと手合わせするらしい。

 目が輝いている。

 手合わせなんていうのは名目でしかない、本気(マジ)でやるみたいだ。

 出発しようとした時、カイネがボクとティエラだけでは危険かも知れないと言い、メイド二名が同行することになった。

 どうやらただのメイドではなく、カイネの弟子らしい。

 メイド服も他のメイドさんとは違い、金属板を仕込んでいるようだ。


「レインだよ。よろしくね」

「ミッコです」

「ユッカです」

「「よろしくお願いします。レインさま」」


 ハモっている。凄い。

 同い年くらいの彼女たちが馬を(ぎょ)し、馬車は出発した。

 整備された通りを進んで下町に。

 往来には人が多く、活気がある。何より見たことがないほどに商人が多い。


「商人。売店。そこに来てるお客……すごい多いね」

「この街は交易都市ですから。あ、兄さん、あのお店は良い商品を置いてますよ! あっちの店は──」


 ボクたちは食事をしたり服屋に行ったり、街を楽しんだ。

 次はティエラが「是非に」というのでルカ商会へと向かう。

 ルカ商会は港にあった。三階か四階立ての大きな建物は辺りの商会や倉庫よりも大きく、目を引いた。

 馬車を数台並べても余裕のありそうな大きな門をくぐり抜け、中に。

 商品が入っているであろう木箱を運ぶ商人たちの、視線が馬車に集まる。

 扉を開けて降りるティエラを一目見て、


姉御(あねご)!」

「ティエラさま!」


 と屈強な男たちが妹を呼び慕っている様子は微笑ましい。


「ティエラさま、そいつ誰ですか? 新しい使用人ですか?」

「レイン兄さんです。侮辱は許しませんよ」


 殺気、ではないが空気が変わったと感じる。

 質問した若者はしばし動きを止めていたが、一転して満面の笑みに変わった。


「レインさま、こんにちは!」

「「「レインさま、こんにちは!!」」」

「あ、うん。こんにちは」


 他の人たちも口々に「レインさま!」と言い出したのでティエラの力が若干怖い。

 有名人気分で挨拶されながら歩き、商会の説明などを受けていると、ティエラに船のルートを相談しようと船長たちが集まって来た。

 どうやらルカ商会は大型の帆船を数隻、所有しているのだろう。

 倉庫の中はくしゃみが出るほどに香辛料の匂いがする。

 商品の説明を受け、検品に立ち会い、商人についていろいろ知ることが出来た。


「兄さん、そろそろ帰りましょう」


 そうしてボクたちは馬車に乗って屋敷に帰る。後ろを見ると、頭を下げた商人たちが再び仕事に戻っていくのが見えた。

 人通りが少なくなってくると屋敷が見えてくる。

 マルセロの屋敷よりもはるかに大きい。そんな豪邸の庭には──襲撃者がいた。

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