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【非公開】元勇者、異世界をゆく  作者: 千夜みぞれ
第二章 元勇者、召喚師でがんばる!
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第33話 元勇者、その選択と代償

 そこにあったのは、まさに奇跡のように、今までの(かたく)なな態度を捨て去ったマルセロの姿だ。


「私がライル、ルルナ、そしてルカの三人と護衛の騎士四名に、シャンドラへの道を教えたことを認める。だが──殺してはいないし殺す気もなかった」


 たしかに殺したのは黒き獣(ブラックホーン)であってマルセロではない。

 無理矢理あの道を通らせたのではなく、マルセロの提案を信じた両親の、選んだことだったのだろう。

 別の道を行くことだって出来たはずだ。

 理由はどうであってもマルセロは道を教え、両親はそれを信じただけ。

 殺人かと問われれば、否だ。


「両親が通ったルートを教えるなら、どこにも報告はしませんし、今後危害をくわえないと誓います」

「わかった。こちらも、同様に誓わせてもらう」


 マルセロが両親に教えたという道の詳細を伝えている。

 だが、これで終わりか? これで幕引きか? マルセロへの罰は何もないのか?

 教えられた道で事故を起こした。

 お前のせいだ! と、いうのは言いがかりかも知れない。逆恨(さかうら)みかも知れない。

 でも、それでも……故意ではなかったとしても、死んだ両親や騎士たちはどうだ?

 可哀想に。運が悪かった。それらで終わらせられるのか?

 遺体があるであろう場所を聞いただけで、気持ちが晴れやかになるのか?


(前に、ある女性が言っていた。わたしはわがままだって。ボクだって……ボクだってわがままだ! 我慢できることと、出来ないことがある)


 紙を持つティエラの顔には達成感のようなものはない。むしろ悲しげだった。

 彼女も両親が選択しただけだと知っている。

 マルセロを罪に問えないことも、被害を与えればこちらが罪人になることも、知っている。

 それでも、捕まるのを覚悟で殺すことも出来る。

 イルマやリーネだって兵士たちを殺せたのに、誰ひとりとして殺してはいない。

 それは選択したからだ。


(なら──ボクも提案し、選択させよう)


「マルセロ。ティエラに殺し屋を送ったことを許すかわりに、頼みがある」

「な、なにを言う! 元はと言えばそちらが私を拐ったのだぞ?」

「それはボクが助けただろ?」

「だな! オレもそれはレインのおかげでチャラになってると思うぜ?」

「……わかった。要求を言え、金か?」


 金など貰ってどうなると言うのか。


「ちょっとした頼み。三つの頼みだよ? まずは屋敷の中にいる人を全員、外に出して欲しいんだ」

「……火をつけるんじゃないだろうな? 放火は重罪だぞ?」

「そんなこと、するわけないじゃん」


 マルセロはしぶしぶ兵士に命令し、使用人たちを外に出させた。


「次は、あの馬車が欲しい」


 ボクが指差したのは森に行くときに乗ったあの馬車だ。

 マルセロは渋面を作って頷いた。


「……まぁいいだろう」

「最後の頼みだけど、ソラを屋敷に入れてもいいかな?」

「は? 好きにしろ。……それが最後だな?」


 三つ目だ、もう終わりだぞ? と安堵しているマルセロが、馬鹿にするように笑っている。

 ボクも意地悪っぽく、わざとらしくニヤリと笑った。

 そして玄関に近づいて、


「──全軍召喚」


 と言った。

 言葉を待っていたかのように、足下から(うるし)のような粘りけのある黒が広がる。

 深い深い、底の見えない黒の中から空色の魔物(ソラ)が出てきた。

 それらは湧水(わきみず)のようにじわじわと、確実に、


 1匹、2匹、3匹……


 ソラは次々と屋敷に入っていく。


『ピィ!』

「な、なんだこれは……」

「うそ……」

「これは一体……?」


 ソラの王冠を外すとソラ(・・)も屋敷の中へと入っていく。

 マルセロだけでなくティエラやカイネでさえも、その光景に唖然としている。


 100匹、200匹、300匹……


「すげー、なんだよこれ!」

「ふふっ、ソラがいっぱいですね」


 イルマとリーネは楽しそうに笑っていた。


 1万匹、2万匹、3万匹……


「やめろ! これ以上いれるな!」

「ソラが入ってるだけだよ? それに、マルセロが良いって言ったんじゃん」


 両親が選択したようにマルセロも、入れないことを選択出来た。

 それでもマルセロはソラを入れることを許可した。断ることも出来たというのに。


 10万匹、20万匹、30万匹……


 屋敷からミシミシベキベキという音が聞こえる。

 屋敷の中はソラでいっぱいになった。全ての部屋や廊下、風呂や屋根裏でさえ、ソラで(・・・)いっぱいだろう。

 窓から見えるものは、ただの空色だけであり、絵画や石像、高そうな壺さえ見えなくなっていた。


「なんだこれはなんだこれはなんだこれは!! 出せ! スライムを外に出せ!」

「う~ん、でもソラも身動きとれないよね?」

『『『『『ピィ!』』』』』


 その声にイルマやリーネ、ティエラやカイネまでもが笑った。

 兵士やメイドたちもクスクスと笑っている。


「私の屋敷がぁあああああああああああああああ!」


 マルセロは玄関に突っ込み、壁のようなソラをかき分ける。だが、多すぎて中には入れない。

 既に満杯のソラを押したことで限界を迎えたのだろう、バキバキという音が聞こえ始めた。


「な、なんだ?」

「離れないと、崩れるんじゃないかな?」

「あぁぁあああああああ"!」


 マルセロが離れると同時に、


 ──ゴゴゴゴゴ!


 という轟音と土煙をあげながら、マルセロの屋敷は崩れ落ちた。

 もはや瓦礫の山である。


「そんな……私の屋敷がぁ! 宝がぁああ! 貴様ァ訴えてやる!」


 マルセロの顔は真っ赤だ。

 目は血走り、額には血管が浮き出ていた。

 屋敷の倒壊によって中にいたソラは全て消えてしまったが、我ながらいい感じに崩れたものだとボクは腕を組む。


「え~、でもなんて訴えるの? スライムに家を壊されましたって?」


 ボクはわざとらしく首をかしげた。


「そんなこと言えるわけねーよな! これはあきらかに、天罰だ。〈導きの神〉の御技(みわざ)以外のなんでもねぇ。自業自得さ」


 イルマは楽しそうに笑っている。


「私は神に導かれている人がいるとすれば、その人は可愛らしく、そして良い人だと思います。そんな人を訴えるのは許せませんね」


 リーネもクスクスと笑っていた。

 二人がわざとらしく言うと、マルセロは膝から崩れ落ちる。

 兵士やメイド、使用人たちは天に両手のひらを掲げると、「神よ!」と祈り始めた。


「神……だと? ではなぜ、私だけを裁くというのか。私は命令に従っただけなのに……」

「どういうこと?」

「言わぬと誓っている。だから、言えぬ!」


 詳しく聞きたかったが、おそらく言わないだろう。屋敷を失っても言わないと言うのだから。

 聞き出す手段もなかった。


(……あとは、仕上げといこう)


 ボクはマルセロを見下ろした。


「もし約束を破ってティエラやボク、イルマたちに殺し屋を送れば、どうなるかわかってる? ボクが出せるのはスライムだけじゃないからね? ──召喚!」


 黒の中から異形のドラゴンが現れた。

 この状態のソラを出すのはとても疲れるうえに、レンの時にも使ったのだ。

 あと数秒持つか持たないかだろう。


「ボクらを狙えば、このドラゴンがお前の元に行くから……うぷ」

『グォオオオオオオオオオオン!』


 良い感じに吠えてくれたので即撤退。

 すごい気持ち悪い。吐きそう。


「わ、わかりました。誓います」


 マルセロはガタガタと震えている。これならもう大丈夫だろうと確信した。

 ボクは目が(かす)んでいて、その姿もぼんやりとしか見えなかったのだが。


「先に馬車に乗ってるから、話があったらやっといて」


 ヨロヨロとした歩みを極力見せないように懸命に歩いて、馬車に乗る。

 ソラを一匹召喚し王冠を載せた瞬間、ボクの意識は消え去って漆黒の中へと落ちていった。





 レインが馬車に乗るのを確認したイルマは、今にも崩れそうなマルセロに近づいた。

 そして手を差し出す。


「オレたちに金貨三枚、よこせ!」

「はい?」

「依頼は達成しただろ? レンミンを案内するってやつだ」

「……そうでしたね。どうぞ」

「んじゃ!」


 報酬を貰うと、イルマはリーネを引き連れて馬車に乗り込んだ。

 ティエラも乗り込んだのを確認するとカイネが手綱を握り、馬車は動き出す。


「あの、お二人はこれからどうされますか?」

「オレはレインと一緒でいいぜ」

「私も一緒にいたいです」

「わかりました。では私の屋敷に行きましょう。兄……いえ、姉と呼んだ方がいいのでしょうか。私もレインさんと話がしたいですし」


 ティエラは隣に座る、すぅすぅと寝息をたてる銀髪の少女に微笑んだ。

 そうして馬車は夕日に照らされ進んで行く。

この章もこれで終わりです!

これからもがんばります。スライムぽよんぽよん(。・ω・。)ゞ

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