第26話 元勇者、必殺技を習得する
自分の力を発揮できる戦い方、強くなる方法。
そんな単純でややこしい答えは中々見つからない。
「単純に乗る? いや、でも……んー」
「魔法使いとしてなら、魔法学校に入るのも良いかも知れないぜ? 大金が必要らしいけどさ」
「剣術を上達させたいのでしたら、誰かに弟子入りすると良いのでは? やはり高名な方に弟子入りするのが手っ取り早くて安全です」
「おぉー」
強い剣士と言われて思い浮かんだのは、オーリンとナツユキだ。しかし昔の戦友に弟子入りなんて考えられない。
ならば魔法学校、だろうか。
そんなこんなで三日目のスパルタが始まった。
今日は初日と同じで実戦だ。
しかし今度は二人が敵を引き連れて来るらしく、一対多という状況での戦い方の練習──いや、実戦ということだ。
川辺で待っていると、声がどこからか聞こえてくる。
「行くぞ、準備しとけー!」
「私も行きまーす」
(──同時かよ!)
もはや戦いは避けられない。
ボクは狩猟刀を抜くと前に構える。ソラもぽよんぽよんと跳ねて臨戦体勢だ。
川の方から走ってくるイルマの後ろには火を吹いている小さい竜、あるいはワイバーン。
林の奥から走ってくるリーネの後ろにはアーメイジャ。しかし今回は四体もいる。
「ソラ、アーメイジャをお願い」
『ピィ』
二人は戦闘には手を貸さないと言っていた。だから、今は特訓の成果を見せるときだ。
召喚しつつ戦う、未完成ではあるがボクだけの戦法。
つまりボクにとっては一対多、ではなく多対多の戦いでしかない。
(──なら、先制あるのみ!)
小さい竜は空を飛んでいる。
「タイヴァス!」
黒の中から飛び出した青い鳥が、空へと舞い上がる。
四体のアーメイジャは流石に多い。
だから、こちらはソラと練習していたアレを使うことにした。
『ピィ! ピィ! ピィ!』
ソラが先行してアーメイジャの前でぽよんぽよんと挑発する。
案の定、刺されているソラを尻目に、ボクは蟻人を背後から不意討ちした。
正々堂々とは真逆の戦い方。
歌われている勇者の戦い方とは違う、邪道。
それでも勝つためには手段を選ばないのが、あの大戦で生き残れた理由かも知れない。とそんなことを思いつつ一体目を倒した。
──テッテーン
ボクは言葉に、前回のアーメイジャをあわせた二体を召喚するイメージを込める。
「アーメイジャ召喚!」
なぜか召喚されたアーメイジャの槍と盾が金属製に変わっているが……気にしない。
死んだはずの仲間が甦って敵に味方するという状況に、動揺しているところを不意討ち、魂縛。そして召喚。
これでこちらはボクとソラ、アーメイジャが三体。
相手は混乱し、動揺しているために連携の取れていないアーメイジャが二体。
「──突撃!」
あとは数の力でごり押しした。
途中で一体が倒されたが即、再度召喚したので相手は更なる絶望を抱いていただろう。
倒し、魂縛、そして召喚。
この流れ、いわばこのコンボは非常に強力だった。
相手からしてみればまさにゾンビさながらであり、動揺と恐怖で隙が生まれる。
まったくもって悪役っぽい戦い方ではあるのだけれど。
──テッテーン
最後のアーメイジャを倒した。そして召喚する。
タイヴァスを見ると苦戦していた。相手は小さく、大型犬ほどの大きさしかない竜。
しかし、火を吹くのだ。
体が大きくとも攻撃手段が爪かクチバシしかないタイヴァスでは、素早い敵との相性が最悪であった。
「タイヴァス、なんとかそいつを落として!」
『グルォ!』
命令を受けたタイヴァスは羽を広げて敵にぶつかる。大きいからこそ出来る攻撃だ。
それでも空中で押さえ込む。なんて出来るはずがない。
二体はもつれ合いながら、地面に墜落した。
即座にタイヴァスを撤退させると、竜は再び飛ぼうと翼を羽ばたかせ始める。
「狙え。──放てぇ!」
その瞬間、アーメイジャに命令して槍を投擲させた。
二本は外れたが三本が小さな身体に突き刺さる。
飛べなくなった竜に近づき、ボクはトドメをさした。
──テッテーン
竜を倒したことで名前がわかる。心に浮かぶのは、まるで忘れていた名前のようだ。
「バジリスク、召喚!」
海鳥が海面に突入し、その出口が足下の黒なのだとさえ思えるような勢いで、それは出てきた。
光沢のある黒い鱗、コウモリのような翼。降り立つと二本の足で立ち、尻尾は長く、ボクの肩ほどの小さな身長。
頭には二本の小さなツノが生えていて、火を吹ける。
カッコいい魔物であった。
お疲れー、と二人がこちらにやって来る。
そして、
「どっちが良い敵だった?」
とイルマが聞いた。
首をかしげていると、リーネも聞いて来る。
「四体ですよ? 私が上ですよね!」
「いやいや、バジリスクだぞ? レアな魔物だぞ? オレの勝ちだろ」
どうやら二人で勝負していたらしい。
「私は前にもアーメイジャを連れて来ましたし、レンオアムも見つけましたよ!」
「はぁ? この前のは勝負に入ってねーよ! だからオレの圧勝」
二人はお互いに自分の勝利を確信している面持ちだ。それでも視線の間にはぱちぱちと稲妻でも流れていそう。
「レインはどっちの勝ちだと思うんだ!」
「レインはどっちの勝ちだと思いますか!」
同時に聞かれた。
しかしボクの中ではもう決まっている。
「んー、イルマの勝ち! バジリスクがカッコいい!」
「フハハ、どうだ!」
ドヤ顔のイルマとぐぬぬと悔しがるリーネ。
そして彼女は深いため息をはいた。
「仕方ありませんね」
リーネはみんなの荷物を持った。
どうやら負けた方が荷物を持つという罰ゲーム付き、だったらしい。
「あ、ボクも手伝うよ」
「まだ病み上がりなので無理しないで下さい」
ここ数日のスパルタは一体? ボクをボコボコにしたリーネはどこに行ったの? その言葉を胸にしまうと、本日のメニューが終了した。
帰り道を歩く二人に、ボクは声をかける。
「ちょっと試したいことがあるから、残ってもいい?」
「ん? あぁ、わかった。じゃあ村で待ってる」
「無茶はしないで下さいね?」
ボクが頷くのを確認すると、二人は村へと向かっていく。
二人の背中が見えなくなったのを確認して、ボクはカードを見た。
レイン・ヴィーシ
Lv.2 力:E20 耐久:E23 俊敏:E15 魔力:A280
〈魔法〉
【使令秘法】
・魂縛できる
・召喚できる《召喚可能数:524288体》
〈スキル〉
【前世の記憶】
・思いだせる
【生活補助】
・クリーニングできる
・牛乳だせる
・調味料だせる
【対話】
・魔物と会話できる
【登録モンスター・魔物】
・ソラ(スライム)
・ストーンドラゴン
・ケイハスx2
・タイヴァス
・アーメイジャx5
・レンオアム
・バジリスク
ステータスは平均的に見てどうなのかはわからない。
しかし、
(──召喚可能数52万!?)
どう考えても桁がおかしい。ボクは苦笑う。牛乳と調味料のことも含めて。
「ねぇソラ」
『ピィ?』
「これ、本当に出せるのかなぁ」
ただの表記ミスかも知れない。
そもそも数十万体も召喚出来たとしても、一体ずつでは日が暮れてしまうだろう。
だが、ボクの魔法には言葉というキーワードが必須だと思い出した。
(んーっと。撤退で消えるから……全軍出撃、かな? 召喚?)
悩んでいても仕方がない。
「──全軍召喚」
◆
突然、空を引き裂くような『ゴォオオオオオオ!』という、雪崩のような音と大地の揺れが辺り一帯に轟いた。
イルマとリーネの二人は同時に後ろを振り向くと、最悪の状況を想像してしまい顔を強ばらせる。
村人の叫び声の中、ただ一点のみを見て走り出す。
「「レイン!」」
イルマとリーネは銀髪の少女がいた場所まで全速力で走った。
何が起こったのかはわからないが、友達が助けを求めているかも知れない。
ようやくたどり着いたそこで見たものは、周囲一帯の荒れ果てた光景であった。
まるで巨大なドラゴンでも通って行ったかのような、一直線の災害。
その端に小さな銀が見える。
「なんだ、これ」
「何が、あったんですか?」
「アハハ……」
銀髪の少女は一匹のスライムを抱きながら、座り込んでいた。




