序章 勇者の物語
初めての小説、完結までがんばります!
ブクマや評価してくれると、やる気が増しますヾ(^ω^~)ノ
──ある意味、待ち望んだこと、だったのかも知れない。
物語の終わり。伝説の終着点。どうしようもない程に結末。
それが彼女の存在理由──とまでは言わないし、言いたくないんだけれど。
まぁ『妥当』なんだろうね。
悲鳴の声が聞こえた。
絶叫の音が聞こえた。
勝利の閧が聞こえた。
それは何枚もの扉の向こうの話。
それは何十枚もの壁の向こうの現実。
それはまるで趣味の悪い楽団が奏でるような旋律。
終末の音色だった。
「──王よ、いかが致しましょう。御命令を!」
二人の女が跪いていた。
絶望的な状況だというのに、恐怖になど震えてはいない。
今からでも逆転しようという眼差しを覗かせてすらいる。
王は微笑むと、瞳を閉じて昔を思い出した。
広大な城は先代の魔王と戦って、みんなで勝ち取ったものだ。
激戦、激闘、そういった言葉では言い表せないような戦いだった。
満身創痍でふらふらとしながら──初めて玉座に座った時のことを思い出す。
あれほどの高揚感を感じることは、もう無いだろう。
「「──御命令を!」」
「……」
魔王が視線を玉座の間へと戻した。
腰を預ける豪奢なそれは巨大な黒水晶から削り出されたような玉座。
絢爛を極めた玉座の間にあっても、一際目立っている。
そして、そこに座りし女性もまた──
先程から一歩も動いていない二人が吐息を漏らした。
黄金色の髪を後ろで束ねている女騎士が笑う。
「まさか、恐怖に震えておいでで?」
焔色の長い髪の女騎士が笑う。
「それとも、泣いているのですか?」
その言葉に嘲笑の視線を向けた時、
『オオオオオオオオオオオオォォン……』
城を飲み込むような絶叫が鳴り響いた。
配下の三騎士のひとり、黒鱗竜が討ち取られたようだ。
「──バカを言うな。くっくっ……まったくやるではないか。人間風情……いや、勇者風情が……!」
白髪銀眼の魔王は不敵に微笑む。
二人の騎士も同様の反応を見せた。
「さあ歓迎してやろうでないか。ここまで来て、絶望させてやろうではないか。まさに名前通りに、奴が勇者なのだというのであれば、わたしこそが、魔王なのだからッ──!!」
残された兵力はわずか。
城の半分を突破されているのは間違いがない。
それでも三人は絶望などしておらず、今まさに勝利しようという意気すらあった。
「「御心のままに」」
二人の騎士が横並びになって扉へと向かう。
王からの命令は絶対であるし、全力を持って行動に移るべき。
そして──「あっ」と何かに気づいたような黄金色の髪の女は焔色の髪の女に手を向けた。
足下には魔方陣が現れ、焔色の髪がなびく。
「ちょっ……何してるの、ロザリンド!!」
「あんた弱いから、いたって何も変わらないじゃん。ばいばーい!」
怒りを声を最後まで響かせながら、焔色の姿が掻き消えた。
残された女騎士は玉座へと振り返り、
「ダメ、でしたか?」
と問いかける。
魔王はくすりと笑った。
「ダメなら?」
「では──玉座の間への扉を、死守させていただきましょう」
悲鳴の声が聞こえた。
絶叫の音が聞こえた。
勝利の閧が聞こえた。
それは何枚もの扉の向こうの話。
それは何十枚もの壁の向こうの現実。
それはまるで趣味の悪い楽団が奏でるような旋律。
それは──終末の音色だ。
重い金属が擦れるような音が響いた。
玉座に座る彼女の視線は、たった今開かれた門扉を眺める。
玉座の間、その大広間に横一列に並んだ人間たちが入って来た。
──背と腰に二本の剣を携えた白銀の騎士
──刀を携えた赤い甲冑姿の侍
──大盾を携えた黒い鎧の戦士
──輝く槍を携えた屈強なドワーフ
──弓を携えた若葉色のローブをまといしエルフ
──金杖を携えた見るからに桁違いの魔法使い
──白を基調にした神官衣の、少女らしい可愛らしさのある神官
騎士もいれば侍もいる。戦士もいれば他人種もいる。異なる宗教を信じる者、異なる思想の者までもが、いる。
この世界に於いて、このようなパーティーは珍しい。
(さて、どいつが勇者だ?)
七人は玉座の間の中央よりも少し進んだところで立ち止まった。
「貴殿が魔王──武具を司る魔王である、ミカゲどので相違ないか?」
声は白銀の騎士から発せられたようだ。
つまりあいつが勇者なのか。
「いかにも。では、そちらは勇者一行だな?」
返答は無い。
いや、言葉では無かっただけだ。返答は行動となって現れる。
七人は武器を構えることで持ちうる答えを返した。
(これは──ふふっ……確かに強そうだ)
そうして魔王と勇者の、当然と言えば当然である、運命めいた戦いが始まった。
魔王は二振りの魔剣を使い、勇者たちは何度も使用してきたであろう戦法を使う。
魔剣の攻撃が盾に防がれた瞬間、刀と槍が左右から攻めてきた。
なんとか後ろに下がると魔法が炸裂し、後衛を潰そうと進めば矢が飛んで来る。
隙を見せれば騎士が突撃し、怪我を負った者は神官が癒していく──。
(良い連携だ。良い、本当に……。これでは皆が勝てないのも理解る)
魔王は笑った。口端をゆるめて白い歯を見せる。
楽しい。仲間の死よりも、魔族然とした昂る気持ちが──抑えられなかった。
◆
激戦──としか形容の出来ないような戦いが終わった。
正確に言えば、未だに決着はついていない。
玉座の間には八人の男女が倒れていた。
もはや誰もが全力を出して、もはや誰もが全霊をかけていた。一歩間違えば死ぬというのに。
一歩間違えば……。
それでも、楽しかったのだ。
倒れている全員の意見は一致しているだろう。
これ以上の戦いは二度と出来ないだろうという──それは『寂しさ』なのかも知れない。
ひとりの男が立ち上がった。
そして玉座近くに倒れている魔王へと、進む。
立つことすらやっとで、仲間の剣を杖代わりにしての、這いずりとさえ言える歩行。
端から見れば不様と笑われそうな前進。
それでも、この場に在る誰ひとりとして、笑わなかった。
他の誰も、立つことさえ出来なかったのだ。
それは魔王ですら──
「……お前が勇者だったのか、大盾使いよ」
天井を、もはやその先の空まで仰ぎ見ているかのような、女が問う。
「別に、隠してたわけじゃない。聞かれてたら答えてたさ」
「じゃあ聞けばよかったよ。思い返してみれば……だな、勇者っぽかったぞ」
「……ありがとう」
満身創痍の美しい魔王は目を細めて「一つ、聞かせて欲しい」と、そう溢す。
勇者は頷いた。
「言ってくれ」
「なぜ、勇者なのに盾なんて使った? それはわたしを侮辱してのことか?」
そんなことはないと気づいているのだろう、魔王はいたずらげに笑う。
「わたしは、弱かったか?」
「あなたは……強かった。今まで戦ってきた誰よりも。俺が盾を使う理由は……その……」
「言いたくないのか?」
「いや……ボ、俺のパーティー、前衛が三人、後衛が三人だろう? アルカ──魔法使いの娘が決定打を撃つんだけどさ、誰かが守らないと。前衛が守れば攻め手が減るから、俺がやってるだけだ」
倒れている六人は知らなかったのだろう、唸るような、後悔しているような、そんな声が聞こえる。
「くっくっ……それでお前の装備だけ、最初からぼろぼろだったのか」
魔王はわざとらしく、形の良い柳眉を吊り上げた。
「良いやつだな……。さぁ、この楽しい戦いに終わりを告げてくれ。他のやつにやらせるなよ? どうせ殺されるのなら、わたしは勇者に殺されたい」
「わかった」
勇者は歯を食いしばり、剣を振り上げる。切っ先は魔王の心臓のみを目指していた。
そして──まっすぐに下ろされた剣は身体を貫き、床まで深々と突き刺さる。
人間であれば絶命しているだろう。しかしそこは魔王、か細い声が聞こえた。
「わたし、君に惚れてしまったよ。その優しさ、強さ──」
間近に迫った顔と顔。魔王の白く細い指が武骨な頬へと伸びた。
「なぁ、わたしをどう思う?」
勇者は少し逡巡して、
「綺麗だと思う」
と言った。それは嘘でも偽りでもない本心だ。
「くっくっ……そうかそうか。ならば──」
その声には覇気があった。
東の大陸において魔王と呼ばれるだけの力強さが込められている。
「このわたしをくれてやる。わたしは一途だぞ? そのうえ、わがままで寂しがり屋なんだ。だから──」
「っ……?」
ぞわり、と空気が変わる。
「勇者さま!」
魔法使いの声が聞こえた。
続いて他の仲間たちの声が響く。
これが魔力の収縮であることは、知っている。
この一年と少しの間、数多くの敵と戦い、その中にはこのような──自爆をするモノだっていたのだから。
「──残念だったな! 勇者はわたしが連れて行く!!」
玉座の間は眩い光に包まれた。
◇
むかしむかし、あるところにゆうしゃがいました。
かれはべつのせかいでしんでしまい、このせかいにやってきたのです。
かみさまはいいました。
「勇者よ、魔王を倒すのだ」
まおうはとってもつよいので、ひとりではかてません。
かれはなかまたちをあつめました。
そうして、みんなでいっしょにまおうとたたかい、まおうをたおします。
ですが、ゆうしゃもたおされてしまいました。
ひとびとはなみだをながしました。
なかまたちもなみだをながしました。
でも、ゆうしゃは───