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第8話 魔族






「勇者様方、この度は――――」


 偉そうな人の堅苦しい挨拶を聞き流しながら僕はどうしようかと必死に頭を捻っていた。

 最悪の場合は僕のスキルを明かす必要がある。

 というかたぶんそれが一番安全だ。

 後で怒られたり問題は起きるだろうけど、命以上に大事な物はないのだから。

 だけどそれは出来ればやりたくない。

 騙していたことを責められるのが嫌……というわけではない。

 この魔族……僕を殺した後でどう逃げるつもりだ?

 逃がすわけにはいかない。

 この世界に来たばかりの勇者としては捕虜は貴重な情報源だ。

 憶測だらけで確証はない。

 だけどこの少女が魔族というのは間違いない。

 ならばと僕はメイドの少女を手招きで呼ぶ。


「どうされました?」


 近付いてきた彼女の手にソッと触れる。

 

「ゆ、勇者様……?」


 動揺している……ように見える。

 だけど神眼で見たところその動揺は嘘だと分かる。

 うーん、ラノベとかだとこういうので照れられたりするんだけどね。

 ほら、笑いかけたり撫でたりするだけで惚れられるニコポとかナデポみたいな。

 現実はそこまで甘くないよね。

 まあそれはさておき僕はメイドを装った魔族にだけ聞こえるほどの小さな声で囁く。


「キミ魔族だよね?」


「はい?」


 とぼけた様にきょとんとした顔をつくる。

 これが演技だというのだから凄いよね。

 だけど僕の神眼スキルははっきりと動揺を感じ取っていた。


「毒殺なんて回りくどい方法を取ったのは逃げるための時間稼ぎだよね?」


「……勇者様? 何を……」


「もしかして結構警備厳重だったから人の目があって殺せなかった?」


「あの、ほんとになんのことですか……?」


 傍から見れば手洗いの場所でもこっそり聞こうとしているように見えるのかな?

 まあそれなら好都合。

 僕はさらに声量を下げて少女に質問を繰り返す。

 少女は本気で疑問に感じているようだった。

 少なくとも僕にはそう見える。

 これが演技なのだとしたら僕には女性というものを信じることが出来る日は来ないかもしれない。

 だけど僕はそんな彼女に「じゃあさ」と、不敵に笑い言ってやった。


「なんで重心後ろに下げたの?」


「………それで、何が目的ですか?」


 ついに少女は否定することをやめた。

 つまりそれは僕を警戒していたと認めたのだ。

 重心に関しては完全にブラフだったんだけどどうやら信じてくれたらしい。

 そりゃまあ平和な日本育ち、しかも格闘技の経験0の僕にそんな重心がどうとかなんて分かるはずもない。

 しかもこの子はメイド服なので尚更分かりにくい。

 重心に関してもなんか格好良いよね、くらいしか知らない。

 僕はラノベで見たことのあるやり取りを真似しただけだ。

 オタク知識だろうと無駄な知識なんてないってことだね、うんうん。


「人のいないところにいかない? その方がお互い都合がいいと思うんだけど?」


 少女は油断なくこちらを見据えている。

 僕は手を上げて周囲に聞こえるように大声で言った。


「すいませーん! トイレ行ってきます!」


 同郷の皆の視線が痛かったのは言うまでもないだろう。







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