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第40話 伝言






「……まさか人族にこの場所を言い触らすなんてね」


 と、険のある表情のクドさん。

 武器は……薙刀か。

 この世界では初めて見た。


「それで、何が目的なの?」


 そうして再び同じ問い。

 みんなも不安そうだ。


「さ、佐山先輩……どうしましょう?」


 んー……さすがに材料が少なすぎて全く分からないな。

 仮にガリウスさんがこの人達に友好的な立場じゃない人だったとして……僕たちもそうじゃないことを証明できる方法がない。

 僕は仕方ないなと、ガリウスさんから預かっているものを取り出した。


「……それは?」


「ガリウスさんから預かってきたものです」


「地面に置いてゆっくり後ろに下がって」


 言われた通りにする。

 スキルとかで強行突破……も考えたけどそれは今はしないほうがいいだろう。

 あのクドって人のステータスは全く見えなかった。

 上位の偽装スキル……あるいは僕のレベルでも断片的にしか見ることができないほど高いレベル差があるかどうかだ。

 迂闊な行動はとれない。


「ほかに隠してることはない? あ、私は嘘が分かるスキルがあるから隠しても無駄だよ」


「手紙、と……伝言があります」


 皆がこちらを見る。

 視線の意味は分かる。

 刺激するようなことを言っていいのか? ってことだろう。

 それは僕も理解してる。

 だけど、無理だ。


―――今の言葉は嘘じゃない。


 あの嘘を見抜けるという言葉が嘘じゃないことは神眼で分かった。

 レベル差のせいで見抜けないという場合も考えられたけど嘘が見抜けないほどの上位者ならばもう逆らわない方がいいだろう。

 なんにせよ答える以外の選択肢はなかった。


「なんて?」


 とはいえそのまま伝えても良いものか。

 悩んでいるとますますクドさんの目つきは鋭くなる。

 僕は観念した。


「アルテナさんにです。手紙と一緒に伝えてくれって……『くたばれ』と」

 

 ざわり、と。

 エルフの人たちからの怒りのような感情が伝わってきた。

 だけどそれをクドさんの手が止めた。

 片手を静かに上げて、周囲のエルフたちを止めるその姿には支配者の威厳のようなものが見えた気がした。


「………そう」


 その悲しそうな顔を見て胸が締め付けられた気がした。

 神眼でその感情の理由までは分からない。

 だけど、泣きそうなその表情が見せる感情は本物な気がした。


「あの……それともう一つ、手紙に関してなんですが」


「もういい!」


 クドさんの声に木々が震える。

 風……いや、違う。

 なんだこれ……まるで自然が怒ってるみたいな。


「クド様……このことはアルテナ様には……」


「絶対言わないで」


「……分かりました」


 クドさんはしばらく俯いていた。

 俯いたまま震えていた……けど、しばらくすると目をぐしぐしと擦り僕たちを見てきた。


「用はそれだけ?」


 ……言い辛いな。

 ここでアルテナさんに会わせてほしいとは言い辛い。

 だけど嘘が分かるなら隠しても無駄だろう。


「……………ん?」


 いや、待てよ。

 それはおかしい。

 僕たちに冒険者か? と聞いた時この人に嘘の類の反応は見えなかった。

 そして、その時の問いに僕は冒険者ですと答えた。

 まだ冒険者登録していないのに嘘をついたんだ。 

 クドさんが嘘を見抜けるならそれがバレていることになってしまう。

 それなのにその後クドさんは確か―――


『お兄さんたちが冒険者で丁度良かったよ』


 これは違和感がある。

 僕の嘘を見抜いていたならクドさんは全部分かっていたはず。

 つまり冒険者で丁度良かったという言葉は嘘になるんだ。

 それならその時に神眼が彼女の嘘に対する何かしらの揺らぎを感知したはず。 

 だけどその反応はなかった。

 本当に嘘が見抜けるならありえないことだ。


「ふー……」


「?」


 大きく息を吐く。

 落ち着こう。

 どうやら僕は冷静じゃなかったらしい。

 彼女は嘘を見抜けない。

 だけど彼女の嘘を見抜けるという言葉に嘘の反応は見られなかった。 

 なら、後は確認だ。


「嘘が見抜けるってのは嘘とか?」


「………なんのこと?」


 やはり嘘、虚言の反応は見られない。

 レベル差、誤魔化し、スキルの不使用。

 色々考えられるけど、どれも可能性がある。

 だけど、それなら……その中でも一番考えれる可能性、あり得るのは……


「クドさんは嘘がバレないスキルを持っている、ですよね?」


 カマかけだ。

 嘘の看破と嘘を隠蔽するスキルの両方を持ってる可能性もあるけど、その場合はもうどうしようもない。

 どう足掻いても腹の探り合いでは向こうに軍配が上がることになるけど……

 クドさんを見ると……ぽかん、としていた。

 外してる可能性は低い……けど、どうだろう?

 するとクドさんは小さく吹き出した。


「あははははっ、凄いね君! どうして分かったの?」


 返ってきたのは肯定だった。

 僕がほとんど確信していることを理解したのだろう。

 だけどここまであっさり認められると本当に嘘が見抜けるんじゃないかと思ってしまう。


「嘘を見抜けるスキルを持っているので」


「嘘を見抜ける……? 上位のスキル……?」


 クドさんはぶつぶつと一人呟く。


「……違う、それなら最初から全部分かってたことに……でも、私の言葉を疑わなかった。なら……ブラフじゃない……ってことは……どこで?」


 ああ、と。

 クドさんは納得したように頷いた。


「嘘が見抜けなかったからこそ分かったんだね」


 う、うおお、凄いなこの人。

 今のやりとりで全部分かったの?

 3、4秒くらいしか考えてなかったと思うんだけど。


「冒険者って言うのは嘘。だけど私はそれの真偽が分からなかった。つまりそこで分かったんだよね?」


 確証のない言葉……だけど、核心はついてる。

 たぶんだけど最後の確認みたいなものだろう。


「看破……か、もしくは神眼あたりかな?」


 ここまで分かってるなら隠し事は無意味だろう。

 下手な誤魔化しはむしろ悪印象だ。

 僕が頷くとクドさんはまた笑った。


「……クド様?」


「やめよう。この人達とは敵対したくない」


 どうやら認めてもらえたらしい。

 ちょっとやり返してやろうと思っての言葉だったんだけど、意外と好印象を与えることが出来たようだ。


「私が持ってるスキルは『黙秘』。言わない限りその秘密を暴かれることがなくなるスキルだよ」


「……それ言ってもよかったんですか?」


「隠してることに関しては、スキルのことを知られた時点で見抜かれるようになった。ステータスは……戦いたいなら見てもいいよ。もし戦闘になっても問題ないし」

 

 つまり自分は僕たちと戦いになっても何ら問題にならないほど強いと……そう言うことだろう。

 藪を突いて蛇が出ては堪らない。

 どんな力があるか分からないなら見ない方が賢明だろう。

 それなりに戦える自信はあるけど絶対じゃない。

 神眼で見ても言葉に揺らぎは見られない……なら本当に戦闘になっても問題のない何かがあるんだろう。


 そして、言葉に関しては彼女の意思表明みたいなものだろう。

 こちらが敵対しない限りは何もしないという。

 だからこそそれを明かした。

 問題はこれが嘘じゃないかどうかだけど……たぶんここで僕にそのことを理解させたいならクドさんは―――


 そうして予想通り彼女は続ける。

 にっこり満面の笑みを浮かべながら。


「その上でお願いしたいの……今すごく困ってるの。お兄さんたちならなんとかできると思うんだけど……依頼受けてくれないかな? もし受けてくれるならお兄さんたちの御願いもできるだけ聞いてあげるからさ!」


「………」


 どうやら困っているのは本当らしい。


「できると思うっていうのは嘘なんですね」


 クドさんは天使のような笑みを浮かべる。

 ここで彼女が嘘をついた理由は3つ。

 僕が本当に嘘を見抜けるかどうかの確認。

 僕が彼女の黙秘というスキルの効果が本当にその通りなのかということを確認させるため。

 そして、もう一つ。


―――頼みを聞いてくれないならさっさと去れ。


 ということだろう。

 挑発のようなこの言葉を安請け合いするわけにはいかない。

 依頼内容を確認するまでの迂闊な行動は皆を危険に晒す。

 だけど……言外にそんなやりとりを投げかけてくるクドさんの天使のような笑みが僕には悪魔の笑みに見えてしまうのだった。 





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