参話「出会いと卵焼き」
利秋くんやユイちゃんの話し方や性格が裏世界に来てから少しずつ変わって来ているので、それらすべてを含めてお楽しみください。
「ユイ疲れてないか?」
「全然このくらい平気です」
僕たちは裏世界に飛ばされた後、あてもなく歩いていた。
「出発してから何時間経過したんだろうな」
「さぁ。もう5時間くらいは歩いたんじゃあないですか?」
僕が「はぁ」ため息をついていると隣から「ぐぅぅぅぅぅう」というものすごい大きな音がした。隣を向くと顔を真っ赤にしてうつむきながら歩くユイの姿があった。
「…。あ!そういえば僕お腹が空いたなぁ~。そろそろ朝ごはんにしない?」
「そ、そうですね。利秋くんがどうしてもお腹が空いたのでしたらそうしましょう。」
今日の朝ごはんは僕のお母さんの得意料理の1つであり、僕の大好物の卵焼きだ。卵焼きは小さい頃から毎日作ってくれているが未だに飽きたことがない。その理由をお母さんに聞いても何も教えてくれない。
「わぁ!美味しそうな卵焼きですね!私も本当に頂いていいんですか?」
「うん。たくさん食べてくれるとお母さんも嬉しいと思うよ」
僕がそういうとユイはどんどん食べ始めた。
「さすがに卵焼きだけでは味気ないですね」
僕はその瞬間リュックからあるものを取り出した。
「ユイがそんなこともいうかと思って家から少し炊いたお米を持って来たんだ!」
僕がお米をバン!と出すとユイは「おぉー!」と小さく拍手していた。
「そういえば食べるときの挨拶言ってなかったよね」
「そうだねせっかくなんだし一緒に言おうか」
僕たちは手を合わせた。
「「いただきます!」」
「「ごちそうさまでした!」」
「ふぅ~食った食った。やっぱりお母さんの卵焼きは最高~」
「そうですね。とても美味しかったです。もしまた会えたら作り方を教わってみたいものです」
ユイはそう言いながら俯いた。
「帰れなさそうに言ってるけど、どんな手を使っても絶対に帰るから。安心して!」
「わかってるよ…でもどんな手を使ってもダメだったら…」
僕はユイを励まそうとしたが、それはあまり効果が無かったようだ。
「「でも」とか「もし」なんてネガティブ発言は今後却下ね!そんなことを言ってたら可能性があっても、本当にできなくなっちゃうからね。だからポジティブ思考でいこう!」
「そうですね。そんなこと言ってたら本当に帰れなくなっちゃうですからね!」
元気を出したわけじゃないけどユイは笑っていた。
「ん?あっちの方少し騒がしくない?」
「そうです…ね。あの茂みの奥からじゃないですか?」
そうユイが指を指す方をこっそり覗くとそこには小学生ぐらいの少女と二十歳ぐらいの女性がいた。なにかを揉めているようだ。
「ここからじゃあ聞き取りにくいな。」
「利秋くんあまり押さないでください。これ以上前に出るとバレてしまいます」
「わ!」
僕たちは茂みから倒れ出てしまった。
「何者です!」
女性の方に警戒されながらそう言われた。
「あ、あのー。えーと。別に怪しいものではないです」
「怪しいものではないのなら何故に茂みに隠れていた!」
女性に正論を言われてしまった。
「私たちは敵ではありません。しかし味方とは限りません。ですがこちらは何も武器を持っていないのですから、そちらも武器をしまってもらってもよろしいでしょうか?」
ユイが冷静に女性を説得している。
「おねーちゃん。この人の言ってること本当だよ。調べたけど何も出てこなかったよー」
声のする方向を向いていると、そこには先ほどまで僕たちの目の前に居たはずの少女が、今日の夜のご飯の為に取っていたはずの卵焼きを食べながら背後に立っていた。
「え!?いつの間に後ろに!?それより今日の夜ご飯がー!!」
「ん~!この変な形をした食べ物すごくおいしー!もうないの~?」
「まだまだありますよ~。はい、あ~ん!」
「あ~~んっ!おいしぃ~!」
「ユイも見知らぬ人に貴重なご飯を分けないでよー!」
「こんなにたくさんあるのですし、みんなでこの美味しさを分かち合った方がもっとおいしいです!それにこの子に食べさせてあげるの楽しいですよ?」
「ぐぬぬぅ。」
僕はそう唸りながら無意識に箸で卵焼きを掴んで少女の口元へ近づけていった。
「はい。あ~ん」
「あ~~んっ!おいしぃ~!」
そんな少女の笑顔を見ているとこちらまでにやけてしまう。け、決して!決してそういう性癖ではないぞ!ただ単に小さいものや可愛いものが実は好きなだけだ。大切なことなのでもう一度言おう!小さいものや可愛いものが好きなだけだ!
「はいもう一つ。あ~ん!」
「あ~~んっ!何度食べてもおいしぃ~~!」
僕たちがこんな感じのやり取りを何度もしていると、我慢をしていたのか少女と一緒にいた女性は警戒を解き、よだれを垂らしながらこちらを見ていた。
「その……私にも…その食べ物を食べさしてくれないか…?」
「しょうがないな~。はい、あ~ん」
「そんなことをされずとも自分で食べれます!」
「ダメぇ。あ~んをしないと全部取られそうだもん」
「じゃあ…せめてそちらの女性にしてもらってもよろしいでしょうか…」
「だったら安全だなじゃあ僕はこちらの少女にあ~んするからそっちは任せていい?ユイ」
「別にいいですが…あ、あとで私にもあ~んしてもらっても構いませんか…?」
また出ました。僕が絶対に勝てない、この上目遣い。にしても器用だよな。好きな時に涙を出せるんだから…
僕もこのくらいできれば……いや。男が涙目上目遣いって逆効果か…
こんなしょうもない考えをしている間にも少女が卵焼きでお腹いっぱいになってしまった。
「あ~!お腹いっぱい!沢山食べさしてくれてありがとうね!お兄ちゃん!」
この無邪気な笑顔を見ていると僕はそういう性癖でもいいかもしれないと思ってしまう。
「利秋くんが考えていることが今少しならわかりますよ?私というものがありながら、別の子に手を出したら許しませんからね?」
ニコッ!と今までにないほどの笑顔でこちらを見て来たユイに、少し鳥肌が立った。僕の考えはお見通しのようだ。ハハハ…
「コホン先ほどは失礼した。では改めてお礼と自己紹介をしよう」
「じゃあこっちから自己紹介をするよ。僕の名前は緒方利秋と言います。こっちは花沢結衣菜っていいます」
「これでも利秋くんの彼女ですから」
ユイは女性にと少女に威嚇しながら彼女の部分を強調した。
「大丈夫ですよ。彼は私のタイプじゃないですから」
女性はユイを見つめながら笑っている。僕は彼女のタイプではないことにガッカリした。でも僕はってことは…いや気にしたら負けだ。
「はいは~い。次は私が自己紹介しま~す!私の名前は詩姫、狩生 詩姫って言うの。お母さんが姫様のように可愛くなりなさいって付けてくれた名前なの!」
「詩姫ちゃんって言うんだ~。自己紹介よくできたね~えらいえらい」
そう僕が詩姫ちゃんの頭を撫でていると後ろからの目線を感じる。
「では最後に私が言おう。私の名前は平野 詩音だ。よろしくお願いする」
そう頭を下げながら自己紹介をする詩音さんに僕は、慌てて頭を上げるようにお願いする。
「そういえばお二人は本当の姉妹なのですか?」
不意にユイが二人に質問をした。
「うん!そうだよ!おねーちゃんと私はとっても仲良しなの!おねーちゃんは私が一人ぼっちの時のは必ず遊びに来てくれるんだよ!だからおねーちゃんがだーい好き!」
そんな詩姫ちゃんの言葉を聞いていると、その横で詩音さんは、にやけたながらヨダレを垂らしている顔を手で隠している。バレない為にしているようだ。詩音さんはとても詩姫ちゃんの事が好きなんだろうなぁ。詩音さんと目が合うと僕は指をさしてヨダレを垂らしている事を教えてあげると、詩音さんは慌てたようにヨダレを拭い、顔を赤くして顔をそむけた。
「コホン!。実はだな。私と詩姫は母親と父親は同じなのだが二人は詩姫が産まれた後すぐに離婚して、私は父親。歌姫は母親に引き取られたのだ。平野というのは父方の名前なのだ」
「そうか、悪かったな。あんまり言いたくなかったろ。その話…」
「いや全然そんな事ないぞ?あんまり気にしたことないし、詩姫ともこうして一緒にいれるわけだしな」
詩音さんは詩姫を膝に座らせ、頭を撫でながら笑顔にそう言って見せた。
「あははは。強いですね詩音さんは」
「強いか?私が。当たり前だと思うぞ?」
「詩音さんには当たり前だけどもし僕の両親が離婚してたら引き取ってくれた方とも顔を合わせずらいしね」
「まあ緒方がそう思うならそうなんだろう。でもその言いぐさだと結果は違うんだろ?緒方の両親は離婚してないんだろ?」
詩音さんは僕を慰めるように頭をポンポンと叩いた。
「あの…平野さん。利秋くんのお父さんはーー」
「ユイ!」
「は、はい!」
「その話を知っている人はできる限り少ない方がいい。それに二人には別の機会に心の準備が整ったら話すよ」
「あ…ごめんなさい」
なんで僕、怒鳴ってしまったんだろう。ユイは何も悪くないのに。謝らないと…でもなんて謝ろう。
僕の考えを見越してか詩姫ちゃんが突然大きな声で叫んだ。
「あ~自己紹介やお話聞いてたらまたお腹が空いてきた~。ねぇ。お兄ちゃん。またあ~んしてくれる?」
覗き込むようにして詩姫ちゃんは僕の顔を見て来た。
「そうだな。じゃあ結衣菜ちゃんは、私にまたあーんをしてくれないか?」
「え!?な、な、なんで私なんですか!?自分で食べるか、私以外の人に食べさして貰えばいいじゃないですか!?」
「フッフッフ。実はだな私は男性には興味がないのだ。だから。さぁ!さぁ!」
あぁやっぱりこの人あっち系の人だったのか…
「い、いや私は利秋くんにあーんして貰えって言った訳じゃないですよ!詩姫ちゃんに食べさして貰えって意味で言ったんですけど!?」
「いやだってあれ」
詩音が指をさした方向には…僕!?
「え!?なんで僕!?二人して何なのその目は!?」
「え…だってそれ…」
今度はユイがさした所を見てみると…!?
「んなぁ!?いつの間に僕は詩姫ちゃんに卵焼きをあげてるんだー!!!」
するとまたお腹いっぱいになったのか詩姫ちゃんは僕の膝の上で体をギュッと掴みながら寝てしまった…
「この裏切り者…」
「いやいや詩姫ちゃんは子供だし!裏切ってないって!」
「私だってまだ膝の上で寝てもらった事ないのに…」
「そんなの知るかぁ!」
二人の視線が痛い…何とかこの状況を抜け出せる方法はないのか!なんでもいい…。神様!お願いします!助けてください!
そう願った瞬間!空が眩しく輝き、僕らはまた光に包まれてしまった。
目が覚めると葉っぱと葉っぱの間から除く夜空が見えていた。
やっと自分が出したかった役者様の詩姫様を出せれたのでよかったです!
今更ですが文章の書き方などめちゃくちゃですが、ここまで見てくださった方々、誠にありがとうございます。更新は不定期ですが次回に乞うご期待あれ!