表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

部屋前

 3月25日。その日は春休み真っ最中たっだ。

春の暖かな日差しが少しずつ肌を通して伝わり始める2年生を迎える一歩手前。

大学生の鈴野明は困っていた。


「よりによってこの日にか……。傘持ってないし」


 大学の研究室から必要な機械部品を借りて家に帰ろうとしていた日、外では雨音が強く響いていた。

 天気予報をろくに確認もせず傘を持たず家を出たことを後悔しながら窓を眺めどうしようかと考えている最中。

 

 工学部に属している明は趣味で機械を触ることが好きであり、中学生の頃からから暇を見つけては使われなくなった家電製品を探し出し修理などをし過ごしていた。

 使われなくなった家電の出どころはクラスメイトたちだった。

 譲り受けるために頭を何度も下げたり、代わりに何かを奢ったり。

 繰り返しクラスメイトに聞きまわったりしていたらいつの間にか「機械バカ」との称号。

 つまりあだ名をつけられていたのは今となってはいい思い出である。

 もっとマシなのがよっかたとは後悔しているが。

 その趣味は今でもあきもせず続いてた。

 さらに楽しむために大学の進路も機械系に進み現在に至っている。

 大学の研究室にはよく処分予定の余った部品が放置しており持って帰ってもいいことになっている。今日も自宅にある古いブラウン管タイプのテレビを治すためにその部品を取りに来ていたのだ。


「部品が雨で濡れるのはよくないな。なにか雨避けできる物は、っと…」


 研究室の周りを見渡し探してみたがとくにそれらしいものはなかった。

 もう一度外を見る。雨の勢いは増すばかりでやみそうにもない。

 3月終わりとはいえ、雨のせいで肌寒く感じる。

 諦めて帰ろうとしたそのときドアの開く音がした。

 振り返るとよく知る人物の顔がでてきた。


「なんだ。またお前か。今日も来てるとは思わんかったぞ。てか、ここ開きっぱなしだったか?」

「はい。ども。おはようございます」


 扉を開けた人物は指で扉を差し訪ねてくる。相槌を打ち、あいさつをした。


「来た時にはドアが開きっぱなしでしたよ。筒神教授。ほんといつも不用心ですよ。外出る時は鍵かける癖つけないと」

「勝手に入っている奴が何言ってんだ。まあ、いいだろ。この時期、研究室を訪れてくるのはお前ぐらいだし。必要ないだろうよ」


 筒神新屋は顎髭をいじりながら話しかけてきた。

 よく講義中にも触っているのは見かけていた。

 だいたい人と話すときはこうしており、癖だろうと思う。

 最近ここを訪ねることが多かったので話をしているとそれに気づいた。

 髪の毛は雨のせいでところどころ癖っ毛のようにはねており鋭い目つきで見つめてくる。

 入ってくると横を通り過ぎ奥にある机に座った。


「その部品また持って帰るのか?外、雨降ってるけど」

「そうなんですよそれでちょうど困ってたんですよ。もしよかったら傘とか貸してくなないかなぁ……なんて」

「そんな期待の目をしても残念。あいにく俺が帰宅時に使かう傘一つだけなんでな。貸せないぞ」

「まじっすか…」


 今日は諦めるしかないと思い研究室を出ることにした。また明日に出も取りに来ればいい。


「それじゃ今日はこの部品おいて帰ります。隅っこに避けて置いときますから処分しないでくださいね」

「わかったからさっさとでてけ、でてけ。俺はこれから忙しいんでな。そんじゃ雨気をつけて」


 必要な部品を拾い抱え、部屋の右奥にスペースが開いているのでそこへ適当に積み上げて置いた。

 

「失礼しました」

 

 教授は何か本に目を通しながら片手を上げてあいさつに答える。礼をして扉を開け廊下にでる。

 しかし、困ったことにこれでは作業が進まないことになってしまった。

 ならば家に帰ったら他の物を調整しようと考えながら廊下を歩き始める。

 少し長い廊下を歩き備え付けのエレベーターへと向かった。

 エレベーター前に立って扉が開くのを待っているとといきなり耳の後ろから「わっ!!」と大きな声を放たれた。

 驚いて後ろを振り向くとそこにはよく知った顔がいた。


「おはよー鈴野。調子はどうだい?」

「びっくりするっつーの。俺がびっくり系苦手なの知ってるだろ」

「いやーごめん、ごめん。さっき歩いてたら鈴野の姿が久々に見えたからからかってみたくなってつい」

 

 いつも通りに明るく話してくる笹谷纏。会うのが久々とはいえいきなり驚かされては心臓に悪い。

 廊下を歩いてくる途中出会わなかったということはどこかに隠れていたのだろうか?


「久しぶりっても一週間ぐらいだろ。」

「そうだね。春休み中会うことなかったからそんぐらいかな?てか、鈴野は考え事しながら歩いてるから私に気付かなかったんだよ。結構わかりやすいところいたよ?私?」

 

 そういうと廊下の方へ指差したので目をやった。

 笹谷曰く廊下の途中にある壁沿いの出っ張った柱の部分に隠れていたらしい。

 見ると人一人ぐらいはぎりぎり隠れられそうだが通り過ぎる時に見える場所であった。


「こんなところでどしたの?また研究室で部品持って帰ろうとしたの?」

「うん。また取りにきてた。笹谷こそ大学で何か用事?」

「これから研究室に行こうとしてたとこ。筒神教授がいるはずだから。」


 笹谷が研究室に訪れるなんて珍しいと思った。

 というよりも俺以外が筒神教授の研究室に行くなんて珍しいことだった。

 めったに他の生徒は訪れない場所だったからだ。

 基本あの場所には教授の使わなくなった機械部品が沢山おいてある場所になっており教授自身も仕事以外ではめったに訪れない場所だ。

 今は仕事が多くあるようでよくいるようで、春休み中は訪れるとだいたい椅子に座り作業をしている光景をよく見かける。


「そうか。ちょうどさっき会ってきたからいるよ。それじゃ、また今度」


 帰ろうとしたとき笹谷が何か気づいたようで訪ねてきた。


「外、雨がザーザー降ってるけど傘持ってるの?」

「いや持ってない」

「だったらこれ貸してあげるよ」

「え!?いいよ。それ一本しか持ってないだろ。そしたらお前の分なくなるし」

「いいって。貸したげるよ。必要ないから」

「でも……」


 いい返そうとするといきなり傘をこちらに押し付けてき、無理やり手に持つ形になった。

 そうすると笹谷は手を振りながら研究室の方へと向かっていってしまった。


「無理やり押し付けられたけど……ま、いっか。善意は受け取っとかないとな」


 傘は今度会った時にでも返すとしようと思った。

 春休みが終われば毎日会う機会はあるのだから。

 外へ出ると傘を雨が打つ音が強い。

 明日まではやみそうにもないようだ。

 鈴野は大学を後にし、自宅への道を帰るのだった。

 

* 

 自宅前に着きマンションのエレベーターへ向かい3階に昇る。

 部屋は3階一番奥の隅に位置している。

 エレベーターを出ると奥に大きな箱が目に見えた。

 無造作に置いてあるものだから不思議に思いながら廊下を歩いて部屋に向かった。

 近づいていくとそれは俺の部屋の入り口前に置かれていることに気がつく。


「なんだこれ?」


 そこには俺の伸長を超す大きな段ボールが置かれていて驚いた。配達物ではないかと思い記入用紙を探すが貼ってはいなかった。代わりに手書きの文字でおかしなことが書かれた紙が貼られていた。


『拾ってください。きっとあなたの未来へと続いているから。』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ