一般人が余裕ぶって必死こく
3月1日 晴れ
明後日は桃の節句である。
いわゆる雛祭りだ。
俺が苗字でいじられる日でもある。桃木って苗字であっても、うちには桃の木もなけりゃまず俺は男だ。姉妹もいないから雛祭りは関係無い。
まぁそれは毎年の事だ、どうでもいい。問題は今の状況だ。
時間は深夜、場所はうちから徒歩5分のコンビニ前。目の前には高校のクラスメイト、ただしでかい骨を背負っている。
「おや、そこにおわすは桃木君ではありませんか!!こんな時間に会うとは中々奇遇ですなぁ!!」
「こんばんは、久那土さん…その、持ってるそれは…?」
「あ、これはうちのがしゃどくろの肋骨だよ。今朝磨いてる時に兄さんが投げちゃってさー」
そう言ってたははと笑う。どんな兄さんなんだそれ…
さっき買った缶コーヒーを飲みながら、そんな突っ込み所が多々ある雑談を繰り広げる。
がしゃどくろだゴーレムだ、昨日はあっちのビルが魔法で吹き飛んだだの、普通の会話では絶対出てこないような単語が飛び交っている。
けれども、特におかしい事は無い。何てったって全部マジだから。
魔法使いに錬金術師、呪術使いに更には召喚師といった人を越えた人。
狼男にドラゴン、化け狐などの人ならざるもの達。
これらはこの街に実在する。街の外から見れば空想の産物であろうが、ここではただの現実なのだ。
学生が電車でスマホのゲームをする横で、そのゲームに出てくるような種族が疲れきって眠っている。そんな光景が当たり前の地方都市。それがここ、栞奈市なのだ。