百手様
思いついたので、今書いてる長編小説の気分転換に書いてみた。
日本、関東圏のとある山奥。
行方不明になっていた女の子が発見された。
彼女は街の監視カメラに映っていた怪しい男に誘拐されたと推測されていた。
女の子は、祠の近くにあった誘拐犯の車の中に一人でいたのを捜索中の警察官が発見。
捜査本部は安堵の雰囲気に包まれた。
ところが女の子の供述によって頭を悩ませることとなった。
曰く、もものて様と名乗る男性に助けてもらったのだという。
「○○ちゃん、もものて様ってどんな人?」
警察官に聞かれた女の子は、
「おまわりさんより大きくて、体中に紙がはってあって、おててが背中からいっぱい生えてるの!」
とんちんかんな答えを返す女の子。
精神的なショックを受けたのかもしれない、と思った警察官は別の質問をすることにした。
「怖いおじちゃんはどうしたの?」
誘拐犯の行方だ。
「怖いおじちゃんはもものて様を見たらお車から出てあわてて逃げたの。
祠の近くにいなさいってあたしに言ってからもものて様が蜘蛛さんみたいに追いかけていったよ。
それで、もものて様が帰ってくるのを待ってたらおまわりさんがやってきたの」
精神科医に女の子を診てもらったが、興奮はしていても異常は見られなかったという。
女の子から事情を聞くのは終わりにし、誘拐犯のものと思しき足跡を追うこととなった。
足跡の先には大分昔に放棄されたと見られる村があった。
だが捜索をしても誘拐犯の男を結びつける手がかりは見つからなかった。
やたらムカデやゲジゲジがいたぐらいだ。
薄気味悪く、一通りの捜査を終えた捜査員たちは足早に廃村を後にした。
捜査員は後日、近くの村で聞き取り調査をしていたら年老いた住民からこんな話を聞いた。
「祖父さまから聞いたことがある、そこは呪術師の村だから近寄んなって。
百手様っていう救いの神様を祀ってる、ともな。
あんま関わらん方がいい」
結局、誘拐犯は行方不明のまま事件は風化していった。
報告
××月××日に起きた女児誘拐事件について。
発見された女児××××(7)は百手様と自称する異形に遭遇した模様。
行方不明の誘拐犯××××(35)は何らかの霊的被害を受けたと思われる。
誘拐犯の足跡があった先の廃村となっている××村は、昭和××年××月××日に掃討作戦を決行した呪術師の村である。
結果、現地に向かった討伐部隊は一人も帰らず、作戦の中止が決定された。
当時、近くにある複数の村の住民からは“××村の呪術師たちは、自分たちで造り上げた百手様という救世神を祀っている”という証言を得ている。
また、付近には謂れが不明の祠が複数存在している。
女児××××の発見場所、および百手様の出現箇所と思しきことから深い関係があると推測される。
掃討作戦、および今回の誘拐事件に百手様なる存在が討伐部隊ならびに誘拐犯××××にどのような影響を与えたのかは不明。
前例の作戦での被害が大きいことから見て、今後も動向を伺うのみの方針を支持する。
日本非科学現象対策局