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【死神】ダンジョンマスター

作者: U落帝

流行り廃りは世の常とはよく言ったものだ。

人も技術も、王国や神様だって…それは同じことらしい。

いろんなものが栄えては廃れて、持て囃されては疎まれる。


そして僕も、その大きな流れに巻き込まれているうちの一人だ。


「言いにくいんだが、君にはパーティーを抜けてもらいたいと思っている」


今まで組んでいたパーティーリーダーから、不要だと突きつけられる。


「俺たちのパーティーは本気でダンジョン攻略を目指したいと考えているんだ」


ダンジョン。

80年ほど前、魔王が倒され、やっと平穏を手に入れたこの世界に突如として現れ、魔王の呪いか。新たな魔王の誕生かと人々を不安と恐怖に陥れた謎の迷宮。

ダンジョンの現れた場所は多岐にわたり、森や山、海、平原、そして街の中にまで及んだ。

はじめはそこから溢れるモンスターたちに怯えていた人間も、その素材やモンスターの核となる魔石に価値があることがわかると、皆こぞってダンジョンに挑んだ。


さらにその中で時折発見される宝箱がダンジョンの価値を高めた。

宝箱からは様々な魔道具をはじめとし、金貨や伝説級のアーティファクトまでもが発見された。

また、ダンジョンの最奥には計り知れない価値の財宝があると言われている。

その莫大な財宝と、ダンジョン踏破者としての名誉を求め、冒険者たちは地底を目指す。


「君は確かに魔法士としては素晴らしい才能を持っているよ。Bランクの回復魔法まで使えるものはそうはいない。けれど、はっきり言うが……もう魔法だけしか取り柄のない魔法士は時代遅れなんだよ」


僕は魔法士だ。

炎を生み出し、大地を凍らせる。風の刃は敵を切り裂き、仲間の怪我を即座に癒す。

大昔から多くの賢者たちが魔法の仕組みを解析し、魔法という技術を確立してきた。

そして異世界の勇者がその知識を使い発展させたものが現代の魔法だ。


僕は魔法士である父に憧れて、ずっとこの道を進んできた。

そのおかげかBランクの回復魔法を使え、属性魔法もCランクの上位までマスターしている。

欠損や失った血を取り戻すことはできないが、骨折や剣による裂傷、体力の回復程度なら造作もなく行うことができる。

剣や斧は使えないが自衛はできる。

魔力量は常人よりは遥かに多くなっているため、滅多なことでは魔力切れになる心配はない。


そう、ダンジョンに臨むパーティーならば、どんな手を使っても取り込みたい人材だったはずだ

以前ならば……


「魔法は即魔石で誰もが詠唱なしで使える。僕たちは安定して利益を出せているから、高ランクの即魔石も必要量揃えることができきるようになった。君が抜ければ、その分多くの即魔石で戦力の安定を図れる。戦闘の主流が即魔石になっている今、それが使えない。剣も振るえない。そんな君がパーティーにいても意味がないんだ」


即魔石。

これが魔法士の価値を地に落とした。

ダンジョンから産出される魔石には、魔法を蓄える性質があった。

特殊な技術で魔法を記録し、その魔法を一度だけ、誰でも手軽に発動することができるのだ。

起動に使う魔力はごく少量。

威力はほとんど従来の魔法と変わらず。

詠唱も必要としない。


最近になって、その技術が開発され、市場に出回るようになると、剣士が片手で剣を振りながら、片手で魔法士と同じように魔法を発動できるようになった。

高ランクのものになれば威力も上がるが、値段も上がる。

使い捨てである以上コストはかかるが、それでもその欠点を補ってもあまりある有用性が即魔石にはあった。


稼いでいるパーティーになると即魔石専用のメンバーがおり、後方から魔法を連発しモンスターを殲滅するものもいるという。

僕が子供の頃から研鑽を重ねた回復魔法でさえ、金さえ積めば子供でも使えるようになったのだ。


これが僕がパーティーを追われる一因。

そして何より決定的なのは、僕が即魔石を使えないということだ。


僕は人よりも魔力が多い。

逆に細かい出力は苦手としていた。

即魔石は少量で起動するため、普通なら発動に苦労することはないのだが、僕は魔力を多く注ぎ過ぎてしまい、ほとんどの確率で過剰供給となり、魔石が砂となってしまう。


「そういうことだから、君も早く新しい道を探したほうがいい。田舎な方でなら治療師のあてもあるだろう。それでは、縁があったらまた会おう」


「あの……」


結局僕は何も言い返さなかった。

自分自身が一番、自分の魔法が時代遅れであることを理解してしまっているからだ。

悔しいけど…もう僕の魔法ではどうにもならない。

パーティーメンバーたちが席を立ち、この場を去ろうとする中、一つだけ動かない影がある。


「リーくんが抜けるなら丁度いいし。私も抜けるね」


「なっ!!」


皆が驚いて彼女を見つめる。


「お、おい…マチルダ。どういうことだ?彼が抜けるからと言って君が抜ける必要はないだろう?」


「ん?…まぁ、潮時かなーって。私別にダンジョン攻略とかどっちでもいいし、手っ取り早く稼げるから冒険者やってるだけでさ。ダンジョン踏破者の栄光なんて形のないもののために危険な深層に挑むのはちょっとね…いい機会だから便乗させてもらったの」


彼女は肩にかかっている髪をいじりながら、飄々と返す。

きっと彼女が誰よりも現実を見ているのだと思う。

世界中でも制覇されたダンジョンはごくわずか。

それもあまり大きくないものばかりで、しかも半数が国やギルドが主導になって行われた大規模レイドによる

制覇だった。

パーティー単体のダンジョン制覇はごくわずか、一部の天才や英雄がいるようなパーティーばかりだ。


いくら贔屓目に見ても、このパーティーにそこまでの英傑がいるとは思えない。

夢や希望では飯など食っていけないことを、彼女は十分に理解しているのだろう。

彼女の実力ならば確かにソロで低層、がんばれば中層あたりで十分に稼げる。

剣士としての実力もBランク相当、その上場の流れを読む能力も優れているため、即魔石の使いどころも実に巧みだ。


「か、形のないものって…!ダンジョンの攻略が人類にどれだけの富と発展をもたらすのか、いつも言っているだろう?それを僕のパーティーで成し遂げるんだ。ほら、あのとき君だって賛同してくれていたじゃないか…すごいね、がんばってねと・・・君には能力がある。君は僕のパーティーにいなくてはならない人材なんだ。ああ、君は彼に同情をしているのか?とても優しい君のことだからね。確かに俺も彼には申し訳ないと思う。でも、僕はパーティーリーダーなんだ。君たちの命を守らなければならない責任がある!だからそのための最善の手を打った。メンバーが変わることぐらい冒険者なら経験することだろう?それとも報酬に不満があるのかな?それなら彼が抜けた分余裕もできる。ゆっくりと話し合えばいいさ。さあ、行こう。そろそろ宿に戻らないと…」


「あなたのことはすごいと思う。がんばってほしいとも思う。だけどそれは私がやりたいことでもがんばることでもないの。私は抜けるって言った。それはもう決めたの。あぁ、私の分のパーティーの解除申請もしておいてね。どうせこの後リーくんの申請をするつもりだったんでしょう?」


そう言って彼女は酒場のドアをさっさと出て行ってしまう。

元パーティーメンバーたちは中途半端に席を立ったまま事態の展開についていけず、呆然としていた。

僕はマチルダのあとを追って店を飛び出した。


彼女は後ろでまとめた赤い髪を左右に揺らしながら町の外周の方へずんずんと歩いていく。



「ねぇ!僕とパーティーを組まないか!」



前を歩いていたマチルダが振り返る。


「あぁ、リーくん。さっきはごめんね。君も言い返したいことあったよね。それを横から勝手に割り込んで」


「いや、あいつの言っていることは間違っていないし、僕もあのパーティーの空気にはなじめていなかったから・・・」


「そう・・・で、私とパーティー組むって?やっぱり冒険者を続けるつもりだったの?」


「まぁ、俺は魔法士だから、組んでくれる人がいなければダンジョンにはもぐれない。だから、もし誰も組んでくれなければあいつの言うとおり田舎で治療師でもして日銭を稼ぐしかないけど・・・」


「ん・・・・・・・まあリーくんは魔法士としては優秀だし、即魔石を使わない戦闘ならもってこいだからね。私もしばらくは即間石の節約をしてお金をためたいと思ってた。じゃあ一緒にやろうか」


マチルダと僕は、明日早速二人で迷宮に潜ることに決まったため、早々に解散した。

彼女は駆け出し時代からのなじみの宿屋があるとのことなので、明日の朝、ギルドの前に集合することになった。

僕は確かに時代遅れの魔法士でけど、女の子一人守れないほど弱くはない。

明日からは全うに魔法士として冒険できることがうれしく、久しぶりに浮ついた気持ちでいつものギルド提携の安宿へ向かう。




「おい・・・そこのお前」




あたりが薄暗くなってきたところで不意に呼び止められる。




「お前だ、魔法使い」




魔法使いとは古い言い方だ・・・爺さんくらいのときはそんな呼び方をしていたらしいが。

それよりも声は僕のことを呼んでいるようだ。

魔石の使えない僕は大きな杖を常に携帯していなければならないため、すぐに魔法士ということはわかる。


「僕ですか?」


「そう、お前だ。お前、グラントの家のものだろう?お前にいい話を持ってきた。」


僕の家は特に高貴な家というわけではないが、親父も爺さんもそこそこの魔法士だったため、この辺では魔法士のグラント家として有名ではある。


「はい、そうですが・・・あなたは?」


「ダンジョンマスターだ」


「は?」


「この名はとおりが悪いか。まぁ、この世界にダンジョンを作ったもの、ダンジョンの管理しているものだ」


いやいやいや。

ダンジョンができたのは80年も前だし、この人どう見ても二十台だよな。


目の前のダンジョンマスターと名乗る男を観察する。

年のころは二十四・五。黒髪で目元のすっと通ったきれいな顔立ちをしている。

しかし、前髪は伸び放題でその要望を半分隠しており、やせていてぼろぼろな灰色の外套から除く手は今にも折れてしまいそうだ。


足が悪いのか、魔法士のものでなく、老人がつくような木製の杖を突いている。


「疑っているか。それはそれだろう、だがお前に利益になる話を持ってきた。黙って聞いておけ。お前の四代前のグラントには借りがあってな。ダンジョンシステムを構築する際に協力してもらったんだ。もっともあいつは誰にも言っていないから、広まっている話ではないがな。それで、気まぐれに少しお前に手を貸してやろうと思ってな」


「僕の先祖がダンジョンに関わっていた・・・?」


「そうだ。あいつなしにはこのシステムは完成し得なかった。それに、実はマジックエミュレーター・・・即魔石の技術を人間にばら撒いたのは俺でな・・・それで魔法使いであるグラントのが困っているのに少し悪い気がしたんだ」


「あんたが、即魔石を作ったのか?」


「まあ、ダンジョン機構の一部だからな。リソースを合理的に循環させるには都合のいいシステムだったからな」


「リソース?」


「あぁ、気にするな。それで、お前に魔法とスキルをくれてやる。S級の治癒魔法だとステータス表示だ。即魔石ではAランク以上の魔法は再現できないからな。それにステータス表示は・・・まぁいろいろ便利だ。ほら」


彼がそういうと僕の周りに魔方陣が現れる。

見たことのない、大儀式魔法でも到底使わないような複雑精緻な陣だ。

魔方陣が僕の中に溶け込むように消えていく。


「ステータス・オープンと唱えてみろ」


言われたとおり唱えると、目の前に半透明の板が現れる。





名前  リー・グラント

レベル 25

種族  人間

状態  普通


HP 481/514 

MP 3250/4895


Str 82

Def 71

Int 470

Agi 48

Dex 104

Cri 51


スキル

B級回復魔法

C級属性魔法

S級回復魔法(限定)

ステータス表示(限定)





「あの・・・これは?」


「それがステータスだ。いろいろあるが、お前は〈HP〉と〈状態〉だけ気にしておけ。HPは・・・命ののこりだ。0になれば死ぬ。状態はまあ、麻痺とか毒とかだな。自分以外の人間でも念じれば見ることができる。さらにお前はS級の回復魔法が使えるようになった。勇者のパーティーの治癒魔法使いが使ったとされる伝説の魔法だ。部位の欠損や猛毒の状態異常など、HPが0になってさえいなければどんなものでも回復させる。昔失った手足も生えるし、首を飛ばされてもHPが0になる前なら生えてくる。それを使って名前を売るなり、金を稼ぐなり好きなことに使うがいい。ただし、いまのお前ではIntが足りないから完全に使いこなすことはできない。お前が成長してIntが700を超えれば自分の魔力だけで扱えるようになる。それまでは8回だけ使ええるようにしてやる。いいか、8回だけだ。それ以上は実力がついてから存分に使え。お前ならいずれ自力でSS級まで使えるようになるさ」


「本当にそんなことができるようになったのか?」


「ああ、ただしIntが700までは8回だけだ。本来使えないものを使うんだ。こちらのシステムにも負荷がかかるからな。いいか、詠唱は【システムジェネレート・マジックアイディー・エムスリー】だ。忘れるなよ」


「しすてむじぇねれーと?聞いたことがない詠唱文だ」


「疑うならば試せ。お前がSS魔法まで使えるようになったとき、どこでもいい。ダンジョンの最奥に来い。そこで俺は待っている」


そういうと男はすっと影に解けるように消えてしまう。



僕はそれから宿に帰るまですれ違う人のステータスを観察しながら帰った。

そこに移る数値はまちまちだが、冒険者は基本的に数値が高かった。

強い人ほど数字が大きくなるんだろう。

いろいろな人のステータスを見続ければ数字の意味もわかるだろうか?


そしてやはり気になるのは〈HP〉だ。明らかにダンジョン帰りの冒険者は軒並みHPが減っている。

また、老人にもHPが大幅に削れているものがいた。

あの男の言うとおり、これが命の残量なのだろう。


ふと歩きながら、僕はダンジョンの入り口付近まで歩いていた。

やはりさっきあったダンジョンマスターのことが気になってしまったのだ。

ここにくれば合えるかとも思ったが、やはりそうは行かないらしい。



そのとき、にわかにダンジョンの入り口で魔法陣が輝いた。

ダンジョンマスターが僕に気づいて出てきたのかと思ったが、違ったらしい。

魔方陣の輝きがやむと、そこには血まみれのパーティーが現れた。

転移の即魔石で脱出してきたのだろう。

人数は5人。

そのうちの一人の女性は左手が根元から千切れており、わき腹は大きくえぐれていた。

大方、下層で想定外のモンスターに襲われたのだろう。

これだけの傷では回復魔法でも治らない。


「おい、地上に着いたぞ!誰か、回復魔法士を呼んでくれ!仲間が怪我をしたんだ!あの化け物、いきなりダンジョンの壁を破って出てきたんだ!だれか、Bランクの即魔石でも治らないんだ!Aランクの使える魔法士を!たのむ、金なら深層で十分手に入れたんだ!いくらでも払うから!」


叫ぶ男も全身は血と泥にまみれている。


近くにいたダンジョンの門番や他の冒険者たちには、諦めの雰囲気が漂っていた。


「Aなんて王都にでも行かなきゃいねえよ」「いても回復魔法が使えるかわからないしな」「深層にもぐるくらいだ。覚悟はできてるだろうよ」「かわいそうだけどどうにもならんな」


これは、と僕の中でひらめいたものがあった。

ダンジョンマスターはこのことを予期して、いや、あの男が作り出した状態なのかもしれない。

ダンジョンの管理者なんだ、冒険者に強いモンスターをけしかけて、瀕死の重傷を負わせるくらいは簡単なはずだ。

確証はないが、そんな気がした。


そうなると、目の前の惨状は僕のせいなのかもしれない。

胸の奥に痛みが指す。

僕のせいであの女の人が死ぬ。

それはかなり・・・気分が悪い。


ステータスを表示させてみると彼女のHPは18/1288だった。

もうすぐ彼女は死ぬ。

僕はパーティーの元に近づくとあの詠唱を唱えた。


『システムジェネレート・マジックアイディー・エムスリー』


僕はそのパーティーからものすごく感謝された。


周りに集まっていた人たちからも賞賛してもらった。

怪我を負っていた彼女はこれ以上ないほどに回復した。

腹の傷は消え、左手は生え、失った血も戻ったのか血色も良くなっている。

それに肌にうっすら残っている古傷まですべて消えてしまったらしい。

パーティーのリーダーらしき人からは、仲間を救ってくれたお礼だといって今回の探索で得た戦利品が、すべて詰まったアイテム袋を渡された。


魔法で空間を作っているから重さはないが、途中で金貨の詰まった宝箱を見つけたらしく、中身は相当な金額になるらしい。

僕ははじめ断ろうとしたが、結局パーティーの勢いと周りの野次に負けて受け取ってしまった。


ダンジョンマスターの思惑通りになってしまったようで、気分は最悪だった。



翌日はマチルダとともにダンジョンにもぐるつもりだったが、それどころの騒ぎではなくなってしまった。

二人でギルドにつくと、やれ「S級魔法士」だの「奇跡の回復術士」「勇者パーティーの聖術士の再来」と大騒ぎになった。

その日は、ひとまず昨日のパーティーからお礼にもらったものを換金し、マチルダに予定が狂ってしまったお詫びに酒をおごって解散となった。


その後の僕はダンジョン探索どころではなかった。

病を患った貴族や、怪我で引退せざるをえなくなったSランク冒険者。

果ては王族からも招聘された。

一冒険者ではありえないほどの歓待を受けた。



回復魔法の残り使用回数は、あと1回となった。



いままでろくに金なんぞ持ったことのなかった僕が、急にありえないほどの大金を手にしてしまった。

しかも使いきっても次から次へと金は沸いてくる。

僕とどうしてもつながりを持ちたい貴族なんかは定期的に使いをよこして大金を持ってくる。

使わなければ大変な金額になってしまうため、どうにかこうにか金の使い道を考えては片っ端から実践していく。


オーダーメイドで、高級触媒をふんだんに使ったローブを仕立ててみたり、オークションで遺跡から発掘されたという帝級アーティファクトの杖を買ってみたり・・・

酒場では、たいていその店の客全員の払いを持ったりもした。


王都の高級な娼館にも行った。

たった一晩で家が建つほどの金額が飛んでいったが、あまり気にはならなかった。

それに、この頃になると女性に困ることもなかった。

中には、神の使いだとかいって信者のように僕を妄信して、娘を捧げてきた神殿長もいた。

さすがにそれは丁重にお断りさせてもらった。

ダンジョンにもぐることなんて考えもしなかった。



・・・そういえばマチルダはどうしているだろうか。



そして目下、僕の悩みは「最後の1回を動使うか」である。



これを使ってしまえば、またダンジョンにもぐって自分を鍛えなおさなければならない。

Intというのがどうすればあがるかわからないが、きっと冒険者として己を鍛えなければならないのだろうとおもう。


「実は、女神様から託されたこの力は後一度しか使えない。使ってしまえば、何年かは力が失われてしまうため、修行をしなければならない。僕は本当に困っている人にこの力を使いたいと思う」


そう宣言すると多くの人が僕の屋敷につめかけ、自分に使ってほしい、私の娘に、と連日連夜叫び続けた。

僕はすっかりまいってしまい・・・


「この力で救う人物は国王にゆだねたいと思う」


と、国王に頼ることにした。

以前国王の頼みで第二王女を救ってから、たいていの願いは聞き入れてくれるようになった。

王都に屋敷を準備してくれたのも国王だ。


結局、国王が選別したのはただの街娘だった。

国民のために大切な回復魔法を使うという【印象】のための選択だったようだ。

この娘を回復する見返りとして、僕は王国からSランク冒険者を護衛として派遣してもらい、Intを上昇させるためダンジョンに望むことになっている。


『システムジェネレート・マジックアイディー・エムスリー』


僕は最後の回復魔法を使った。






僕は今ダンジョンの中層にいる。

中堅の冒険者であれば怪我を負うこともなく、ある程度の金を稼げる階層だ。

その僕の目の前でSランク冒険者が潰れた。

瞬く間にHPが減っていき、0になる。

たまたま近くにいた冒険者パーティーは恐怖でその場にへたり込んで呆然としている。

ステータスには【恐慌】【麻痺】などの文字が浮かんでいる。

きっとこのモンスターの能力なのだろう。

その中に、僕は数ヶ月ぶりに彼女の赤い髪を見つけた。


「牛鬼・・・」


誰かがモンスターの名前をつぶやいた。

勇者の英雄譚でしか聞いたことのないモンスターが、こんな迷宮の、こんな浅いところに出るはずがない。

Sランク冒険者がありったけの即魔石に魔力を注ぎ、魔法を発動させる。

眩い光がモンスターを包み込み、耳が痛いほどの轟音がダンジョンに響く。


しかし奴はそれだけの魔法を食らっても傷の一つもついていなかった。

周りの冒険者がどんどん潰され、砕かれ、食われていく。

そして、僕以外のすべての人間を潰し終えると、モンスターは去っていった。


どうして僕だけ・・・


きっとダンジョンマスターが何かを仕組んでいるのだろう。

あいつにとって何か意味があるのだろう。

でも、僕には怒りよりも生き残ったことの安堵の気持ちのほうが圧倒的に大きかった。



周りにはまだうめき声が聞こえている。

即死を免れた冒険者が何人かいたのだ。

その中にはマチルダもいた。


体の左半分を潰されて、HPも全損間際だった。


急いでBランクの回復魔法をかけるが、やはり効果がない。




「マチルダ!ああぁ、マチルダ!僕はどうしてすべての魔法を使ってしまったんだ。一つでも残しておけば君を救えたのにっ!くそっ!『システムジェネレート・マジックアイディー・エムスリー』!!『システムジェネレート・マジックアイディー・エムスリー』!!もう一回だけで良い!でろよ!『システムジェネレート・マジックアイディー・エムスリィィィィーーーー』」




マチルダの体が、光に包まれ修復される。




「あぁ・・・よかった。使えた。君を助けられた・・・」




「おまえ、とんでもないことをしてくれたな。」




そこにはダンジョンマスターがたっていた。

しかし、なぜか彼は僕の方をみてはいなかった。

ぼうっと視線をその辺に彷徨わせている。


「と、とんでもないことって・・・?」


「今の魔法だよ。俺は8回までといったはずだ。それなのにお前は9回目を使ったんだ。これですべてが無駄になった・・・」


「これは、僕が成長して使えるようになったんじゃないのか?・・・それにあの牛鬼、あれはお前が仕組んだんじゃないのかよ。それさえなければこんなに人が死ぬことはなかった!!」


「お前のIntはまだまだ足りちゃいない。まぁ、確かにあのpopは俺の計画の一部ではあるが、ここはダンジョンだ。人が死ぬのが当たり前の場所だ。それで俺を恨むのは筋違いだろう・・・まあいい。お前、自分のステータスを開いてみろ。」


「す、ステータス?」



■ 


HP 249/584 → 248 → 247 →246

MP 48/5260




「MPがほとんどなくなってる。それにどんどんHPが減少してる?これはどういう・・・ことだ・・・」


「お前が無理に9回目の魔法を使ったことが原因だ。お前ごときのMPじゃ到底足りない魔法を使ったんだ。代償くらいあるだろう。その上、お前の魔法の行使でこっちのシステムにも負荷がかかって、かなりの行程がリセットされた。数十年の逆戻りだよ。もう、お前が育つのを待つ意味もなくなった。俺はまたダンジョンの奥で次の機会を待ち続けるさ・・・」


「工程?何を言って・・・」


「お前には関係ない。どうせもうすぐHPが尽きる・・・・・・あぁ、君に会えるのがまだ当分先になりそうだよ。でも僕は必ず君を迎えに行くからね。世界の構成を組み替えて、勇者と魔王の役割からきっと開放してみせる・・・」


ダンジョンマスターは僕ではない誰かに語りかけるようにつぶやく。


「なあ!お前の魔法で何とかならないのか!」


「もうお前に利用価値はなくなったからな。勝手に死ねばいい。まあこれくらいはくれてやろう・・・HP・MP全回復の即魔石だよ。」


「僕は・・・僕は即魔石が使えないんだ」


「お前のMPはほとんどなくなっているだろう。慎重にやりゃあ何とかなるだろうよ」


「くそ・・・やってやる!あれ?おかしいな、手が震えて・・・くそっ!くそっ!魔力を注げばいいんだ、魔力を・・・ま、魔力を!・・・ダメだ、震えちまって魔力が安定しない」




「ほら、早くしろよ。魔力を注ぐだけだ。早くしないとHPが消えちまうぜ・・・ほら、残り32だぞ。ほら、そんなに魔力を注いだら失敗しちまうぜ?あーあ・・・消える・・・消えるぜ・・・・・・・・・ほら。消えた」

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